49 調教
◯ 49 調教
マリーさんが新しく猫と犬ぬいぐるみを作ってくれたので、毎日一緒に妖精達の枕元において眠っている。そんなファンタジックな寝室のあるアストリューから夢の世界へと僕は旅立った。
「お兄ちゃん遅い!」
妹が文句を言ってきた。
「えーと、時間通りだよ?」
「お兄ちゃんが最後だよ?」
「そう? ごめん」
今日は妹と御門さんに沖野さんの三人を連れて新たなスイーツ店の発掘だ。当然奢らされる……。
「忙しいのに付き合わせてごめんね、二人とも」
「そんな事無いよ〜、だって奢りなら何にも文句無いもん、ね? 利香」
「そうね。甘い物を奢ってもらうのに文句は無いわ」
「そ、そう? 一応もう二人呼んだから待って、あ、来たよ」
木尾先輩と加島さんだ。やっぱりここはおせっかいをしておくのも良いと思うのだ。まあ、会った事はあると思うけど、話は余り出来てないだろうし、ね。
「うわ、お兄ちゃん、グラスグリーンの人と知り合いだったんだ?!」
尊敬の眼差しで妹がこっちを見ていた。
「そうだよ。勉強を見て貰うと良いよ。二人とも優秀だし、面倒見も良いから」
「もっと可愛い服着とくんだった〜」
自分の服装を気にしている。
「大丈夫だよ。普通でも可愛いよ」
「本当? 利香さーん。あれはお買い得かもですよ〜?」
妹の口からそんな事を聞くとは……なんだか寂しい。兄としてはあの二人ならとは思っているけどね。何か複雑だ。二人に向かって手を振って呼んだら気が付いたみたいだ。
「何度か会った事はあるから名前は分かっているし……何とかなるかな?」
「大丈夫〜! 食べ歩き会でも勉強会でも一緒だったもん〜」
「じゃあお任せします!」
「もっちろーん! お姉さんにお任せを!」
後ろで何やら話し合っているが、取り敢えずは二人に妹を紹介した。
「やあ、よろしく。兄弟だと雰囲気が似てるね」
加島さんが妹と握手している。
「よろしく。確かに似てるな、今日は可愛い女の子とのデートか良い日だ」
木尾先輩もそれに続いた。随分ご機嫌だ。
「御門さんはもう何度か会ってると思うから……」
「知ってるよ。今日はよろしく御門さん」
「こちらこそよろしく、加島さん」
何となくこの二人は良さげな雰囲気を醸し出しているんだよね……。さてどうなるやら。コーヒーの香り立つティラミスを突つきながら、フレッシュチーズの味に舌鼓を打った。
「他の勉強会のメンバーは草ブレザーは着れてるんですか?」
「勿論。あの戦闘訓練がやっぱり効いたみたいだ。理論もやらないと出来ないからね。実戦と理論両方が出来て評価が出ると分かった。後輩にもばっちり教えるよ?」
妹と御門さんに向かって木尾先輩はにこやかに微笑んだ。半分は通って草ブレザーになったらしい。
「基礎は充実してるから、そこは講師に聞いて自分の資質を追究すると良いよ」
加島さんも微笑んでいる。
「はい。頑張ります」
「不安になる事無いよ。戦闘じゃなくても他の実地をやれれば良いみたいだし」
「そうだよな。強力な暗示を掛けたり解除したりはかなり優遇されてるよな?」
「ああ。あれは繊細さが必要だからな……女性が多いし、頑張るならそっちかな?」
「モラルが問われるけど、ここに入れてるなら問題ないだろう」
「うわぁ、結構厳しそう……」
「霊気は鮎川に聞いた方が良いよ。特化だし」
「玖美は妖気と霊気が少しだから、沖野さんと似てるよ」
「お、先輩風拭かしちゃおうかな〜? 捕まえた獲物の調教はばっちりだよ!」
いや、そっちはまだ早いというか、僕のいない所でやって……。
「鮎川が心配してるぞ?」
木尾先輩が笑って指摘した。
「もうー! 乙女の会話を聞いてその顔はダメだぞ!」
沖野さんに肘で突つかれた。そんな感じで話は続いて僕達は解散した。妹の紹介も済んだし、夢縁はしばらく安心だ。
ところでトシはあの後ちゃんと一人に絞ったんだろうか? というか御門さんもトシを見かけていないみたいだ。変な事になってないと良いけど。




