64 衛生
◯ 64 衛生
魔族の街の中は壊れた窓やら汚れた壁がそのままになっていて、ゴミが溜まったままになっていたりと少々不衛生な街に住んでいた。元々瘴気が多少溢れていても問題ないのだからそのくらいはどうってこと無いみたいだ。でもなんだか僕はここの世界には合ってないかもしれないと、ぼんやりする頭で思った。
「アキちゃんは衛生的でないとお腹を壊しちゃうのね……大丈夫〜?」
「……」
僕は昨日の夜に着いた宿から出て行けてなかった。みんな同じ物を食べたのにお腹を壊したのは僕だけだった。スフォラもこの痛みには耐えれないのか不機嫌だ。変な冷や汗とともにトイレにこもっている。
取り合えずは皆の胃腸の強さが良く分かったよ。マリーさんは何で壊れないんだろうか? いつも同じ物を食べてるのに……。
「何処のお坊ちゃんですか? このくらいは他種族もそうは壊れませんが……」
トイレから出てきたら、ザラーデさんとマリーさんが話していた。ザラーデさんはハイドーリアさんの事もあるので付いて来ていた。
「日本のお坊ちゃんよ〜。綺麗好きが災いして外では抵抗が弱いの〜」
「それはなんと言っていいのか……彼と合う魔族は思いつきません」
く、確かにマリーさんの言う通りかもしれないけど……あ、来た。何度目かのお腹痛の波が襲ってきたのでトイレに戻った。でもスフォラはアストリューで作られた体だし、僕は幽霊のはず……関係はあるんだろうか? 魔族のことは体に刻み込まれた痛みでなんとなく理解した気がする。
魔族の見聞旅行は中断を余儀なくされた。帰り道にハイドーリアさんはゴミを見る目で僕を見ていたが、ザラーデさんに足を踏みつけられていた。
「まあ、アキさん。お顔の色が良くありませんわ」
急遽アストリューに戻って来て、駆けつけてくれたメレディーナさんの第一声はそれだった。
「メレディーナさん……」
目で助けを訴えると直ぐにベッドに押し込められた。と同時に問診と検査がなされた。
「まあ、随分と弱って仕舞われて……。心配しておりましたがこれは、魔物の肉を食べるのはおよしになって下さい。アキさんには合わないようですし、精神的にも参っていたせいでしょう。消化不良も起こして体の方にもご負担が掛かっているようです」
額に手を置いてもう一度、熱を測られた。魔力が体を通り抜けるのを感じながら、収まらない悪寒に震えた。
「そうだったの〜? ガッつり昨日のは魔物肉よね?」
マリーさんは隣にいるザラーデさんに確かめた。
「そうですね、魔族には必要不可欠ですから……」
ザラーデさんは何故か付いて来ていて頭を掻いている。その隣でものすごっく蒼白な顔のハイドーリアさんが涙目で震えていた。今にも吐きそうな感じだ。イーサさんが横から吐くならこれにと袋を渡していた。
「アキさんはまだ体が出来上がり掛けですし、抵抗力とかを付ける前の段階……少々きついかと思いますので口にされない方がよろしいかと。元々霊気しか無理ですし、今後も出来ましたら避けて下さい。最近は精神も不安定なのでは?」
少し難しげな表情を浮かべて、マリーさんに向かって質問していた。
「確かに良く泣いてるかしら〜」
「まあ。それはお辛かったでしょうに。もっとこちらで過ごすお時間を増やして下さいね? 食料もこちらのものを推奨致しますわ。そもそも瘴気で育ったものがアキさんに合う訳がございませんから」
少しいらだった声音が聞こえてきた。
「良く分かったわ〜。そこは徹底するわ」
マリーさんは理解したのか神妙に頷いた。ハイドーリアさんが部屋の隅に踞って吐いていた。空気が合わないらしい。分かるよ。瘴気に侵された第五フィールドにマスク無しでいるみたいなもんだね?
結局は今までの蓄積されたストレスと合わない魔物肉の食事に、体からの拒絶反応と衛生の悪さによる食中毒とがいっぺんに来たらしい。持っていた霊泉水を飲んでも中々改善しない訳だ。しばらくの静養を言い渡された。
「何か休んでばっかりな気がする……」
次の日ベッドの中で目が覚めたらマリーさんが横にいた。スフォラの本体がその横に座ってこっちを見ていた。
「仕方ないわ〜。だってこんなに弱ってるなんて、気が付かなくて……ううっごめんなさい〜」
マリーさんが泣き出した。ハンカチで顔を覆ってしまっている。
「マリーさん泣かないで。原因が分かったし対応したら大丈夫だよ。それに魔物のポーション作りも悪かったみたいだし」
猛毒と瘴気をまき散らしつつの作業だ。最後に癒しを掛けるにしてもあれも良くなかったみたいだ。色々と蓄積されたものだからどうしようもない。
「そうね〜、アキちゃんは歌って踊ってる方が合ってるわ〜。難しい事やってたらダメね」
「魔族と一緒?」
「全然違うわ〜。もっと繊細なことよ。……それよりもあそこの人達がやらないとダメね。アキちゃんはこっちの物でないと受け付けないのよ、無理にガリェンツリーの物を扱う事無いわ〜」
苦笑いしてマリーさんはそう結論づけた。でもやれば出来るのだ。放棄する事は無いと思う。
「僕があそこの物を扱うのは難しいってことなんだね……。カジュラ達が頑張らないとダメなんだね」
「そうね〜。カジュラとはまた会ったの?」
僕はこないだの話をした。
「そう。並び立つと言ったのね? 覚悟は出来てるのなら良いわ。テストね?」
「難しいの?」
「まあね〜。うちのスタッフは優秀だもの〜。生半可じゃ付いて来れなくてよ?」
マリーさんが自慢げに胸を張っていた。
「ランクSでも難しいんだ」
「冒険者じゃ無いもの。仕方ないわ〜。違う基準になるってことよ」
「それもそうだね」
あそこの運営を手伝ってもらうのなら、そうなるか。




