19 煽て業
◯ 19 煽て業
加島さんにトシの事を頼もうと思っていたが、弟さんの事もあり、頼みそびれてしまっていた。仕方ないので、木尾先輩にお願いした。
が、匙を投げられてしまった。どうも、自分の考えを曲げられずに突っ走っているらしい。話を聞くと、どう見てもアニメと漫画の見過ぎだなと言った感じの答えが返ってきた。うーん、独自路線も良いけれど、基礎は独自じゃ突っ走れない。どうにか諦めさせるとしよう。
「トシ、地道な努力が実を結ぶんだよ?」
「分かってるって」
「……大雑把だって講師に言われてるんだよね? 敵の隣に女の子がいて助けなきゃならないなら、気の操作は細かくないと無理だよ? 当ててしまったら嫌われるよ? 怪我をさせたら? 顔に傷を付けたら? ヒーローじゃないよ?」
「それはダメだ! そうか、それを意識すれば良いのか! 出来る気がしてきたっ!」
ハッとした表情で何かを悟ったみたいだ。
「そうだよ。美女達を盾にしてる悪党の弱点があの的の範囲にしか無いんだ。そこに当てるしか助かる道はないんだ!」
どうせなら乗せまくってみた。
「おおおおおっ!! 今直ぐ助けるぞ!!」
単純だった。やれば出来るって分かってたよ。うん、あっさりとその日のうちに的にだけに闘気を当てる事が出来た。集中力を発揮すれば出来るもんだ。でも、ムラが多いのが難点だけど。
「モチベーションの維持がな……」
本人も分かっているみたいだ。
「でも、こつは掴んでたし、講師も今日は褒めてたよね。自分でシチュエーションを考えながらやったら良いかも」
想像力は豊かだから、自分で気分を上げてもらうしか無い。
「確かに。ただ的に向かうなんて、かったるいと思ってた。盛り上がりに欠ける」
トシの苦手は退屈なんだろう。集中力を一気に削がれてしまう。乗せれば良い感じなのにな。これは彼女でも作って乗せさせるのが早そうだ。誰かいないだろうか?
次の日に沖野さんに聞いてみた。
「お調子者をコントロール出来る人?」
僕の奢りの小龍包を頬張りながら、沖野さんは首を傾げた。
「そう、上手く乗せて手のひらで転がしながら育ててくれると良いけど……心当たりはいる?」
「さあ……。難しそうだよ?」
「いや、単純だから。ちょっと褒めるだけでも良いんだ。やる気さえ続けば……多分それで調子に乗って何でもしそうかな? だから暴走させないように気をつけれるくらいの常識を持った人がいいんだけど」
「うーん、千皓君とか?」
「あの、僕だと効果薄くて相談してるんだ、男だし」
「分かってるってー、言ってみただけ」
おかしそうに笑っている。
「でも何か、話してたら御門さんに頼んだ方が良い気がしてきた。彼女じゃなくても女の子に言われただけでも効果が出る様な気がするし」
「あー、利香はしっかりしてるよね。ものすごく良い子だからお調子者には渡せないなー」
ちょっと横目で牽制された。トシのことを聞いていたのか警戒が増したみたいだ。
「ですよね」
肉汁の詰まった小龍包を食べ終え、満足そうな沖野さんは首を傾げて僕を見た。
「まあ、千皓君が発破を掛けてあげたら良いと思うよ?」
「そうかな?」
「んー、私が優基の良いところを言ってもいいならやるけど」
「どうだろう、逆効果にならないかな?」
「そうなの?」
「意地になってやろうとしない可能性が……イケメンに対抗心を持ってるから」
頬を掻きつつトシの妙な心持ちを説明した。
「そっか、難しいね」
イケメンの台詞で気を良くしている沖野さんはニッコリ笑っている。
「ごめんね? 変な相談して」
トシ! 彼女は自力で見つけてくれっ!
更に次の日、トシを上級者の訓練場に見学に連れて行った。というか勉強会のメンバーの実践的な動きを見るだけだ。シシリーさんのせいで身体強化とかを取り入れた戦いに目覚めているので、それを見てもらった。
「相手を倒さないくらいの微妙な力加減が無いと、組み手も危なくてやってくれないよ? 動きの稽古が出来ないと不味いよね?」
「すごい、カッコいいなっ。あれを目指してたのか!」
「そうだよ。早く仲間に入れると良いね?」
「何かやる気がでて来た!」
「勿論、理論も完璧だからああやって動けるんだよ? ほら、空間の術を使ってる。あれで足止め出来るし、人払いも出来る。あっちは闘気を体の前で固めてる。一瞬だけど防護が出来るから戦いに幅が出るよね? ちゃんと勉強してるから出来るんだよ?」
「おおー!! 早速、講義を取りに行くぞ!!」
走って行きそうなトシを捕まえて、これだけは言っておかないと、と慌てて付け加える。
「基礎が大事なんだよ? 基礎が全部出来てないとあれ、出来ないから!」
「良く分かった! やる気が出て来たぞ!」
そう言ってトシは走って行ってしまった。何処に行ったんだろう? まあ良いか。あのテンションが基礎が終るくらいまで続けば大丈夫だろう。




