55 相違
◯ 55 相違
話し声で目が覚めた。
「どうなったか分かるか?」
「全然分からない」
「殴られたわ!」
「それは覚えてるがあの杖を折ったのは良くない。恩のある人に貰った杖だぞ?」
「そんなの聞いてない」
「聞いてないからってあれは不味いだろ。人の物を横からむしり取って。っていうかあいつ魔法を掛けてたろ?」
「大した魔法は出来ないじゃないの!」
「眠らせてたと思うけど……少し眠気がしてたから。杖を取った時に不味いって思ったもの」
「そんなの!」
「いきなり他所の世界の杖なんて使えないだろ?」
「あの状況でそんな事いってられない! 試さないと!」
「アキを信用してないからだろうけど、あれはお前も悪いぞ?」
「女性を殴るのも悪いけど、あそこから脱出出来たのってあいつしかいないだろ?」
「他の人かもしれないじゃない!」
「下の宿の人はアキが戻って来たのを見たって言ってたからそうだろ?」
「もう! 何なの!? むかつくのよ!」
話を聞いて遺跡のダンジョンでの事を思い出した。スフォラはまだ怒っている。ごめんね? 我慢させすぎた。僕もこんなややこしいのはもう、懲り懲りだ。
「皆、何処も痛くない?」
ベッドから起き上がって話し掛けた。皆は振り返ってこっちを注目した。
「アキ。起きたか」
シュウがホッとした表情でこっちを見た。
「お前も大丈夫か?」
永井も無事を確認してくれている。
「うん。ごめんね? 怒りで暴走して」
「ほら見ろ、杖を折るからだろ?」
シュウが倉沢さんに注意をした。
「そうだね。この杖は魔力が一定しか通らないようになっているんだ。余程のノーコンかダメな人が使うんだけど、貰ったその時の僕はダメだったんだ。でも今は必要は無い。それでも思い出の杖だから杖が必要な世界での装備に使ってるんだ」
僕は折れた杖をベッドにおいて、引き寄せの魔法を使って皆の武器を取り上げた。
「おわ?」
「キャ!」
唖然としているが無視して続ける。
「こんな風に使えるよ。皆が履いてるブーツだって僕が効果を込めたんだ」
靴下しか履いていない今なので空を飛んで部屋の中を横切る。ここには飛行の魔法が無いから分かりやすい。
「ちゃんと修行をしたら皆も使えるよ」
皆に武器を返した。
「何で黙ってたんだ」
「今日、初めてちゃんと戦闘を見たから分かった。前の時は魔法を使ってるのを殆ど見てないから分かりにくかったけど、大分不味い使い方をしているんだ」
「……そう言えば殆どアキが眠らせてたな」
「あーそう言やそうだな。魔法が早く発動するせいか?」
シュウと永井が顔を見合わせて何か悟ったようだった。
「何で緑の魔物には使わなかったのよ!」
「掛けてる途中で杖が折れて集中が途切れたから……です。魔物と言ってもあれは元が妖精だから魔力には敏感だし魔法防護もしていて隙間を狙って掛けようとしてたから時間が掛かって……」
倉沢さんには丁寧に答えないと怖い。
「でも、あんな時に殴るなんてどうかと思うわ!」
「パニックになって杖を振り回して折った人に言われたくないよ」
「馬鹿にしないで!」
なんだかイライラが移ってきた。
「もう一回殴るよ?」
スフォラが怒りをぶり返している。不味いのだ。
「倉沢、落ち着け。確かにその通りだ。杖以外をやらなかったお前も悪い。武器を使うのを考えなかっただろう?」
シュウが何かを諭すように言った。
「それは……」
「杖の許容量より多くの魔力を通そうとしても溢れてしまって勿体無いし、魔石も壊れやすくなる。それに、魔力コントロールが酷いから折角の高威力の魔法を放っても殆ど魔法に変換出来てない。折角才能があるのに勿体無いよ」
「才能は私の方があるわ!」
「そうですね。だから勿体無いって言っいるんですよ……」
何か怖い。ムキになり過ぎだと思うけど、突然言われたらそうはなるのかな。
「教えてくれるのか? 魔石が壊れるのは困る」
祐志が聞いてきた。期待の籠った目をしている。
「良いよ、何でも聞いて?」
「偉そうに言わないで!」
「皆が使えるようになったら、もっと楽に戦えるよ?」
倉沢さんとは目を合わさずに他のメンバーに言った。
「俺も使えるのか?」
シュウは自分達に言っているのに気が付いたみたいだ。
「うん。シュウなら身体強化とか出来そうだよ」
「俺は?」
期待の籠った目と合った。
「祐志は器用だし、色々出来るよ」
「私も指輪無しで出来るのね?」
パッと明るく西本さんは微笑んだ。
「うん。頼り切る事は無いと思うんだ。あれは補助だと思うと良いよ。西本さんは割と上手く使えてるから大丈夫だよ」
「俺は?」
「永井はもう、少し使ってるよね? あの槌を振り下ろすときにそんな感じだったし」
「そっか。やっぱりな。何となく体が熱いっていうか力が入るっていうかそんな感じなんだ」
「うん。倉沢さんは威力を抑えてコントロールする方が重要だと……」
ものすごい睨んできている。恐ろしいのでそれ以上は黙った。直接教えるのは止めようと心に誓った。手に負えないし、今にも刺されそう。スフォラの対抗意識も相まってサンドイッチ状態だ。無理!
その後は気を感じる所からのスタートだ。でも永井は気よりも魔力を乗せながら気を動かそうとしていた。うーん、その方が分かりやすいのかな?
倉沢さん以外に魔力を体にそっと流して様子を見ると、その方がやり易そうだった。倉沢さんは皆の手前やってはいるけど、何か違う。魔力を高めようとしているみたいだ。だけどからぶっている。
まあ、皆に教えといたら誰か教えると思うので良いや。ちょっと冷静になるのに時間が掛かるだけだと思う。
「で、明日もダンジョンに?」
答えは分かっているけれど確認した。
「いや、素材はもう良いよ。緑の魔物もなんとか倒したから素材は少ないけど頼まれてた分はあるし。リビングアーマーの全身が揃ったのが三体分ある」
「帰って来れただけでも良いよ。ちょっと欲張りすぎたな。反省しよう」
「ああ。なれない場所での戦闘は痛い目を見るからな……」
「取り敢えず帰る準備だ。魔石も新しいのが必要だし、修行もやり直しだ」
帰りの道すがらも皆は魔力と一緒に気を練っていた。祐志と西本さんは良い感じだ。永井は少しぎこちないけれども、力強い感じだ。
シュウが一番手こずっている。肩の力を抜いて無理に動かすというよりも動く物だと認識する方が良いと教えた。その後は何となく分かったのか良い感じだった。
倉沢さんからは殺気を感じるので姿を目に映さず、一番距離を置いて移動している。うん、はっきり言って鳥肌だ。瘴気が立ち上っている。おかしいな。そんなに怨まなくていいと思うんだよ? 怨念に近いものを飛ばしてくるので浄化しているくらいだ。
転移門までの二日間でそんな感じになっている。怖いので、倉沢さんの目に映らないように皆の影に移動している。声も小さくして倉沢さんに聞こえないように話した。だって、皆と話をするだけで恐ろしい瘴気をこっちに向けてくるんだ勘弁して欲しい。西本さんはそんな気の動きを感じ始めているのか僕の逃げるのを何となく理解したみたいだった。
「ごめんね? あれは良くないものって分かるんだけど」
治療の魔法を扱ってるだけあって直ぐに西本さんはそう言ってくれた。
「うん。新参者の僕がしゃしゃり出てきて鬱陶しく思ってたのに、皆に偉そうに教えてるのが嫌なんだと思うんだ。テリトリー侵害を怒ってるのは分かっているから……。魔法が出来るようになったら、メッセージで聞いてよ。僕はしばらく来ないようにするから」
「分かった。あんなに樹里乃が弱いと思わなかったな。他者を受け入れるのって勇気が要るよね。上か下かじゃなくて違いを受け入れるの。それで交流が始まるんだっておばあちゃんが言ってた。最初から仲間扱いじゃなかったから認めるのが怖いみたい」
「何となく分かるかも。フォローしてくれる? あのままだと魔石がいくつあっても足りないよ」
「うん。良い魔石は高いしそうは買えないのに壊されたらチームもやばいから……」
西本さんは苦笑いしている。転移門の前で別れて僕は神界に戻って来た。ところで西本さんは何時から見下し始めたんだろうか? 分からないな。




