18 布教
◯ 18 布教
ナリシニアデレートで、セーラさんにビーバーアライグマな姿の動物達の扱いを聞いている。
「体当たりか、噛み付き意外は何も出来ない普通の動物だぞ。唯一すばしっこいのが取り柄かの。影に入るのも一瞬だけで、尻尾が外に出ておらぬと迷うとは使えぬ」
僕には十分脅威でもセーラさんには全くの雑魚扱いだった。雑魚どころか肉にしてはどうかという始末だ。ポース無しでは影に潜ると尻尾が丸見えだった。確かに頭隠して……を地でいっている。しかも、十秒以上は潜ってられないらしい。影への出入りは簡単にこなしていて、逃げ足も速い。
「ダメですか?」
「何か情報を探らせるにも、あれでは見つかるのが落ちぞ?」
確かに、見た目は可愛くて良い感じけど、無害な動物みたいだ。
「何か考えてみます」
「ふむ、折角の手駒じゃ、役に立たせよ」
「頑張ってみます」
僕はアストリューに戻って来た。妖精達が飛び交っている。最近はリストバンドや、空を歩く靴が無くても自在に宙を蹴ったり、手で掴んだり、押したりして自由に飛び回っていた。僕にはまだそれは出来なかったが、紫月にはその方法を教えてもらっている。ゆっくりと練習中だ。
妖精達の靴とリストバンドは必要なくなっている。あのリストバンドをビーバーアライグマにしたら飛ぶだろうか?
好奇心から一匹に説明してリストバンドを付けた。最初は怖がって恐る恐る空中を蹴っていたが、慣れたらその遊びに夢中になっていた。時々地面とぶつかったりしつつも使いこなしている。良し、全員にリストバンドを装着しよう。
壁を垂直に走りその勢いのまま宙を走り、追いかけっこが始まった。水の上も自由に走り回り影を伝っては飛び出して、妖精達とも遊び始めた。良かった。仲良しになったみたいだ。僕も飛ぶ練習をしよう。その日はゆっくりだけど、宙を自分で蹴って方向転換が出来るようになった。斥力、反発力、力の凝集を覚えたら何となく分かった。まあ、そんな力があるで良いんだ。
自身を小さなボールくらいに考えて空気の壁に足を乗せれば跳ね返るそんな感じだ。僕自身の足で蹴っても良い。自由に飛ぶ。ちからの凝集を覚えてからは空気の壁も反発力が付けれるようになった。ただし、スポンジボールを跳ね返す程度だけど……。スポンジボールのテニスが出来る。
そんな練習をしていたらいつの間にか風を使って体勢を変えて、地面に背中から落ちたりするのを防ぐようになったビーバーアライグマ達は、空を飛べなくても空を駆け回る動物に変身した。風の魔法の補正付きで、スピードに磨きがかかったみたいで空中でも妖精達のスピードに迫る感じだった。これは使えるようになったんじゃなかろうか?
「マリーさん! ビーバーアライグマがすごくなったよ。グレードアップだよ!」
何やら新作の服を作っているマリーさんに伝えた。
「そうなの〜? ここが縫い終わったら見てあげるわ〜」
「うん。外で待ってるね?」
マリーさんは十分後に出てきて、妖精達と遊んでいるビーバーアライグマ達を見て、驚いていた。
「あら〜、随分良くなったわね。あれなら撹乱出来るわ〜」
一週間後のナリシニアデレートでの訓練で、またしてもビーバーアライグマ達は進化を遂げた。五匹が一体化したと思ったら、五つの尻尾から電撃を放ち始めたのだ。一体化は五秒ぐらいしか持たないみたいだけど、電撃は五つ飛ぶあわせ業だ。影に紛れ込む特性が一体化になれる為の布石だったか、とセーラさんは唸っていた。
スフォラの攻撃も電撃だし相性はいいみたいだ。スフォラの分体と合わせて七つの電撃が纏まって落ちた地面には小さく穴があいていた。うわ、雷が落ちたのと同じでは? 恐ろしい。使う事が無いように祈ろう。
いい加減名前も決めようと思う。ビアラマ隊と名付け、ヒッコリー、ベイジー、ガラータ、ジナフ、バーメラと決めた。マリーさんがビアマラ隊の装備を考えてくれている。僕と同じで紙装甲だからとかなんとか言ってたけれど良く分からない。出来れば戦うなんて言わずに可愛がる方が良いと思うんだけど。
出来上がったパイロット的な装備がビーバーな顔に似合っていたので気に入ってしまった。黒を基調に襟にはスカーフが巻かれて帽子まで頭に乗せている。勿論、一体化するので変身御用達の物だ。ちゃんと教えたら使いこなしている。普段はスカーフをしているだけだ。スカーフの飾り止めが制御装置だ。ビアラマ隊の衣装はその二種類だけだけど、殆どが装備の強化の為に費やしているので仕方がない。可愛いのに怪我をして欲しくないからね。
「しかし、この潤目攻撃は何か卑怯では無いか?」
ネリートさんが、つぶらな瞳で抱っこをせがむヒッコリーに、顔が緩みながらも応じている。
「そうですか? 暴力封じにぴったりです」
これが一番最強の業な気がするよ?
「逆に煽る事もあるから気をつけるのよ〜?」
「そんな事あるんですか?」
「あるみたいねぇ。世の中にはそんな捻くれたのもいるのよ〜」
マリーさんが、ガラータの尻尾をブラシで整えている。
「ふむ、役に立たぬと思うておったが、主人の為によう成長したの。褒めて使わすぞ」
セーラさんがジナフを抱き上げて膝に乗せてやっていた。
「俺様は最初からこいつらは使える奴らだって、見抜いてたぜ?」
ポースは自分の事のように自慢していた。確かにポースが契約を勧めてくれたんだった。うん、分かるよ。
「巨大サソリは待てを覚えたんですか?」
「うむ、意外に使えるぞ。地竜程ではないが、砂地を潜って行動出来るし移動も早い。あの様な宮殿にあやつらを出してくる悪神の方が馬鹿だと言わざるをえぬ」
「確かに見た目の凶暴さは認めるが、戦地の状況で変えれる程の知能が持ち主に無かったのであろう」
「単に手持が無かっただけじゃないの〜?」
「そうやも知れぬな」
「我らもスフォラ経由の転移で向かえるのが、人丈だけでなくば、色々と連れて向かうのというのにのう」
「さようであるのう」
「このビアラマ隊サイズならスフォラの転移装置でも抜けれるってことですか?」
「そうね〜、連れて行けるわね」
「そうであったのか?」
「ふむ、この大きさのものは考えておらなんだな。少々考えてみるかの?」
「そうじゃの。可愛いではないか。癒しの担当も兼ねる物が良いの」
ネリートさんは膝に三匹も乗せている。モフモフ達の魅力が分かったらしい。うん、モフモフ教の布教に成功だ。
「しかし、あの程度では役に立たぬ」
あれ?
「それもそうじゃの。悪神を抑えるには全く足りぬ。蚊が刺した程度の電撃ではのう、もう少々強さが欲しいの」
あれれ?
「この子達はそのくらいだけど、探せばいるかもしれないわよ〜?」
くう、負けたのか?
「ふむ、確かにのう。成長させるのも楽しみであるし探してみよう」
どうやら、僕達の攻撃では歯が立たないらしい。確かにあの宮殿の壊れっぷりやら、森の破壊ぶりを見れば納得である。
僕には森の再生の方が大事だから、それについては何も言うまいと思う。トーイの木が処理されて土地の浄化が終ったら、植物を植えて妖精達と一緒に成長の手伝いをする依頼をもう受けている。それまではまだ一年は掛かるので、下処理が終るのを待っている。残念な事にもふもふ教の布教は、不完全に終った。




