110 観光案内
◯ 110 観光案内
朝早くに起き出して顔を洗って朝食を食べた。宿の主人に聞いていた乗り合い馬車の場所に向かって時間を潰した。馬車を待つ人はかなり人が多い。
「よお、旅の人かい?」
目の瞳孔が縦長の人だ。真っ赤な髪が派手な人だった。見た目の年はそう変わらなさそうだ。
「はあ。貴方も?」
「そうだ。一緒に回ってくれないか?」
僕が首を傾げたら、耳元で獣人だと足下を見られるから人が良さそうな僕に頼んでいるという。
「昼過ぎには帰りますけど、良いですか?」
「坊主は何見るんだ?」
坊主って子供扱いだけど、年齢はかなり上なんだろうか? 身長は五センチ程彼の方が高い。
「分かりません。ここは初めてなんで、案内してもらえますか?」
「良いぜ! 俺も三回目だから大した案内は出来ねえが。それでいいなら交渉は成立だ」
獣人だっていってるけど竜人かもしれなさそうだと思った。滅多に自分達の場所から出てこないと聞いている。気分が良さそうなコウパッシュさん事、コウさんと一緒に乗り合い馬車に乗り込んだ。
「コウさんは何を買いに来たんですか?」
「食いもんだ。ここの小麦とか大麦にホーナグの実に調味料と魚の薫製に一夜干し、ドライフルーツもいる。ナッツ類があればそれも買いたいが、ここにも無いかもしれない。ダンジョンの癒しのおにぎりも欲しいがあれは何処にも売ってないし。ダンジョンであれ以降出たという記録が無い」
「食べたんですか?」
「ああ、食べた。懐かしの味だ」
何故か涙ぐんでいる。
「懐かしい?」
「いや、何でもねえ。食いもんは必須だ!」
随分食いしん坊みたいだ。
「アキは好きなのはなんだ?」
「え、と。クッキーは美味しいですよ」
「ダンジョンの癒しのクッキーか? 喰ったのか? あれは美味いな! あれは全く出なくなったと思ったら時々出る様になったから嬉しいぜ。癒しのサンドは食べたか?」
恍惚の表情で思い出しているみたいだ。
「うん。美味しいよ」
「く、俺は何故かまだ喰ったこと無いんだ!」
「冒険者なんですか?」
「いや、美食家だ!」
怪しげな職業だ。
「……それってどんなのですか?」
「魔物の肉なんて喰ってる場合じゃーない! あれは体に悪い。なるべく怪気に触れてない物を求めるべきだ」
「黒気のことですか?」
こっちでは瘴気のことはそう言われている。
「それだ!」
「変わった人ですね。コウさんって」
「アキもな。目的も無くこーんな人ごみに入ろうなんて変人だ」
この前はハイドーリアさんにはおかしいと言われるし、今日はコウさんには変人と言われた。しかし、目の前の混雑は確かに納得だ。
「言い訳を言うなら、こんなに酷い人ごみになってるなんて知りませんでした」
テントを広げている場所を縫う様に進みながら、コウさんに付いていった。
「それもそうか。初めてだったな、迷子になるなよ?」
ここは骨董市のようだ。そのまま進むと靴が沢山並んでいる。あ、ダンジョンの靴だ。僕の作ったお洒落靴で、疲労回復付きだ。目立つ位置に置いてあるからすぐに分かった。
「あの靴はダメだ。直ぐに壊れる。足の弱い貴族が履く靴だ」
僕の視線にコウさんが説明をしてくれた。
「冒険者には要らないね」
「その靴はダンジョンの空歩のブーツだな。自分で入ってるのか?」
そう言うコウさんのショートブーツもそうだった。
「時々友達と行くよ」
「ランクと職は?」
「治療師のランクG」
「Gかよ。まあそんな顔だ。友達は強いのか?」
このブーツは中層まで行けないと手に入らないから聞いているのだろう。
「ランクEとランクSのパーティーに入れてもらってるよ」
「そりゃまた無茶苦茶な構成だな?」
呆れられている。そうだね、確かにランク差は酷いかも。でも実力はあるよ。シュウ達はカジュラに鍛えてもらってるし、才能はあるって言われてたからね。単に年期が足りないだけで、強さはちゃんとDからCくらいはあると聞いている。
「コウさんは?」
「魔導師のランクSだ」
「魔導師?」
へえ、こっちでもそんなのがあるんだ。魔法の知識が高い人のことだよね。
「そう。位の高い魔法使いだ」
ふんぞり返っている。
「教えてるの?」
「は?」
「導師って言うくらいだから」
それなら色々教えて貰いたいな世界樹の教会で。
「い、や……まあ、な。で、弟子は今は取ってないぞ」
何か怪しくなって来たぞ?
「そうなの? それも導師なの?」
ちょっと疑いの念を飛ばしてみる。あ、目をそらした。ますます怪しい。
「お。目的の食料品市だ。頼んだぜ、相棒!」
「何かはぐらかしてる」
「そんなことねえって」
必死になって誤摩化すコウさんのことはまあ良い。結局大量に買い込んで、嬉しそうに全ての目的を達成していた。
「そろそろ僕は移動しないと」
食料品市を抜けた布と服の売り場にいる。ダンジョンのお洒落服は完売したと書かれている。
「どこに行くんだ?」
「世界樹の教会に」
本気かといった顔をしている。
「湖を渡るのか?」
「うん。夕方の船に乗ったら明日の朝の巡礼の時間に着くって聞いたし」
「その通りだけど。何処にでもあるし、なんにも無いとこだぜ?」
「まあね。コウさんは帰るんでしょ?」
「まあな。助かったぜ!」
戦利品の入った魔法のカバンを叩いている。満足げな顔なので良いことが出来たみたいだ。
「ここで別れる?」
「ああ。じゃあな」
「じゃあ」
手を振って別れた。最初の場所から逆サイドまで抜けて、乗り合い馬車に乗って船着き場に向かった。そういえば案内は食料の場所しかして貰えなかった気がする。後は興味なさそうだったから得意な部分だけ案内してくれたのかな。
「あ、あれかな」
僕は目の前に見えている船着き場に向かった。熱心な信者らしき人達に囲まれて船に乗りこみ、毛布を被って雑魚寝状態で眠った。




