52 口火
しんらいとさいせい
◯ 52 口火
シュウ達に連れられて第七フィールドに来ていた。ここではまだ栄えている王国だが、奴隷が減ったせいで陰りが見えていた。減った奴隷を補おうと、随分無茶な税金を吹っかけて人が減り続けいているらしい。
ここの世界樹の教会はタキとあんなに綺麗に埋葬したのに、また死体が増えていた。王都はもう、使えなくなった奴隷達で溢れかえっているらしい。危なくて近寄れないのだとか。崩壊寸前の王国は誰も価値を見いだせないのか、立て直そうという人は現れていないようだ。
「地方の領主とかは?」
「さあ、そこまでは分からないけど、酷いもんだぜ?」
シュウもこの話は歯切れが悪い。
「そっか、奴隷商人も心がおかしくなった奴隷は見捨ててるんだね?」
「自分達の扱いが悪くてそうなってるのに全然悪いとも思ってない。貴族とかは逆に奴隷を殺しているって、新しい神は死神だって言ってるよ。でも、町の皆は分かってる。新しい神は奴隷の解放をやってるってな。たとえ死んでも……もう、死んだ方がましだっていう扱いをされてるのを知ってたし、皆は神罰が王に下りたと思ってる」
どうやら動かなくなった状態の奴隷達を見ているみたいだ。そこから自然に命が消えて行くのだから何となく察するんだろう。
「そうなんだ。でも首輪は外さないのは何でかな?」
「さあ。そこまでは……仕返しが怖いとかかな? 気がふれてるから怖いんだろう。奴隷の方はそこまで行ったら怖いもの無し出し」
成る程、気がふれてればどんな行動に出るか分からない。安全の為に奴隷商人も首輪はそのままに捨ててるみたいだ。というか外し方を知らないとか? あり得なくはない死んでからしか取れないと言っていたのだから。
動かなくなった奴隷達は纏めて世界樹の教会に置いていっているらしい。遺体を埋めてもらえるのを聞いたみたいだ。最悪だ。思ったよりも動かなくなってる人が多い。負の感情を育てる地獄の影響が大きすぎたんだろうか?
「それで今回の依頼は第七フィールドの遺跡のダンジョンの街での素材集めだ。炊き出しの為の資金がいる」
「それは第六フィールドで受けるの?」
「まあな。色々あるんだよ。鉱山で取れた鉱石類は鍛冶師の依頼だし、今回は魔道具が出るという噂の真相を探る為に向かうんだ。ついでにここの魔物の素材も頼まれている」
意外と情報は回っているんだ。冒険者御用達の情報網があるらしい。
「魔道具は入れてるよ? 魔石の浄化が出来る奴とか明かりの道具とか」
コンロやら、冷蔵庫とか色々だ。魔法のカバンも入れてるし、トランシーバー擬きも入れている。ここの生活で使われてる物を入れてる。
「そ、そうなのか?」
「僕に聞けば良いのに……」
「いや、まあそうだったな」
シュウは思い出したように言った。
「神樹と会ってるなら納得だな」
永井は笑っている。
「ほらな、聞けば教えてくれるって言ったじゃないか。アキは割と嘘付けないから顔見れば分かるしな」
「祐志……」
なんて答えたら良いか分からないよそれじゃ。
「えー、いつの間に仲良くなったの〜?」
倉沢さんは僕達の距離が近くなっているのに気が付いたらしい。それは宝箱の中身をぼろぼろに言われたときからだ。ちょっとずつ友情を育んでいるんだけどな。
「何時からでも良いだろ? それで魔道具の作り方は後で教えてくれんだろ?」
「明かりとかコンロぐらいは出来るよ。冷蔵庫とかはまだ無理だけど……」
大体宝箱の中身制作は僕の担当だ。手伝うのは分かる範囲だけど、ガリルに聞きながら作っている。こっちの魔道具制作は何となく分かってきているけれど、複雑な物は修行中だ。
「十分!」
永井が嬉しそうだった。そういえば研究してたっけ。
「それで、これが終ったら第八フィールドの、ポーションが出たって言う噂も確かめる予定だったんだけど、それも分かる?」
西本さんが聞いてきた。
「魔力回復薬のこと?」
「そう、それ!」
倉沢さんも興味あるみたいだ。魔法職をやってるだけある。
「んー、それはもう入れてないよ。解毒剤は入れてるけど」
「えー? ポージョンが欲しかったのに……」
倉沢さんは拗ねている。
「そうだね、西本さんなら出来るかもしれないね。後でレシピを書いてみるよ」
分離とかその他は魔方陣とかの補助がいるだろうけど、微毒ぐらいまでは余裕で作れるはずだ。そこから先はちょっと業がいる。
「本当? 薬剤師かぁ。出来るなら技術は欲しいからお願いするわ」
治療魔法を通して作る事を教えたら、それは修行がいるわねと難色を示した。でも、一度はチャレンジするわと言ってくれた。
転移門から二日掛けて移動して、遺跡のダンジョンの街に着いた。王都に近いだけあって道はしっかりとしていたので移動は楽だった。着いたのが夕刻だったので、宿を取って近くの食堂に入って注文した。
「今日はおしゃべりな魔導書はいないのか?」
永井がそんな事を聞いてきた。
「うん。今日は向こうでステージの様子を見に行くって言ってたから」
またどこかのステージに呼ばれているみたいだ。アストリュー内でゆっくりと僕達のファンが増えていっている。良い事だ。
「え? 本当に歌手なの?」
西本さんも信じてなかったのか。他のメンバーの顔色を見たらまだ疑ってる顔だ。
「そうだよ?」
「嘘じゃなかったのー?」
「ポースに失礼だよ。世界が違うんだから日本とは常識も違うよ。実力があれば何でもいいんだから」
リザードマンだけの楽隊がいるし幽霊の音楽隊だっていたし、精霊の歌姫だっている。何でもありだ。
「顔も無いのに……。それに人でもないよ? いいの? それで」
西本さんは気持ち悪そうに僕を見ている。
「いいよ? 逆に何がダメなの?」
ちょっとその視線は傷つくぞ。
「ダメっていうかなんて言うか……ねぇ。そう、ね、鮎川君って変わってるね」
苦笑いだ。料理が来たので話はそこで途切れた。……また芋虫?
「ほら、食べろよ。美味いぞ?」
「シュウ、嫌がってるの分かっててやるなよ」
祐志が止めに入ったが、シュウがそれを更に止めた。
「前回の大蛇のお返しだよ。このくらいの意趣返しは許されるだろ?」
む、まだ根に持ってるのか。まあ、昔からそうだったか、ちゃっかりしていたと思う。
「魔導書が喋るとか夢があっていいじゃないか。大蛇を従えてるならすげぇ戦力だろ? 次に来れる時に手伝ってもらえば良いし、そう邪険にするなよ」
祐志がそう言って蜘蛛の肉と交換してくれたが、僕からしたらどっちも遠慮したい物だ。気持ちだけ貰っとくよ。ちょっぴり感動でうれし泣きをしつつ、鳥肉の香草焼きを食べた。ここのダンジョンで出るみたいだ。
「確かに。アキより戦力になるなら良いか。本当に大蛇を飼ってるならだけどな」
シュウはポースの力が今一疑問なようだ。前回帰り道の殆どをポースは寝て過ごしたから、疑われるのも無理は無い。
「本当だって。もう、疑り深いなぁ」
「見た物でないと信用出来ないからな」
「それで言ったら、神樹がアンデッド用の冒険者の登録がどうとか言ってたけど?」
永井が興味なさげに言った。
「ああ、あれは多分、アンデッドをおびき寄せて叩く為だってみんな言ってるぞ? あんなのと一緒にはされないだろ? さすがに無理があるし」
「違うよ。アンデッドの専用の町が出来るんだよ。ネクロマンサーが操ってるアンデッドとは全然違うから!」
「じゃあ、やっぱりそこを叩けば良いだけになるな」
ニヤッと笑ってシュウが言った。
「そうだな。暫くしたら依頼が出るだろうから、その時は……」
永井もそれに乗っかった。
「もう、だからっ!! アンデッドの保護はされるの! 決定なの!」
僕は怒って二人に文句をつけていたら、
「何ムキになってるんだよ。冗談だよ」
と、言って笑い始めた。
「引っかかりやすいな。面白いぞ!」
「人を玩具にするなー!」
僕は二人に初心者の杖で軽く牽制をしようとしたが、逆に杖を奪われてもみくちゃにされた。きー、覚えとけー! 折角真剣に話してるのに!
食事後は宿に戻って直ぐに眠った。明日の朝は夜明け前から行動だ。