23 遠慮
◯ 23 遠慮
「それで次はそちらの話を聞こう」
話が振られた。女性従者が少し冷えたお茶に変えてくれ、お菓子が添えられた。
「え、と。僕を襲ったのは、可愛い服を来てたからだって言ってたかな?」
フォーニの言分はそうだった。真偽の見極めが終わったので、彼の言葉がリシィタンドさんから聞けた。そんな事で僕はフォーニを切れさせたらしい。
綺麗で可愛い服を来ているから近寄って見たら、僕だったから切り刻んだと。いや、それにしては随分憎しみが籠ってたけど……。それは嘘ではなかったので、その気持ちもあったらしい。リシィタンドさんと散々話した事よりも単純明快だ。
でも、人をあそこまで切り刻もうとするのは、それだけでは不足だ。僕をダシにして会った、権力や権威を持つ人に振られた前の恨みが入っているのは確かだ。
「それは……なんと言ったら良いのだ?」
セスカ皇子は理解出来なかったらしい。ヴァリーに聞いていたがヴァリーもホングに視線で聞いていた。僕も理解不能だ。
「理解不能な理由です」
「そうだな。あれは精神異常でも良いぐらいの人物だ。が、自分のした事が悪い事だとは判断出来ているから、誤摩化しているんだ。得に自身を裏切り続けている。アキが近くに居たら闇落ちは確実なくらいだな」
ホングは言った後、溜息をついた。
「そなたは何かその者にしたのか?」
セスカ皇子は更に良く分からなくなったみたいだ。
「嘘の罠に嵌らずに逃げ仰せる事が出来ました。その事に恨みを持っているのは確実ですね」
うーん、我ながらいまいちな説明だ。
「盗みをしたと嘘をついて、アキの物を取り上げようとしたんだよ。実際は捏造したんだけど。嫌な野郎だ」
ヴァリーが補足してくれた。
「盗人の言うことなぞ、信用が置けぬ。そのような者を放置していて良いのか? 危ないではないか」
セスカ皇子がヴァリーの心配をし出した。
「いや、犯罪者として登録されている。本来なら犯罪者専用の区画に移動だったが、アキが嘘つきなら真偽の区画が良いだろうと要求してそうなった。アキとばったり出会う事の方が確率が低いし、あそこでの犯罪は倍の重さになる。出会ったのは殆ど事故みたいな感じだな。かなり確率が低いと思うぞ?」
「嘘つきは真偽者が苦手なのは分かるが、良くそのもの達は受け入れたな?」
「試験的に、観察するというか、新人教育の一環としては記憶の劣化と上塗りを、上層部は何やら新しい評価の基準の為に資料を揃えていたな。言ってたあの星深零の評価だ。組合の評価の一つに追加されてたろ?」
星深零の活動の一端を聞いて真剣な顔でセスカ皇子は何か考えている。ホングの質問にヴァリーが頷いた。僕も同じく頷いた。
「今、受けてる者が多い。僕もその内に落ち着いた頃に受けてみようと思っている。ヴァリーはどうする?」
「一緒に受けておくか。アキはやらないのか?」
ホングに聞かれて決意したみたいだ。
「一番乗りしたよ?」
「早いな。どういう評価だった?」
ヴァリーが聞いてきた。
「えーと、一から十までの数字での評価だよ。十ポイントが一番評価が高いんだ。どういう基準で選ぶのかは教えてもらえなかったけど、まあまあ良かったよ。ちなみにマイナスポイントもあるみたいだよ。犯罪者だとそっちになる人が多いって」
思い出しながら、説明した。
「犯罪者の評価基準は別ってことか?」
ヴァリーが聞いてくる。
「犯罪を繰り返す程下がるってことだから、そうなんじゃないかな?」
ホングもまだそこまでは教えられてないみたいだ。
「別の基準が追加されるのかな? 犯罪というカテゴリーが入るから」
確かそんなニュアンスで説明されたと思うけど。
「ああ、そうか。犯罪者であるかという項目が埋まるってことか。それなら分かる」
ホングはそれで納得したみたいだ。
「何やら難しい事が行われているのだな。外での法があるというのは分かった。それで再犯を防ぐようにはしておるのか?」
心配げな表情のままセスカ皇子が聞いた。
「ああ、暴力を振るえないように監視者が付くようになった。というかまあ、なんだ。犯罪行為をしようとすると動きを制限される処置がされた」
ヴァリーが説明した。
「そうだね。暴力行為を抑制されるから、今度は目の前にいても切り刻まれたりはされません」
僕が言ったら、セスカ皇子は同情の眼差しを向けてきた。あー、切り刻まれたは余計だったか。
「そ、そうか安全であるならよい」
それからは夕食になり、終るとそのまま部屋へと通された。一人ずつ部屋を貰えたのでゆっくりと夜を過ごした。さすが王族の別荘だけあって内装も豪華だ。
柱には宝石らしき物が散りばめられてる。その中の幾つかは優しく光って部屋を明るくしてくれていた。魔石なんだろう。天井からも魔石の照明がペンダントライトのように下がっていて光がそっと部屋を明るくしてくれていた。
転移装置が置かれた事で通信も安定したし、スフォラの分体も連れて来れた。相変わらず子猫姿だけど、もうこのままでも良いぐらい定着した。スフォラはそれには不満げだ。ティティラくらいの大型の動物になりたいみたいだ。
スフォラの身体強化は、僕の幽体の方にまで良く分からない影響が出て中止になった。僕の幽体が、スフォラを動かせなくなる可能性が出るから、止めた方が良いとマシュさんに診断された。
まあ、元が肉体派じゃなかったし、既に強化されて、やっと普通になってるのだ。更に負担をかけるのはダメだと言われた。
そんな事を考えていたら、スフォラが登録の姿でのお出かけを教えてきた。そう言えばそうでした。もう少し大型の姿でもエネルギーは電池式になっているから良い訳だ。紫月達と遊ぶ際には大きさは揃えてスフォラなりに気を使っているみたいだし、出かける時は僕の好きな姿に登録してたから大きくなれないみたいだ。
「優しいんだね。でも、不満がたまる前にもっと言ってくれていいんだよ? スフォラは我慢強いから言わなかったんだね。遠慮しなくて良いからね? そんなことで我慢しなくて良いんだよ、その方が僕は心苦しいよ」
僕がそう言うと少し嬉しそうにしっぽを揺らした。いきなり普通の人達もいる宮殿で変身はおかしいので、一緒に登録を増やすだけに今は留めた。決めた中から自分で考えて好きに変える形に変更した。
「分からなかったら聞いてよ」
了解を受け取ったのでそのまま寛いだ。




