71 眷属
◯ 71 眷属
宝箱の出現が戻ったガリェンツリーの人界では一時の混乱はなりを潜めていた。少し凝ったデザインの服は街の女性達の間で着られるようになった。お洒落服の完成版を見て作る服飾店が現れたので、良い傾向だとマリーさんは満足そうだった。
今は、綺麗な色の布を宝箱に入れたりしている。僕は相変わらずみかんの中間界で色々とやっている。リーシャンの隣でお洒落靴の制作をして、防水の効果を付けたりと色々やっていた。時々テスト勉強を見て貰いつつ頑張った。
「出来たぞ。完成だ!」
アストリューに帰ると、待ち構えていたマシュさんが改造したぬいぐるみ達を見せてくれた。猫ぬいぐるみのダラシィー 早知招来と、狛犬な感じのシェンブート、シュンザート 獅座の三体だ。
「皆、良くなってるね、よろしくね」
僕と紫月は三体にそれぞれに挨拶して抱きしめた。
「一杯遊んでね?」
紫月のお願いに頷いている三体に思わず叫んだ。
「はう、可愛い!」
これで中間界の経営が随分楽になるし、僕も少し仕事を減らせる。中断していた魔族の視察ももう一度やり直しだ。まあ、半ば諦めだけどね……。
ハイドーリアさんは時々アストリューに来ては吐いて、ここの物を食べては下していた。耐性をつけるとかなんとかで修行の一環なんだとか。そんな修行は遠慮したいが、やってるらしい。目標は半日はここにいられる事だそうだ。
「アキちゃんの食べ物は全部持ち込みね?」
「うん、僕の収納スペースに全部入れたよ。時間も設定したし、大丈夫だよ」
「じゃあ出発よ〜」
行き先は前とは違う場所だ。今回はガリェンツリーと似た感じの世界の魔族の様子を見る事になった。ここははっきりと人と魔族の棲み分けがされてるので交流はほんの少しだ。前回と同じく神界入りから始める。魔神の案内で世界の様子の一部が窺い知れた。
「ここはそんなに問題は無いぞ? 人族は瘴気が濃くて寄ってこないしな。たまに変な勇者だとかが来るけど大抵は仲良くなって帰って行くぞ? 魔王を改心させたとか何とかで報償を貰うらしい」
勇者外交があるらしい。
「はあ。別に人族を支配しようとしてるんじゃないんですよね?」
「勿論そんなの思っとらん。ちゃんと我が用意した最上の土地に満足してるぞ。大体人族は人数を増やし過ぎだ。不満が出たら勇者パフォーマンスが始まるからな。困るから止めろと言ってもちっとも止めん。これだからあの偏屈ばばあは嫌なんだよ」
成る程、瘴気をあえて濃く設定して棲み分けをしっかりとしているおかげで、本気で侵攻しようとはお互いに思ってないらしい。そういうのもありといえばありなのか……。政治的に利用するのはどうかと思うけど、大抵の事はうまくいってる見たいだ。
地上に降りてがっちりした体格の魔神に付いて行って観光案内をして貰った。
「良いんですか? 出てきちゃって」
「かまわんさ、どうせ暇だったからな。それにそれを放置するのもいかん。監視は必要だし、部下達は忙しいし、我も久しぶりに魔物料理を堪能せんとな」
ハイドーリアさんの事を睨んでから魔物料理の話が出た。
「グルメなのね〜?」
「おう、そっちのお子様はダメならしいが、そっちは大丈夫なんだろう?」
マリーさんに確認している。飲む仕草からお酒の方も聞いているらしい。
「勿論大丈夫よ〜」
にっこりとマリーさんも微笑んでいた。旅と言えばおいしい料理とお酒というのもある。けど今回は僕だけ違う物だ。
「こっちの料理も混ぜて食べてみると面白いわよ〜?」
「ふむ、試してみよう。持ち込みというからには、つまませてもらえると思っておったぞ」
途端に嬉しそうな顔でがははと笑っている。髭に付いた食べ粕も相まってゆるい感覚が伝わる。成る程、細かい事を気にしない性格は付き合いやすいかもしれない。異世界料理に興味を示している魔族神は子供のように浮かれていた。
ここの魔族は昼間はのんびりと暮らして、器用な者は家具を作ったり色々な物作りをやっていて、子供好きな人は子供達に遊びを伝授していた。
意外にもちゃんと物を作っているのは何となく作りが簡単なせいもあるのかもしれない。ザラーデさんのいるウィスターゼは機械文明だから作りにくいのは分かる。このレベルなら問題は無いという事だ。
料理は楽しむ事が好きな魔族らしく良く発展していて、調味料も充実している。ただし、瘴気で育った植物からの物なのでそれも僕には食べれなかった。濃い瘴気の中なのでマスクをしたままだ。でも、第五フィールドの瘴気よりも一段階ぐらい濃いくらいだ。
ハイドーリアさんは懐かしげな表情で魔族の街を見ていた。魔族の料理も嬉しそうに食べていた。
夜になると魔族は酒盛りをあちこちで始めた。歌って踊って楽しげに騒いでいる。時々喧嘩が始まるがそれすらもイベントの一部ならしい。僕には良く分からないノリだけどここの人達はそれで回っているみたいだ。ちょっと陽気な種属というのは何となく分かる。けどやっぱり衛生状態は悪いと思う。
「ここの木々は瘴気の中でも生きていけるんですね?」
「うむ、そのように作っているからな、強いものが揃っている。時々人族が無断で取って行こうとするので人族との境目には植物が埋まってない状態だ。人族はそれを見てここは貧困に喘いでいる土地だと勝手に思っておるみたいだが誤解も良い所だ。泥棒がいなければあの土地にも木々が生い茂っているものなのにの。歯がゆいぞ」
眉間に皺をよせている。
「それはなんて言うかダメですね?」
人族の方が良くない気がする。
「その通りじゃ」
「魔族と人族それから獣人族でしたっけここは」
「そうだな。気まぐれな妖精族は入れなんだ。代わりに我らがいるからな。それからもうすぐ三年に一度の大きなイベントがある。拳闘大会だ。自分の拳のみで戦う神聖な戦いになる。みんな楽しみにしておる。我も参加したいくらいじゃよ」
がばがばと水のように飲んでいるお酒類は、酔えてるのか分からないくらいの勢いだ。三人ともどうなってるんだろうか。
「まあ〜。それはダメよ〜」
「分かっておるがな、血がうずくんじゃよ……」
ちょっぴり背中を丸めていじけてる魔神様は可愛かったりする。
「戦闘に耐えれる場所があるなら付き合ってあげても良いけど〜?」
お酒の勢いかそんな話がまとまり始めた。
「本当か? しかしお主は闘神じゃしな、お手柔らかにお願いするぞ?」
「あら〜、遠慮する事無いわよ〜。二人で掛かってきたって大丈夫よ〜」
ハイドーリアさんと魔族神は目を合わせたが、どう考えても不利なのは分かっている。自分の得意を聞き合っていた。あー、それじゃ筒抜けですよ?
「馬鹿というか愚直というか作戦丸聞こえなのよね〜。そんなの幾ら立てても無駄よ〜、拳の話し合いでしょ〜?」
そういうマリーさんもあんまり変わらないと思う。脳筋のタイプってことかな? それともそういうものなのかな肉体言語って。神界の片隅で三人は楽しんでいる。
僕はそこでいつの間にか寝てたみたいで、気が付いたらアストリューの家にいた。勝負はどうなったのかを聞くまでもなく、マリーさんの圧勝だったみたいだけど、あの二人は足腰が立たなくなる程やってたらしい。




