38 登録
◯ 38 登録
「アキ、来たな。じゃあ、登録から始めるか」
待ち合わせの転移門の前で待っていたらシュウが歩いて来た。何か冒険者って感じだ。あちこち金属を貼付ている服を着ている。僕は……一応ここの服装をしている。普通の町人な格好だ。いつもの初心者の杖は持ってきている。ここでは杖装備が普通だからだ。
「登録?」
「ああ、冒険者登録をしてないとダンジョンには入れないし、他のアイテムの換金も出来ないからな」
「へえ」
シュウに付いて行くと如何にもな木造の建物に入って行った。中は酒場にはなってはいなくて、カウンターがあり、お役所か病院の待ち合いみたいだった。奥には訓練所なんかもあると説明された。
「こっちの人の登録をお願いします。で、うちのパーティーにしばらく入るのでその手続きもやって貰えますか?」
シュウが受付嬢に頼んでくれた。
「分かりました。初めての方ですね。こちらの項目にご記入して下さい」
三つある窓口の内の一つに並んで登録を済ました。記入は名前と年齢と得意分野だった。アキ、17歳、治療魔法と書いた。事前にシュウに聞いておいてよかった。得意分野って何か聞く所だった。何か水晶の様な物が付いた魔道具に手をかざして魔力を込め、カードを作った。
「それではこちらが冒険者のカードになります。無くされますと三千ガリュを払って頂きますので気をつけて下さいね。後の説明はどうされますか?」
受付嬢はシュウに聞いている。カードには名前と治療師、ランクG 預かり金0と書かれていた。
「俺がしておくから良いよ、パーティーの方は?」
「はい、完了しています」
何となく丁寧で良い感じだ。
「ありがとう。じゃあアキ、行こうか。説明は行きながらでいいだろ」
と、そんな感じで登録は済んだ。シュウが通ると周りの冒険者が軽く会釈したり声を掛けてきたりと、なんだか有名みたいだ。
「よう、また新人を育ててるのか? 相変わらず面倒見が良いな」
町の途中で会った髭のおじさんが声を掛けてきた。
「まあな、ジャンデさん。後で店に行くよ」
「おお、久しぶりだな? 待ってるぜ」
そう言っておじさんは荷車を押しながらどこかに向かった。
「あの人は町の食堂のおじさんだ。今日の稼ぎの後はそこで食べようって言ってるからな、旨いから期待していいぞ」
「おおー、それは楽しみだよ」
この町はダンジョンが近くにある為に冒険者が多く集まる場所ならしい。酒場が近いと喧嘩の元なのでわざと離れた位置に作ったギルドなのだとか。
他のメンバーは防具や武器の調整に行っているみたいだった。町の門の所で十分程待ったら皆が歩いてくるのが見えた。
「今日の獲物はボスよね」
倉沢さんがダンジョンまでの乗り合いの馬車の中で確かめていた。
「ああ。治療の使い手が二人いるんだ。遠慮無しだ」
シュウも気合いを入れていた。
「良っし! 張り切るぜ!」
坂本も嬉しそうだった。
「またあのサンドイッチ出ないかなー」
倉沢さんが物欲しそうな顔で呟いた。
「俺はおにぎりが出た方が感動したぞ! シャケと昆布だった!」
永井が涎を拭きながら力説している。
「確かに。米なんてもう食べれないと思ってた」
そんな話を聞きながら、僕は焦っていた。そうか、ここの世界にはおにぎりは合ってなかったかと言う事に気が付いた。反省しよう。まあ、食文化は今日で少し分かる。
「食べ物は少し増えたんだって?」
「そうなのよ〜。何か、世界樹から歌が聞こえたと思ったら、植物が急に成長し出してビックリしたよ?」
「あれはすごかったね。神樹の話だと新しい神のお力だって言ってたけど、あれは感動したよ」
世界樹から神樹であるアイリージュデットさんと連絡が取れるみたいだ。
「ハーブ類はすぐに育つものは元々一週間で育つからそれが半分くらいで育ったんだよ? 皆、軌跡だって言って喜んでたよね」
「へえ、そんな事があったんだ」
そう言えばアイリージュデットさんもあのとき歌ってたっけ。それかな? 意外な効果があるみたいだ。時々一緒に歌えるように紫月達とも話し合おうかな。世界樹の力も元にまでは戻っていないけれど随分良くなっている。
「今日はお昼ご飯は僕が用意してるから皆で食べてね?」
「よっし、日本食!」
「リクエストだったから一応は持ってきたけど、食べたら余計に欲しくならないかな?」
「良いのよ! また来て貰うだけじゃない? 大丈夫、外の物は他には食べさせないから、ね?」
「うん。分かったよ」
そんな事を話していたら三十分程でダンジョンの入口に付いた。地下に広がる洞窟のダンジョンだ。普通の動物や植物が魔物化した物は魔核ではなく死体が残り、その素材はギルドに売るとお金になるらしい。魔核は教会に持って行かないと使えないし、何か分からないのでギャンブルだと言う。
「魔石の使い道って?」
「魔道具にするのが多いんだ。ギルドでもカードを作る時に使ってただろ? あんな感じだよ」
「永井は頑張って開発しようとしてるけど、難しいみたいだ。このランプとかもそうだよ」
「へえ、魔石が燃えてるね」
「ああ、火の魔法が入ってる。トーチとして使えるから良い感じなんだけど、ダンジョンじゃ魔物に狙い撃ちにされる。だから、斥候として暗闇が割と大丈夫な祐志が前を歩いて、これは足下だけ見えるようにカバーをかける。戦闘になったらカバーを外す。暗闇は大丈夫か?」
「うん、よく見えるよ」
「見えるって暗視が出来るのか?」
「うん。出来るよ」
「そうか、じゃあ、後ろの確認を頼む。今までそれが出来てなくて苦労してたからな」
「ああ、危ない事が何度かあった……」
永井が思い出してかちょっと震えている。そのまま進んで何度か戦闘があった。コウモリが飛んできては行く手を阻まれた。人ぐらい大きいコウモリはそれだけで十分怖かった。生き物の気配なら僕の方が分かったのでシュウの隣で先頭を進む事になった。
「意外……」
小さい投げナイフを片手に西本さんが驚いた表情で僕を見ていた。僕は西本さんの投擲の正確さに驚いている。腰には短剣がぶら下がって腕は丈夫そうな金属板が付いた防具が光っていた。
「確かにな。鈍そうだから分からないと思ってたよ」
シュウも意外な僕の特技に驚いていた。シュウは少し細身の剣を片手にもう片腕には盾を着けている。
「コウモリよりも分かるんだな」
「というより、コウモリが放ってくる音波が分かる感じだよ? 芋虫はカチカチ言ってるし、蟻は大群じゃないからましだけど、大きいね。ギリギリとか動くと音がしてるし」
さっきからそんな気持ち悪そうなものが一杯だった。その方がもう神経がやられて一杯一杯だ。
「そうだろ? 蟻というかサソリみたいなはさみとか付いてるし、何か違うよな」
坂本も納得してないみたいだった。槍と盾を持って腰には小さいめの剣をぶら下げている。
「もうすぐボスだぞ」
ボスと言っても毎回同じでは無いみたいだ。
「宝箱にあたってないよ〜」
「確かに。そんな日もあるって」
ボスは蜘蛛だった。八つの目が並んだ巨大蜘蛛で真っ赤に光った目が恐ろしかった。それもやっぱり足に棘が沢山付いていて鋼のように硬かった。体も剛毛で覆われていて、弱点と言えば睨んでくる目とか首の辺りだった。それも三体も出てきた。僕は余りの恐ろしさに途中で耐えれなくなって眠りの魔法を掛けまくった。まあ、例のごとく全員眠っちゃったけど、問題ないと思う。皆を起こしたら、直ぐに止めを刺していた。たくましい。
「あー、何? この不完全燃焼な気分は」
倉沢さんが口を尖らせて言った。魔法の杖を今にも僕に向けそうだった。
「そういうな。安全な狩りが出来たじゃないか」
素材の剥ぎ取りをしながらシュウが笑ってる。皆は蜘蛛の巣を慎重に集めている。何の素材になるんだろうか。聞きたくないような、聞いた方が良いのは分かっているがどうも勇気が出ない。
それでも思い切って聞いたシュウの答えは良く伸びるから加工してゴムのように使うのだとか。そっか、トーイの木の実と似た感じか……。世界が違うとこうなるんだね。他の種類の蜘蛛の糸は布にしたりと色々と用途があるという。
「魔石の出る魔物には会わなかったね」
「あー、それはこの奥ぐらいから出るんだ。思ってたよりも早く済んだからここでお昼休憩だな」
「待ってました!」
僕はみそ汁とおにぎり、それから煮物と漬け物を出した。日本茶を入れて渡したら、皆はがっついて食べていた。
ボスの部屋を出たら、宝箱を発見した。
「これが宝箱?」
「任せて〜、罠は?」
「無いな」
「まて、祐志そっちのは?」
「おっと見逃してた。いや、これは大丈夫だ、問題ない」
「じゃあ、開けるぞ?」
坂本が開けた。皆が覗きこんでるが、カチカチと言う音が聞こえる。
「あー、芋虫が五メートル程向こうに来てるよ」
一番嫌な奴が来た。もう会いたくない。
「了解。何? またへたくそなアクセサリー?」
宝箱の中身だ。
「だな、でも一応癒しの効果付きだぞ?」
「はあ、もうちょっと考えて欲しいわね……」
う、へたくそなアクセサリーって僕の作った物だ……悲しい。もう宝箱止めようかな。廃止の方向にしよう。
「まあ。これでもここの文化からしたら良い方なんだから贅沢言うなよ倉沢」
「ああ、日本が恋しい。こんな大雑把なのじゃなくて繊細な細工がされてるのが良いの! 可愛い服だって少ないし」
それは宝箱に求めない方が良いと思う。芋虫と戦いながら皆が不満を魔物にぶつけていた。日本食を食べたのがやっぱり良くなかったんだと思う。今度からは持ってこないようにしようかな。
「何だ? 鮎川大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ……」
「何か知らないけど、落ち込むなよ?」
「ありがとう坂本」




