31 反乱
ふりょうなるいさん
◯ 31 反乱
新しいスフォラは本体も変身能力が付いていた。分体は更にすごい事になっていた。空飛ぶマシーンになっていた。聞いても良いだろうか、可愛いペットはどこに行ったの?
「スフォラに掛かれば『カジオイド』もああなる」
と、マシュさんは大いばりだった。何か大量に『カジオイド』を納品させられたとは思ってた。一ミクロン、ナノ単位、分子単位だか知らないけれど、スフォラが『カジオイド』を管理してくれる。僕の作った動力とも相性は良いのでもうこれで行くと決まったらしい。注文制にするからせっせと作れと言われた。キロ単位で注文されても困るけど、みかん箱の部屋で作れば良い感じに作れる。しばらく籠る事にした。
「リーシャンありがとう」
みかん箱で仕事をしていたら、リーシャンがご飯を運んできてくれた。調度良いのでそのまま食べた。
「リーシャンは何か食べるの? というか何で動くの? 念いだけ?」
返事は良く分からなかったけれど、マシュさんの実験はその辺の事みたいだ。スフォラと同じなら本体は食べてるのだし、リーシャン達も食べるのかと思ったのだけど、違うらしい。
「ごめんね難しい事聞いちゃって。でも、実験なら色々データを取ってそうだね」
リーシャンが頷きウサ耳が揺れる。今日は片眼鏡を掛けた紳士な服装で、ワニ革の靴とかベルトが目立つ。
「ワニ革の靴似合ってるよ」
リーシャンは頭を掻いて照れている。食べ終わった食器を下げてくれた。続きをやったら地球の家族に会いに行こう。そしたらその後はシュウに会いに行く準備をしなくちゃ。
スフォラに分体は動物にして貰っている。大型のフサフサのトラだ。白に銀色のトラ模様がきれいで仕事の合間に毛皮を堪能している。スフォラがすごくなったので、僕は置いてきぼりな気分を味わっていた。
「うう、持ち主が不甲斐ないとスフォラが頑張らないとダメだからこんな事に……」
スフォラからは僕の作った物が自分を育てたと帰ってきた。
「……そうとも言えるのかな。そうだね。スフォラが良くなれば他も良くなるし。うん、いじけてる場合じゃないね。頑張るよ」
そうだ、スフォラの成長を素直に喜ばなくちゃ。ところでさっきの空飛ぶマシーンは『スフォラー』事業にオプションに付ける予定なんだろうか? なんとなくそんな気がする。世界は限定されそうだけど、使える所はあれを使って移動してみよう。
「スフォラ、かっこ良くなったね」
スフォラから嬉しいという感情が返ってきた。
「魔法も色々出来るようになったの?」
どうやら今までの力も強力になったらしい。他には一通りの基本魔法が加わって便利になったみたいだった。まあ、僕の実体化が近い事もあり、スフォラの体からの卒業も直ぐだろうと言われている。スフォラの本体の変身機能はその為の準備だとマシュさんが言っていた。ところでその時はどうやってスフォラと繋ぐんだろうか、楽しみだ。
地球の家から帰ってきて、クッキーを焼いていたらレイが不思議そうに聞いてきた。
「こんなに持って行くの?」
「うん、何か霊力? 聖なる力が足りないからクッキーでもジャムでも良いから欲しいって言われたんだ」
「それ、何処だっけ?」
「ガリェンツリーって名前だよ」
「そう、ちょっと調べるよ」
「うん」
レイはどこかに行ってしまった。僕は水筒に水を大量に詰めた。小さな大きさにも関わらず、十リットルはいるタイプだから随分運べる。それを三本用意した。ついでにジュースも詰めてファンタジーゲームチックなファッションに合いそうな空を歩けるブーツを送られてきた五人のサイズを見ながら用意した。自分達の出してる通販のを自分で買う事になるとは変な感じだけどまあ良いか。
クッキーと水とジュースとハーブティーにジャム、美容ドリンクと温泉の元にさっき買った靴がお土産だ。それにいつもの自分用の食料に念のために魔法の杖も入れておいた。季節は同じく冬場だし、寒いと困るので厚手のコートとマフラーに手袋を用意した。後は自分のブーツかな?
ガリェンツリーは星ではなくて箱庭的な世界だった。フィールドごとに分けられそれぞれを繋げてガリェンツリーの神界が管理していた。
転移門のある場所ごとに別れていると思っていいみたいだ。大陸移動も門を使ってでないと無理なのは海では繋がってないからだ。同じ理由で樹海も繋がっていない。ユグドラシルというか世界樹がフィールドごとにあるらしい。一番大きい世界樹が神界を支えているのだとかなんとか? 聞いていて理解出来なくなったので、ゲーム的な感じだとマシュさんが教えてくれた。了解しました。
ゲームのように透明な壁があって行き止りとかでもなく、登れない山が出てくるとかでもない、迷って元の位置に戻る設定みたいだ。
僕のみかん箱の部屋を沢山繋いだ感じだとの説明が一番しっくりきた。そのみかん箱を繋げて管理している姿が大きな木の姿にも例えられるみたいだ。実際に神樹が神界には生えてると聞いた。それが世界樹の元の木で、エネルギー管理はそれで行われているのだとか。レイが何度か神樹にあった事があるらしい。
神格化した木の精霊だと説明された。ところでたった半日程行くのにそんな事を調べて資料を見せて教えられても何をしろというのだろうか?
「うん、久しぶりに繋がりをたどって声を掛けたら苦労してるみたいなんだ。詳しくは分からなかったけど、これを渡してきて欲しいんだ。アストリューの神官として冥界経由で行ってきてくれるかな? 神樹であるアイリージュデットに許可は貰ってるから大丈夫だよ」
レイの長い説明はどうやら僕が神官としてそこを尋ねる為の知識の準備だったみたいだ。確かに箱庭の世界は初めて行く。
「前振りが長いと思ったよ。じゃあ、神官服を着て行くよ」
「うん、よろしくね?」
「伝言は?」
「落ち着いたらまた会おうって言っといて」
「分かったよ」
そんな訳で僕は出発する事になった。冥界にある死神マークの門をくぐって死神の組合伝いにガリェンツリーの場所に向かった。まずは神界の神樹を尋ねる所からだ。神界に繋ぐので少し時間が掛かったが、審査が通ったらしく転移が始まった。アストリューの美容ドリンクを大量に持ってきたけど神樹には要らなかったかな? 霊泉水の方が喜ぶかもしれない。まあ、他の神々に渡してもらえば良いか。気にしないでおこう。
神界に着いた瞬間、変なシステマチックな声が響いた。
ー 上位機種上位機関上位生体を確認。条件を満たしました。アイリージュデットより許可が出ましたので移行します ー
スフォラが電撃に打たれたような驚きを伝えてくる。ついでに僕にも良く分からない感覚が襲ってきた。
ー 移行が完了しました。新しい管理神として登録されました。よってこれまでの登録を全て破棄致します ー
「何だそれ? あうっ!」
僕は美容ドリンクを足の上に落としてしまった。痛い。夢ではなさそうだ。何が起ったんだろう、スフォラ、分かる? 頭の中で呼びかけたが、当然スフォラにも意味が分かってなかった。
「意味が分からない。とにかく神樹のアイリージュデットさんに会いに行こうか」
取り敢えずは場所を確認しなくちゃ。と思ったら直ぐに分かった。ここのシステムと繋がったらしい。便利なのかなんなのか。まあ良いやなんかの間違いだ。レイには伝えておこう。スフォラに連絡をして貰って神樹の所に向かった。レイから速攻で連絡がきた。
「何でそんなものを押し付けられてるの!」
「知らないよ。って映像届くようになったんだね」
「神界は大体届くよ。で、ジュディはどう言ってるの?」
「もうすぐ着くよ。転移門を通ったら直、ぐ……」
息を吸い込んでそこの惨状を目にした。ひいぃぃっ、四肢が散らばってる! でも動いてるからまだ生きてるみたいだ。緑の血が流れている体を起こしてこっちを見ている目と合った。笑ってる?
「ジュディーっ、しっかりして!!」
画面越しのレイもパニックだ。
「すぐに止血をしないと!」
僕はすぐに四肢をくっつけるように光の包帯で巻きながらありったけの力を注いだ。手が震えてうまくいかないけど、美容ドリンクも無理矢理飲ませてみる。増血は無いけど血を綺麗に保ってくれるし、ってこの人、人じゃないけど効くかな?
霊泉水だ! 大量にもってきているからどんどん使った。そばにある木が枯れかけている。それにも水を掛けた。レイからそっちに行く許可を求められたので即座に許可を下ろした。スフォラがシステムを伝って適切に処理してくれ、直ぐにレイが駆けつけてきた。管理組合からの訪問はここ最近は許可が下りないでいたらしい。
「ジュディ、何があったの?」
「賭、け、に勝ったわ……」
アイリージュデットさんがレイの姿を見てホッとした表情を見せた。
「どう言う事? ああもう、聞くのは後で、治療をするから!」
レイが力を注ぎ始めた。僕も木に注ぐように言われたので残り少ない力を注いだ。気が付くと、マリーさんが毛布をかけてくれていて隣で不安げな顔を神樹に向けていた。力を使いすぎたらしい。
「どうなったの?」
マリーさんに聞いてみた。
「反乱を起こしたのよ」
「反乱?」
「命と引き換えね。覚悟を持っているわ。解体されても文句も言わない。そのくらいの覚悟よ。神としてのすべてを賭けた戦いね。こんな小さなチャンスを繋いでよく頑張ったと思うわ。でも、これからの方が大変よ〜」
どうやらアイリージュデットさんは、管理神の交代を望んでの仕掛を少しずつやっていたみたいだった。たとえ裏切ったらさっきのように四肢を切り落とされると分かっていてもだ。世界と心中してでもそんな事を望むなんて何があったんだろうか?
「地獄の門が出来てるんだ。ここでは大人しくしているけれど、他の世界に向かって侵略行為をする悪神達を生み出し、世界を混乱に導いている元凶だったみたいだね」
深刻そうなレイを見るのは久しぶりだった。マシュさんも駆けつけてきてくれていて、データを見ながら渋そうな顔をしている。
「スフォラのデータからここの管理状態が分かった。冥界を間に入れていない地獄の門が二つある。中間界を入れているから分かりにくいけど、汚染がこっちに広がってるのは確かだ。神樹があれだけ元気が無いのもそのせいだ。あの状態で世界のエネルギー循環なんて無茶をしている……地獄と手を組んでる訳でもないが、利用してここの世界の力を強くして行ってるつもりだったらしい」
マシュさんが良く分からない説明をしてくれた。既に二つのフィールドの世界樹は枯れてしまっていて、そこに地獄の門が繋がっている。
「実際は存続不可能なくらいには力が落ち込んで行ってる。ブランダ商会の言う事なんて信じたらダメだよ。それこそアキが管理神をやっても良いくらいに落ち込んでるんだ。みかんの部屋と変わらないよ」
う、それは確かにおかしいかも。
「アキ=スフォラで登録されてるからスフォラも入るな。上位生体って多分二人で一つだったからだろう」
まだ推測だが、とマシュさんが色々と調べてくれている。
「そう言う意味なら、許可が下りたのも分かるよ。管理神と他の神々が留守の時を狙い、神僕を使ってアキを呼び寄せたんだよ。アキの持ってる端末がここのよりも上位でアキがここの管理神よりも上位でスフォラのシステムが上位なら移せるという確率の低い賭けをしたんだよ。それでないとシステムも頷かないだけの思考を持ってるからね。これでここの管理システム丸ごと移行が出来た。それに繋げられてるジュディもアキとスフォラに管理される者になった。……でも裏切ったから制裁が勝手に下る呪いが発動してあんな事に。あれじゃ奴隷と同じじゃないか!」
レイはアイリージュデットさんの境遇に怒りを覚えていた。確かに強制的に言う事を聞くようにしたり、あんなになるまで酷使するなんて……酷過ぎる。
「そうねぇ、これを作った奴らが何を考えてるのか……嫌だわ〜」
マリーさんも深刻な顔をしている。
「まあ、こんな仕掛は解体はするけどな。新しい物と変える必要がある。が、交換出来る様な物が無い、金もない、エネルギーは枯渇して解体を待つばかりの状態だ。それの金もない。アキのポケットマネーでやるかだな、足りないだろうが……」
憮然と匙を投げたいとばかりにマシュさんが言った。コーヒを飲んで、更に続けて衝撃の事実を教えてくれた。管理神である僕でないとダメみたいだ。ここの管理神として組合に借りるか……借りれるのかも分からない。
「まずは地獄の門と中間界の間に冥界を挟むつもりだったが、中間界にここの神々が揃ってるのが分かった。ここが新しい管理神の管轄になった為に戻って来れないようになっている」
「中間界に何しに行ってたの?」
そんな危ない所に集まって何があったんだろう?
「知らないよ。地獄の住人と会ってたんじゃないの?」
「ブランダ商会の案内で取引があるから向かったみたいだね。中間界を出してるのがブランダ商会という事はきな臭い話でもしてそうだね。ここまで崩壊寸前だと話し合いというよりは乗っ取られる可能性が高いよね。綺麗に消すつもりかも」
「じゃあ〜、冥界は中間界とここの世界の間に入れちゃった方が良いって訳〜?」
地獄、ブランダ商会の中間界、冥界、そして新しい中間界、人界、神界の順番だ。
「その方が無難だね」
「早速交渉しないとね?」
「え?」
「管理神さん?」
レイのにやり顔に肝心の事を思い出した。
「あぁあ!?」
その後、皆にせっつかれながら管理組合と死神の組合にヘルプを出した。直ぐに使者が来て話し合いが始まり、即決で冥界の介入が決まった。エネルギーは借金で。僕の死神のポイントも管理組合の神力ポイントもガッツリとマイナスになった。恐ろしい取引だ……。視界が歪んでサインする手が震えた。
更に僕のみかん箱の空間が出動になった。中間界は僕のを使い回す事に決定した。初めての中間神としての仕事があてがわれた。これでガリェンツリーは地獄から隔絶された。ちなみにこれはただで動かせた。だって僕の空間だしね。こじんまりとした中間界に死神が何度も不安げな視線を投げ掛けてきたが、そんなの知らない。
三つ分のみかん箱の空間を繋げたものを作り、それを冥界の門と繋げて完了した。こっちの神界とみかん箱は繋げてある。普通はフィールド(人界)に繋ぐけど、そこに悪神が潜んでいるのだから意味が無い。
みかんの中間界が完成した。門には即席でみかんの絵を描いた。みかんの中間界のみかん神のデビューだ。……多分僕が一番不安だ。




