2 一線
◯ 2 一線
久しぶりに地球の家に帰ってきた。こっちでは結局、一週間ぶりになった。予定外の連絡とか、董佳様と話し合いとか、色々したので三日後に繋ぐのが難しくなりこうなった。まあ、仕方ない。
「で、UFO、怪現象、幽霊同好会のメンバーに会いに、何で僕は連れて行かれてるの?」
トシについて歩いて行く先に疑問があるので聞いてみた。
「いやあ、ミステリー研究会の部員に、利香ちゃんと一緒にいたら絡まれてさ」
そもそも、僕が行っても何の解決にもならなそうだけど、何を考えての行動だろうか?
「どうしてそうなったかが、説明されてないけど?」
「それが……」
どうやら、話を聞かれたらしい。幽霊でいる僕の話をしていたみたいだ。そこで収拾がつかないくらい言い合いに発展したのは、偶々近くに居たUFO、怪現象、幽霊同好会だった。
御門さんが機転を利かせて、懐かしい人の噂をしていただけだ、と言っているにもかかわらず、両方の部に挟まれてにっちもさっちもいかなくなったみたいだった。取り敢えず、僕が行く意味はなさそうなんだけど……。まあ、久しぶりに陽護さんと会う約束をしているから、学校に来るのは良いんだけどね。
「それでさ、あれだけはっきりといるって言うからには、見えるんじゃないかって利香ちゃんと話してたんだよ」
利香ちゃんと呼んでるけど、御門さんとは付き合ってはいないらしい。なんせ、本人の前では決してそんな風には呼んでいないし、どう見ても嫌がられていると思う。怒らせているというか……。面倒を掛けている気がする。勘違いしているのか親しみを持っているのか分からないけど、少し胃が痛い事だ。ストーカーしてないだけましだと思っておこう。
「確かにそうだね、見えると良いけど。そんなところに乱入して余計に混乱しない?」
「だから、メンバーが帰る時で良いよ。外で待っててくれよ」
「まあ、そういう事なら……。どのくらいで終るの?」
「あー、分かんないけど、今日の会合はうちの教室だよ」
2−3と書かれた教室に入った。懐かしい感じだ。ちょっと泣きそうだ。御門さんが中で参考書を読みながら待っていた。
「久しぶりだね。相変わらず迷惑かけてごめんね?」
トシの様子からしたら多分、迷惑をかけていると思うのだ。それとも、トシの望んでいる少しは進展があったんだろうか?
「そうね。鮎川君のその誠実な謝りがなかったらやってられないわね」
相変わらず厳しい。けど、面倒見が良いのは感謝している。こんなでも見捨てずになんとかフォローしてくれてるのだから。
「夢縁の方はどうかな?」
「思ってたよりは何とかなってるわ。意外と丁寧で分かりやすい講義内容だし、自分の資質とも向き合えるのが良いわね。図書館も呪術祝術の詳しい本が揃ってて調べ物にも困らないし、沖野さん達も親切で不自由してないわ」
うん、良かった。基礎はわかりやすい内容に少しだけ変更があった。眠りの講師は空草のブレザーの講義をまかされるようになっていた。少し高度な授業内容を教えているみたいで、眠りによる脱落者は増えているみたいだ。春の講師向けの実力テストでは、空草ブレザーの授業を受け持てるだけの実力があったのは間違いがないみたいだ。まあ、眠りへの抵抗を付けるだけでも講義を受ける価値はある、と怜佳さんは苦笑いしてた。
要は基礎の受講生には辛すぎたと判断されたみたいだ。基礎の基礎も知らない金枠以外の生徒の成績が伸びないのは、彼のせいだと雨森姉妹が声を揃えたので、出世が決まったようだ。
「トシは夢縁はどうなの?」
そういえば余り聞いてなかったな、と横を向いてトシの顔を見た。
「勿論、余裕だぜ!」
表情が台詞を裏切っているようだ。分かりやすい。
「後で僕がチェックしてあげるよ」
優しく言ってあげたらホッとした顔で、
「……頼んだ。さすが親友だ分かってくれるんだ」
と、嬉しそうな顔になった。助けが必要なのは分かってるから。
「泣かなくて良いよ。僕も皆に助けてもらって何とかなったから」
「そうね、後輩を教えて行くのは、自分にも良い事だというのは分かるわ。将来の助けにもなれば、仲間として一緒にやって行けるかどうかの判断も分かりやすいのが良いわね。かっこを付けて成田さんの申し出を断ったりするからそうなるのよ」
成る程、イケメンへの対抗心に勝てなかったのか。……仕方ない、トシには苦痛だろうから僕が頑張るしかない。ただ、闘気って僕には扱えないんだよね。トシはそれと霊気が少し扱えるからそっちしか無理だな。闘気は加島さんにでも頼んでみようか、あの人もなんだかんだ面倒見が良いしね。
暴露されて居心地の悪そうなトシを見ながら計画を立てた。
「そろそろ来そうだから、僕は外に出るよ?」
「ここに入ってくる段階でも良いわ。表情で分かるし、その、反応を見て今後の参考にしたいの」
「そうだったんだ? なら分かったよ。ここで待ってた方が分かりやすいね」
どうやら、御門さんは才能が開花中で、人の気分とかが少し分かるらしい。心が読めるとかじゃないけど、オーラの感触で近くにいる人の大まかな感情が伝わるみたいだ。それで、自分もそれに影響を受けたり、逆に影響を与えたりが何となく分かるらしい。話をして通じ合う感じを知ると、嬉しいと言っているので、沖野さんの影響も受けてそうだなと思う。あの厳しさは自分の戒めでもある様な気がする。そして裏返しに優しさも入っているんじゃないかなとも思う。なんていうか人の事も見れる余裕を感じる。
教室の空いているドアから、吉沢が入って来て、その後に二人が入って来た。どうやら先に来たのはUFO、怪現象、幽霊同好会のメンバーのようだ。万年募集をしているだけあって、部員数は四人だけならしい。今日は一人少ないけど、多分時間が取れなかったんだろう。ちなみに誰も僕の事は見えてないみたいだ。トシも御門さんも苦笑いだ。
「頭の固い連中は、呼びつけておいてまだ来てないのか?」
どうやら、不機嫌そうだ。三分程してからミステリー研究会のメンバーが五人揃って入って来た。誰も目が合わなかった。トシも僕と目配せをして、もう用は終ったと言った表情をした。話し合いは無駄の一言だった。どうやっても平行線だし、どちらも証明しようのない論争は、三十分で決裂して解散となった。が、最後に御門さんがぴしりと言って下さった。
「出来れば、私達はこれ以上は巻き込まれたくないんで、次からは参加は辞退致します。私達の目的としては、故人の冥福を祈っての話であって幽霊がいるとかそう言った話ではなく、純粋に心の平穏を求めての事です。宗教的な事も余り関係ないですし、天国でも、空の星でも輪廻転生でも何でも良いから静かに祈る事をそっとしておいて欲しいということです。良いですよね?」
「「「はいっ!」」」
一斉に返事が帰ってきた。御門さんの少し冷たい言い方は切り離すかの様な感じだけれど、自分の考えや要求を言えるだけの強さでもあると思う。そして線を引く事の重要性は何となく分かる。曖昧にしか引けない僕とは正反対でちょっと羨ましい。これ以上したら反撃しますよ、という警告をわざわざしてくれてるんだ。自分の立ち位置をちゃんと伝えるのは難しい。僕にはない強さだ……というか僕は何処に立っているんだろうか、自分で分からない。
教室を出る時にそのことを言って、かっこいいねと言ったら苦笑いされた。あんな事いってるけど、気が変わるのもしょっちゅうなの、と恥ずかしそうに言った。
「でも、意見が変わるのは成長したって事かもしれないよね?」
「流されてるだけかも。でもそれでも何となく、言っておかないとフェアじゃない気がするのよね……自分でも何でこうなのか分からないんだけど」
照れながら、そういう御門さんはやっぱりすごいと思う。
「鮎川君は人を基準にし過ぎかな? 自分を基準にしてから人の事を見た方が良さそうだけど、でもそんなところが鮎川君な気もする。人の気持ちも大事にしてくれてるのが分かるから……」
「え、と、ありがとう……」
何か褒められてるのかな? ちょっと照れるな。
「でも、その優しさがこの人の甘えを助長しているのが問題だわね」
御門さんの心眼は厳しいところに突っ込んで来た。
「う、すいません。自重します」
「そうして欲しいわ」
そう言いながらも意外に目は優しかったので、まあそんなには怒ってないみたいだ。トシを甘やかし過ぎだとの忠告は受け止めておく事にする。しかし、彼女を裏で利香ちゃん呼ばわりしているトシが僕には理解出来ない。彼女の何処を見てちゃん付け出来るのか、教えて欲しい。それともどこか弱い部分でも分かっているんだろうか? そのまま二人は部活に向かったので僕は陽護さんに会いに行った。
死んでから会う度に腕を広げて泣いて良いんだよ〜、と言いながら良い笑顔でいつまでも待つので、仕方なく一度は抱擁されてるが、どうにかならないだろうか? メレディーナさんには、陽護さんの病気の後遺症だから笑って許してあげて下さい、と言われてるけど。恥ずかしいし、もう良いんだけどな。