4 水
◯ 4 水
管理組合の主催するマーケットがまた開催されるみたいだった。前回はシュウとの偶然の再会があったが今回はどうだろうか。会えると良いけど……。
勿論雨森姉妹にも参加チケットを渡してある。前回同様に神酒は三本だけ避けて貰っていて、二人に渡す予定だ。
当日、会場の中を見ていたら、アストリューのブースは女性で一杯だった。
今回は美容グッズが売りに出されている。勿論新作で、カシガナ入りの効果抜群のものだ。美白にサンプロテクト、キメを整え、肌を明るく美しく整えてくれる美容成分をお好みで購入時に付けれちゃうものだ。
時間で香りが変わって行く香水まである。この香水は、肌に直接付けても飲んでも良いというものだ。吐く息までほんのりと香り、香料の入っていない他の美容グッズとあわせる事が出来る。お好みの香りの調合コーナーまであったりする。
ナリシニアデレートは、今回はパスをしていた。マーロトーンは可愛い動物達のふれあいコーナーが出来ていた。うん、翼ある動物が多いのは気のせいじゃ無いと思う。
死神の組合の主催するアンデッドのテーマパークは、やっぱり今回もパンフレットを配っていた。スケルトンな死神が……。旅行のパンフレットはまた色々と集めておいた。その中にクリッパーランダ世界が入っていた。うん、外のエネルギーも集めるまでになったらしい。そう言えばやり手のお兄さんの世界にはまだ行けてなかったな。そっちのパンフレットも貰っておいた。
ガリェンツリーのブースに来た。美容ドリンクと空を歩けるスニーカーと蒸れない靴下と連絡の付けれる端末を一つと、それと同期出来るものを四つ用意した。向こうに行った元クラスメイトに渡すつもりだ。ガリェンツリーは神界か、人界にある転移門の近くでなら外の世界のスフォラと連絡がつけれるようになっている。近くと言っても十キロ圏内は大丈夫だ。魔力を込めないとダメだけど、問題ないと思う。許可が出てるのが、このタイプだけだったので会えたら渡すつもりだ。
「アキ? 良かった。会えたな」
声がして、振り返ったらシュウがいた。余り覚えてないけれど、倉沢さんが隣にいた。
「うわ〜、本当に会えたよ?」
「シュウ、え、と、倉沢さんだよね?」
「そう。覚えててくれたんだ? いやーん懐かしー」
「前は慌ただしくて余り話せなかったからな」
「今回は西本さんとじゃないんだね」
「今回は全員でこの仕事をしている。西本と祐志があそこにいるはず……」
何やら、今回はアクセサリー類が並んでいる。その下にある展示品を入れていた箱を整理していたのか、棚の下から坂本 祐志が顔を出した。西本さんは背中を向けていたみたいでシュウの呼びかけに振り返った。
「永井は便所だな」
「うん、さっき行った所だから。まだ帰ってこないよ」
「どうせサボリでしょ?」
「鮎川君久しぶり」
約一年ぶりだ。なんだかまたしっかりした気がするし、大人っぽくなっている
「西本さんも久しぶりだね。元気だった?」
「前に貰ったジャムのおかげで生きてるよ。あれ、また貰える?」
「え、とあれは今回は売ってないんだ。今回うちは美容グッズなんだ。え、と美容ドリンクを持ってきたよ?」
あからさまに気落ちした西本さんに、お土産を見せながら説明した。
「あれ、これも浄化の力が付いてるよ。見て」
西本さんがシュウに見せていた。
「本当だ。癒しもちゃんと付いてるな。お、十本入りが五つあるのか。じゃあ一人十本ずつで」
「えーと、少しずつ効果が違うから、自分に合うものにしたら……」
「良いのよ。それより命が助かる方が良いから。前のジャムなんてポーション以上の効果なんだもん、ビックリした。毒消しも付いてたから本当助かったって」
「そ、そうなの? 霊泉水も持って来る? それなら直ぐに用意出来るし」
「お願い。その間に永井君を探しに行くわよ。坂本! 留守番しっかり」
「了解」
アストリューのブースに置いてある、霊泉水のスタッフ用の飲み水の瓶を六つ持って、ついでに美容グッズセットも五つ買ってから元の所に戻った。手に持ちきれなかったので、アクセサリー型の組合の収納スペースに入れて戻った。
話をする場所に移動した。商談のスペースは邪魔してはダメなので、ここのスタッフ用の休憩室の一角を借りて話を始めた。皆は闇落ち神が荒らした後始末や手下となっているもの達を調べたり、彼らの手に寄って凶暴化したモンスター等の討伐をやったり、ダンジョンの探索をやったりと色々やっているみたいだった。
「あのジャムは食べてからアンデッドの巣窟に入ったらもう、サクサク進んで行けて。おかげで早く仕事が片付くし、毬雅の浄化と癒しの魔法が良く効くし、食べた者の呪いの防護にもしばらくの間、持続するから本当に使い勝手がよくって……」
と、倉沢さんが説明を始めた。大体それでどんな感じか分かった気がする。
「倉沢、そのくらいにしておけ。それで、このアイテムは?」
腕輪型と指輪型の端末を指さした。
「あ、うん。そっちの世界で使える端末だよ。この腕輪が本端末で、そっちの体の中の生体端末と繋がるからスキル画面? から動かせるはずだよ。僕も良く分かんないけどそんな感じだって聞いた。で、この指輪がこの腕輪と同期出来る端末だよ」
使い方と転移門との距離の事を伝えて実際に試して貰った。
「全員の居場所と状態が分かるようになるってあったけど、どう? それも距離が離れすぎるとダメだけど、生体端末の底上げをするから今までよりは良くなるって聞いたよ」
「便利だな。あのトランシーバー擬きよりも良い。メールを送るだけなのは仕方ないけど」
「そうだね、動画の方はそれには対応してなくて、静止画像ならメール内に入れれるよ。その腕輪の機能に写真画像を撮る所があるはずなんだけど……」
「あったぞ」
「うん、その機能をオンにしたら指輪の方も同じ機能が使えるはずだから。携帯を持った感じで使えるはずだよ」
「おおー、これは便利だ。文明に戻った気がする」
永井が涙目で感動していた。靴下とスニーカーはそのままシュウにだけ渡した。他の人はサイズが分からなかったので無い。自動調節とかそんな効果を付けるのはどうするのか分からない。魔法布を使うとかだろうか?
「それで、この神聖なる祈りの水も貰って良いんだな?」
一リットルサイズのを五本と、一本はお試しで皆に注いだんだけど飲もうとしない。
「良いよ。霊泉水だよ、飲まないの? 美味しいよ?」
僕はぐびぐびと飲んでいたけど、皆はそれを何か白い目で見てる気がする。
「勿体無いから良いよ。こっちの世界は聖域とかが随分破壊されてて、こういうのが貴重なんだ」
「そうなんだ?」
じゃあ、飲まない方が良かったのかな?
「それであたし達が頑張ってあちこちで調整してるって訳。ネクロマンサーが出てるから調度いいわ。これはその時に使うから」
そう言いってる倉沢さんの隣で西本さんがグラスに注いだ水を瓶に戻し始めた。う、ごめん。
「そんなの出るんだ。気をつけてね?」
これはアンデッドには火傷を起こさせるあのクッキーが要りそうだと、収納スペースに常備しているクッキーもありったけシュウに渡しておいた。いつものジュースも付けた。
「リッチとかゴメンしたいよ」
「悪神の配下じゃないんでしょ、あれ」
「違うみたいだけどアンデッドも戦地のものを集めてたから武装してるし……量がな」
そんな感じで話をして、連絡が取れるならまたなと言って別れた。その後は雨森姉妹と会ったのでお酒を渡しておいた。アストリューの美容グッズは既に購入済みだった。どうやら怜佳さんは自分で香りの調合までしたみたいで、道理でご機嫌な訳だと思いつつ、案内の人に付いて行く後ろ姿を見送った。