12 救世主
◯ 12 救世主
緑の平原に着いた。ここは砂漠地帯ではなく名前の通りの場所だ。オアシスではなく湖が広がっている。
神殿の温泉から始まる河が、王宮のある場所を通って長い距離を進んで湖まで到達している。湖の向こう側は違う国になる。友好国なので、外交的にも物流も盛んだ。隣の国を横断すると海になり、その先にはトーイの実の騒動になっていたゴッダル大陸に続く。このルートは重要な交易の要だ。
トカゲ屋の本店にいるご両親に、頼まれていた荷物を渡して仕事を一つ消化した。トカゲを少し高めに買い取ってくれて、助かった。
宮殿は湖の中にある島に立っていた。湖の大きさはかなりのもので海かと思う程だ。湖の色が何故か銀色ですごく不思議だった。湖を渡る許可を貰う為に、神殿からの手紙を公務中の入場審査の人に渡し、宮殿へと届けてもらった。明日にもう一度くれば返事が返ってくるとの事だ。毒薬事件から慎重になっていると聞いている。
僕達は宿を取って、旅の疲れを取る事にした。湖が近いから、水が豊富にあるのでお風呂がある宿が多かった。なので当然お風呂付きにした。
「どう使うんだ」
夕食後に部屋で荷物の整理をしていたら、タキが部屋に入ってきて水の出し方を聞かれた。
「魔力を魔石に流すだけだよ。それでお湯が出るから好きなだけ入れたら良いよ」
「出ないぞ」
おかしいな。
「やってみてよ」
見てみたら、魔力を通せてなかった。体に返って行ってる。何でだろう?
「魔力を魔石に通して使わないと」
「魔力が減るだろ? 吸い出されないか?」
「減ってもまた増えるよ。使うものなんだから。体のエネルギーもご飯を食べたら戻るし同じだよ」
「……分かった」
良く分からない事で出来てなかったみたいだ。その後はちゃんとお湯が出たので自室に戻って行った。きっとお風呂で暖まれば旅の疲れも取れるだろう。意外と水の魔法も覚えるかもしれない。
荷物整理が終ったので、バスタイムだ。ネラーラさんとテレサさんお勧めのグッズを使って、じっくりと至福を味わった。宮殿に着く度にアストリューの花のオイルのセットを渡しておいたので、第三、第五皇女の二人にも同じ様なバスグッズを貰った。砂漠の乾燥にも負けないしっとり肌が保てる良い物だ。レイにも教えてあげよう。きっと喜ぶに違いない。仕上げに体の中から綺麗になるバランスの良い栄養を詰め込んだ飲み物をぐいっと飲んで、宿の窓から外を見てみた。
湖の中から銀色の光が出てるかの様な幻想的な様子に驚いた。湖の中の白亜の宮殿が青白く浮かび上がり、三日月型の大きな船が浮かんでいるのが見えた。月が昇ったらもっと綺麗な気がする。
窓から見ていたら、タキが外を歩いているのが見えた。湖の方へ歩いて行っている。近くで見ようと思ったのかもしれないと自由にさせておいた。四六時中監視されてるのとか僕も嫌だからね。
暖かいお茶を入れて、スフォラと会話する。
「ここの湖は本当に綺麗だし、宿のおばさんが自慢するだけあるね」
スフォラも同意見のようだ。ラークさんも湖で泳ぐと良いと言ってくれてたので、一度は泳ぐと良いかもしれない。水竜が住んでるみたいだけど、宮殿の周りには襲ってくるものはいないと聞いているので、安全だ。
次の日の朝、タキが戻って来ていなかったのを見て、何処に行ったのか探すはめになった。保護者モードで検索したら、昨日行った宮殿への船着き場にいた。宮殿へ渡るには船でないと無理だし、どのみちそこに行かないとダメだけど、荷物を全部置いて行ってるので、僕に運ばせる気だったとも考えられない。何かあって捕まってると見るべきだろう。嫌な予感しかない。
荷物を組合の通販で買った方の収納スペースに入れて、二人分チェックアウトして船着き場に急いだ。約束の時間より早いので、行って確かめるしかない。
入場審査をしている人に会おうと思ったら、警備兵に囲まれた。
「逃げた従者だな?」
厳しく問われて何の事か一瞬分からず、
「え?」
と、しか声が出なかった。
「眠らせて牢に入れておけ」
横からそんな声が聞こえたと思ったら、
「何言っ、うっ」
みぞおち辺りを殴られて、ゆっくりと目の前が暗くなってそのまま気を失った。気を失う前に、スフォラが緊急の連絡をしたみたいだけど、ちゃんと届いたか分からない。目が覚めると、知らない路地の片隅にあるゴミの中にいた。あの後、スフォラが全力で逃げてここに隠れたみたいだ。
初めて、僕が気絶した後のスフォラの活躍が出来たんじゃないだろうか? そのことを言ったら、誇らしげな感じの感情が返ってきた。
あちこち小さい怪我はしていたので癒しを掛けて回復をさせつつ、皆と連絡を取った。
既に神殿でもこの事が伝わっていて、セスカ皇子に連絡して対策がとられている。僕の代わりにタキが船で出発をして、宮殿前に到着したみたいだ。タキのディフォラーは僕=スフォラが逃げてから破壊されたみたいで、その事が保護者モードに記録がされていた。そんなチェックをしながら僕は闇のベールを出して被った。ゴミの中から、目立たない場所に移動し、いつものスフォラ経由の転移を始める。
宮殿の内部に悪神の手先か、権力を欲する者がいるのか、とにかくセスカ皇子達を悪神の手から守らないといけない。タキが宿を抜けて行った場所に、かつての仲間がいたのか取引があったのだと見られている。そこも何人か抑えに向かわないといけない。
セーラさんとネリートさん、そしてマリーさんにギダ隊、更に死神達と、総戦力だ。一気に二十四人も集っての戦いが始まった。
「そんな気はしておった。暴れるぞ?」
セーラさんがワクワクしている気がするのは、気のせいだろうか?
「アキがこの時期に奴を連れて来るという事は、どこかで相手を引っ掛けるに違いないと、レイと董佳が口を揃えておった。その通りであったの」
ネリートさんは良く分からない事を言っているが、楽しげな雰囲気はセーラさんと同じだ。
「作戦を決行する」
ギダ隊長が全員に言った。僕は死神以外のメンバーにベールを配った。ポースも闇の力の結晶の中の空間に入って準備がされていた。中からアキとの初戦闘だと楽しそうな声が聞こえた。ここは闇の司令室だぜ、と上機嫌だ。
ベールの強化はギダ隊長の指示に合わせる事にして、僕達は影の中をポースの導きで進んだ。宮殿内に忍び込み、僕だと偽って宮殿内に入ったタキの姿を捉えた。
ネリートさんとギダ隊の半分は、皇子と皇女に事情の説明をしつつ連れ出しに向かった。セーラさんとギダ隊の残り半分は、内部の誰が犯行に携わっていたかを、タキとその周りの様子から見極め中だ。
死神達は悪神と邪神の仲間らしき人物のマークに就いた。ネリートさんが第六皇子の従者の一人を取り押さえて事情を聞き出し始めた。内容はベールを通して伝わった。
どうやら、セスカ皇子の治める緑の平原地区の軍を纏める、ジューダッド水将の名前が出てきた。その他その周りの人物達だ。それでタキが僕だと偽っても、不審がられずにそのまま通す様な事になったのか。
宮殿の外の湖の周りの警護と、有事の際の水軍の指揮も担当の人だ。宮殿の中は別で警備の系統は親衛隊がやっていて軍とは違う。単なる造反なら皇子の采配で抑える事になるが、今回は相手が異世界をまたに掛けている悪神達が相手だから、神々の領域となる。
タキと一緒に忍び込んだ悪神の一人が動き出した。影に入って動き出したのを死神が止めに入る。ギダ隊長のベールの強化の指示が飛んだ。
そこからは滅茶苦茶になった。宮殿内の手引きした者もギダ隊が順次捕まえて行く。セーラさんと僕とマリーさんは関係のない者を戦闘のある場所から避難させ、外へと誘導した。主に、僕が皆を宮殿の外の広場に行くように声を掛けた。ボローさんがそこで待機して防護結界を展開中だ。
四、五十センチ程の闇の生物が走り回って攻撃してくる。悪神の契約獣なのか、厄介だ。一匹、スフォラが電撃で動きを止めた。
「後で契約しちまおうぜ」
と、ポースが言うので、上から眠りの術を掛けてポースのいる空間に保管した。その後、宮殿内で見かけたらスフォラが電撃で止めて、僕がそれを眠らせて回収していった。穴の開いた壁から、悪神がワイバーンの背中に乗って、何やら大きな魔術を街に向かって飛ばそうとしているのを、必死で回避しようとしている死神達が見えた。
「あっちの応援が必要です!!」
僕の声でセーラさんとマリーさんが、そっちに向かって空を飛んだ。
「させないわ〜」
「卑怯者めが! 引き裂いてくれるわ!」
ワイバーンの十二匹の部隊は炎と風をまき散らしながら進路を邪魔していたが、空を蹴りながら方向を変えるマリーさん、セーラさんとの機動力の差が、悪神への一撃を止めるものにはならなかった。術は空へと逸れて街の上部を炎で埋め尽くした。そのまま死神達とワイバーン、悪神とマリーさん、セーラさんの空中戦が続いた。
僕達のいる場所ではスフォラが防護をして水軍の攻撃を逸らしている、いつの間に宮殿に入り込んだんだろうと首を捻った。
「悪神の手下どもを捕まえろー!」
と、叫んでいる水軍の皆さんが悪神の手下なのに、おかしな事を言っている。
「奴らからの解放を!」
「俺達はそんなの知らないぞー」
何の事か分からない。避難してきた宮殿内の人達は、攻撃される理由に首をひねりながら応戦し始めた。
「それはそっちだろう!」
「目を覚ませ! 我々が解放してやる!」
「大人しく降伏するが良い」
「何やってるんだ?」
と、かなり入り乱れて、何がなんだか訳が分からなくなってきた。ボローさんの結界が数のせいでほころびかけている。頭上の戦闘が止まった。悪神の一人が湖に落ちて行くのを見て、
「救世主様が……」
と言っている兵がいたが、何のこっちゃ?! 変な宗教が入り込んでるんだろうか。そうこうしているうちに、轟音がしたので振り返ったら、宮殿の天井の半分が吹き飛んでいた。周囲にバラバラと天上の欠片が散らばって落ち始めた。
「なんて力だ! 一体何が起っている?」
「守り神様がいるぞ!!」
「違うぞ! あれは我々を搾取してきた悪神だ!」
皆は立ち尽くし、混乱は渦となって、迷走し出した。僕は面倒くさくなったので、兵の皆さんも従者も使用人達の区別なく、眠りの術を掛けて眠らせることにした。ボローさんまで眠ってしまったけれど、直ぐに起こしたので大丈夫と思う……。
「あー、洗脳って怖いね、ポース」
「そうだな、知らねえって恐ろしいな。そこにつけ込むのが悪神ってもんだ。中々良い仕事してるぞ、今回の奴ら」
ギダ隊が、湖の中の悪神の回収に入った。ネリートさんは、皇子達を匿っている部屋で捕まえた巨大サソリ達に、待てを仕込み出していた。知能が低いようならそっちに譲るぞと言われたが、どうだろう……。後で見に行きます、と答えておいた。
目の前でタキが瓦礫の下で唸っている。腕が折れてる意外は怪我もなさそうなので、先に隣で頭から血を流している人を治療した。怪我人を見つけては治療して、眠りの術を掛けていく。やはり、全員が巻き込まれずに済むというのは無理だ。
タキの治療をしようとしたら、拒否された。
「俺を支配しようとするなっ、触るんじゃねえ!」
瓦礫を退けたら、蹴り飛ばされた。
「でも、そのままだと仕事、出来ないよ?」
「うるせえ、てめえに何が分かる!」
睨んで、腕をかばい足を引きずりながら、外へと歩いて行こうとしていた。
「さっぱり分かんないよ?」
何処へ行こうというのだろうか?
「ふざけんな! 知った顔して俺をこき使いやがって!」
ああもう、我がまま放題言うんだから!!
「仕事をしたいって言ったのはそっちだから!」
僕も怒って返した。
「こんなの望んでねえっ。俺は自力で帰れるはずだったんだっ、てめえになんかに、邪魔されたく、ねえんだよっ!」
癇癪を起こしている。
「それで、ここの街に転移装置があるってことだよね?」
「つっ、知らねえよ」
「分かりやすーい」
つい嫌みを言ってしまった。
「てめえ殺すっ!」
本当に睨み殺されそうな程の目で言われたが、タキは力つきたのかそのまま倒れ込んでしまった。
「転移装置を試すと良いよ。それで答えを聞くよ」
タキに付いて内部に入ってきた者は、ビルベルスター商会の人間と、悪神が三人だった。宮殿はあちこちの壁に穴が空き、逃げ出そうとした商会の人間は壁ごと湖の方へと吹き飛ばされていた。
悪神は一人が湖に落ち、一人は天井と共に吹き飛び、もう一人は死神達が街の中をしつこく追いかけていた。
ギダ隊は天井を吹き飛ばして外に飛び出した悪神も回収していた。悪神の一人が簡易の転移装置を宮殿内にいつの間にか設置していて、そこから水軍が入ってきたみたいだ。
タキが正式に中に入れる事を取引に出し、それに乗じて宮殿を牛耳る予定だったみたいだ。クーデターが起きたと思わせて、勢力を分断して神殿に近いこの場所を乗っ取る気だったらしい。その隙にダンジョン化の止まった場所に核を埋める予定だったみたいだ。
そういえば、皇子同士の騒動があったっけ。毒を盛った人も意外と唆されたのかもしれない。毒の入手経路があやふやだったから何かあるとは聞いていたけど、まさかこんな事にまでなるなんて……。あれもダンジョンの存在を隠す目隠しの騒動だったんだと分かった。
戦争が始まれば負の連鎖で、今は止まっている地獄と繋ぐ為の道が出来るみたいだ。調度、タキが来た事で速やかに中を制圧出来ると踏んで、ここへと乗り込んできたらしい。僕が裏切り者だとするつもりだったと、聞かされた。何にせよ、スフォラがあの船着き場で逃げてくれたから無事だったことは間違いない。




