45 芝居
◯ 45 芝居
「怒ってる?」
「ああ、怒っている」
シュウは目を合わせてくれなかった。
「許せないわ! 責任を取ってもらうから!」
西本さんが怒りをあらわに叫んでいる。後ろからは仲間割れか〜、逃げる様な奴を仲間にするのが悪いぞ〜とかいう声が聞こえた。何となくおもしろがっている。
「あー、うん。ちゃんと同じのを持ってきたよ?」
「はあ? そんなの嘘じゃないの! カバンだって持ってないし、逃げ出して! 素材も売ってお金も使い込んだんでしょ!? 信じないから!」
倉沢さんもお怒りだった。ごめんね? 緊急事態だったんだ。
「えーと、皆はあれと戦えるんだよね?」
「力をあわせれば行けるわ!」
「良かった。一応生け捕りにしたから発散してよ。ごめんね? 次は手は出さないから」
言いながら大蛇を三体、収納スペースから引き出した。
「「「!」」」」
「シュアァァアア!!」
「どうぞ、返したよ。仕留めるんでしょ?」
「逃げろ!!」
護衛達がパニックに陥った。
「動けないぞ! どうなってる!」
商隊の人達も慌てている。大蛇が眠りながらも影縫いをしている。うーん、無意識でも出来るなんて優秀だ。
「分かった! 悪かったから、無理だから助けてっ!」
倉沢さんが叫んでいる。
「でも、あいつらは一番最初に逃げようとしたのに、シュウ達に支払いを言ったんだよね?」
後ろの護衛達を指さして聞いた。
「払ってない!」
永井が答えた。
「そうなの? 払ったって言ってたのに」
おかしいな、それなら何でそんな嘘をつくんだろう。
「向こうだって自分が倒せないの分かってるんだ。言うだけで本当には払ってないよ」
「じゃあ、要らなかった?」
「要らないよ! 悪かった。でも依頼をほったらかして行くなんて、懲らしめないとダメでしょ?! ちゃんと契約を重視してもらわないと困るんだから!」
近寄ってくる大蛇に体を動かそうとしつつ、倉沢さんに涙目で訴えられた。
「それは悪かったよごめんね?」
なんだそれならそうとはっきり言ってくれれば良かったのに。僕だってあんな緊急事態じゃなかったらほったらかしたりしないよ?
「頼むから、止めてくれ!」
僕に向かってシュウが頼み込んできた。
「でも、彼らの嫌みは止めないと嫌だよ。だって、独り占めしようとしたんじゃないし。要らないならちゃんと森に帰してあげないと、蛇も可哀想だよ」
「うわぁぁぁっ」
大蛇が護衛達の顔を舐めている。永井と西本さんも蛇に囲まれて気を失いそうな顔をしている。
「ひっぃいぃぃっ!」
まあ実は僕の眠りの魔法で大蛇は操られているだけだ。仕方ないので大蛇達に森の巣に帰るように言って戻ってもらった。
「あれのもっとすごいのと契約してたんだ」
僕は帰り道に、ここを放置した後の話をシュウにしていた。大部分が端折られているが問題ないと思う。どうせ説明は苦手だ。
「そうなのか、ポカレスってすごいんだな?」
「うん。もう二度と無理っていうくらいの大物を捕まえてたんだ」
「へえ……」
他の皆は冷たい目線しか帰ってこなかった。反省してるよ。もう依頼の途中で抜けたりしないから許して?
とっておきのおでんを皆に配って機嫌を取りつつ、もうしないからと何度も謝った。でもちっとも信用してくれなかった。余程彼らに言われた嫌みが応えたんだろうか? それにしても悲しい。
護衛の皆はあの後は仲良くしてくれていて、パーティーに誘ってくれたり気さくに声を掛けてくれて距離が縮まった気がする。
「皆、すまない。アキに分からせようとするのが間違いだったんだ。あの通りに悪気は無かったんだ。それに無事に帰ってきたし、迷惑かけたアキに変わって謝るよ」
「なんだか釈然としないけど、シュウが言うなら仕方ないな」
「シュウ、あいつダメだぞ? 結局行き帰りの護衛しかしてないけど、団体行動がとれない奴だろ?」
「確かにそんなところは時々あったけど、あそこまでは無かったんだ。誰かの影響でも受けてるのかな?」
「そうなの? はあ〜。鮎川君の更生はじっくりやるしか無いわね」
馬車の影からそんな話が聞こえてきた。なんだ心配してくれてたんならあんな変な芝居なんてしなければ良いのに。ややこしくなるだけだよ。もう! 皆、素直じゃないんだからっ!!