10 試練
◯ 10 試練
最近のレイは忙しそうだった。悪神達の暴れた後始末で色々やってるみたいだ。ラークさんも忙しそうで、今は転移装置の設置場所をどうするか検討しているみたいだった。
ヴァリーもホングも手伝うと聞いている。二人は悪神達の事は余り聞いてないみたいで、何かあったらしいぐらいの認識みたいだった。新人の情報では手に入らないし、ヴァリーの性格だと逆上して突っ走りかねないので僕も黙っている。ラークさんにも止められてる。
昨日からタキからのメッセージが届くようになった。タキから金の無心をされたが規則で出来ないと返しておいた。次は仕事をくれと送ってきた。なので職業訓練が先だと返しておいた。自分の参加出来る訓練がないと泣き言が送られてきた。勉強しろと返した。荷運びでも何でもすると送られてきた。
僕の仕事は主にアストリューだからタキには体の負担にしかならないだろう。仕方ない。暇があればやって欲しいと言われていたナリシニアデレートの転移装置の設置の仕事を受けて、タキを連れて行く事にした。日本には借金が返済されるまでは立ち入り禁止だからあっちの手伝いは無理だ。
「ふざけんな! 何でこんな物を着ないと行けないんだ!!」
タキはお怒りだった。
「それは自分がした事を思い出した方が良いよ? 今から行く所は君達のせいで酷い目にあった所だから反省の態度は必要だよ。管理神にも神殿の人にも殺されたくなかったら、これを着ていかないとダメだよ」
また囚人ルックを着て貰うと言ったら、ごねられた。
「何でそんなところの仕事を取るんだ!!」
「文句いわないでよ。僕だって君と行ったら報酬が減るのに連れて行くんだから!」
というか、わざわざタキの為に取った仕事だ。
「畜生が!!」
「行かないの? 無理してこなくても良いんだよ?」
「分かってるよ。我慢してやる」
睨みつけられたが、行くしかない。ヴァリーは第二皇子の住むオアシスに正式に向かうのはまだ難しいみたいだ。周りの理解は大分進んだが、もう少し時間が掛かると言っていた。
なので、ラークさんにセスカ皇子の様子を見てきて欲しい、とついでに頼まれたのでそこに向かう事にした。光の魔結晶も渡す必要があるし、引き受けた。これのおかげで毒の後遺症を気にせず、今まで通りに動けているみたいだ。
異世界を渡る為の審査の区画で荷物の検査を終らせ、タキにここの世界での注意事項を読ませて今回行く場所の説明をした。仕事内容も同じく説明した。
転移装置は許可のない人物は、使ったら牢屋に飛ばされるタイプだった。うちにあるのと同じだったのですぐに分かった。転移が始まりナリシニアデレートに着いた。
今回はタキがいるので、神殿からすぐに他の場所に転移装置で移動した。ヴァリーの家だ。ヴァリーには転移装置の設置の仕事をすると伝えたので、お兄さんに渡す物を預かっている。着いた先で、ヴァリーのお母さんとお姉さんに迎えられた。
「アキさん、ようこそいらっしゃいました」
ヴァリーのお姉さんのテレサさんが、こっちでのお辞儀の手を前にして膝を折る挨拶をしてくれた。僕はアストリュー式のお辞儀を思わず返してしまった。ちょっと似てるからつい……。そのままこちらへと部屋の外に連れて行かれた。
「前の時は大変助かりました。ここにいる者は感謝の気持ちで一杯です。今日はたっぷりと歓迎させていただきます。さあ、遠慮なさらずにどうかお寛ぎ下さい」
そう言うヴァリーのお母さんに手を引かれ、従者と使用人達が次々と挨拶してくれる中を進んで行った。
「う、あ、ありがとうございます。そんなにしてもらう程の事は……」
「そう仰らずに。お口に合うか分かりませんが、料理も用意させてますから是非、食べて行って下さいね」
テレサさんがにこやかに勧めてくれた。
「は、はあ」
これは逃げれそうにない……。タキは宮殿の内装と歓迎ぶりに呆然としながらも、後ろを付いて来ているみたいだ。勿論、荷物運びをすると言っていたので荷物を持って貰っている。
本当は要らないけど、マリーさんが形だけでも仕事をさせるのも大事だと譲らなかった。大量のカバンを渡してきて、どれにするか聞かれたぐらいだ。これも経験だと思って許容する事にする。
確かに本当は要らない人だと思わせるのは忍びない。犬ぞりで僕達無しでも走る事を知った時の気持ちだ。いや、夢縁のわざと手作業でやるアルバイトのようなものだと考え直した。雇用の先を作っているみたいなそんな気持ちを持った。経験を積ませる為だと思えば良いかもしれない。先輩として頑張ろう。
ジグさんの試験もそんな経験を積む為の仕事だったのかもしれない。あの時はそうは思わなかったけれど、今なら何となく分かる。
「さあ、どうか飲み物を用意しますから、こちらに座って寛いで下さい」
「ありがとうございます」
タキは荷物を持って、先に部屋へと従者の人に連れて行かれていた。
「神から直々に従者の歓迎はするなとあったのですが、何か御理由があるのでしょう。私達からは質問が出来ませんが、アキさんにはその事を先にお伝えしておくように言われています」
ヴァリーのお母さんに、ちょっと探る様な視線で言われた。疑問に思うのも分かる。
「あー、うん。そうだね、分かるよ。そういうなら、しない方が機嫌はいいと思うし。触らぬ神に祟りなしって言うからね。居ないと思ってくれても良いよ。ラークさんにもそう言ったから」
しどろもどろに答えつつ内容は誤摩化した。無茶を言った自覚はある。ラークさんの優しさに頼っちゃったのは僕だからね。この事はタキも諦めて貰うしかない。
「神の怒りに触れるなら、従者の歓迎は致しません。それでよろしいのですよね?」
確認して来たので頷いた。
「うん、彼の試練だから歓迎してはダメだと思うよ。ラークさんの意志は、あー神の意志は歓迎の逆かな?」
自分でも意味不明な事を言いつつ、頭を掻いた。
「では、いない者として扱わせていただきます。牢に入れても良いと言われてましたので、少々混乱致しましたが、神のご意志でしたら私共は従うまでです」
少し、剣呑な光が目に宿ったのを見た気がしたけれど、僕は見なかった事にした。タキの試練の旅が始まった。何の試練かは僕には分からないけど、耐えれるのかちょっと不安だ。暴力は無しでお願いしますとは一応伝えておいた。勿論ですと微笑んだ顔は、母さんの迫力に似ていた気がする。さすがヴァリーのお母さんだ。
今回の旅はここから住む第三皇女と第五皇女の宮殿のあるオアシスと、第二皇子と第六皇子、第八皇女の住む宮殿のある緑の平原に行き、転移装置を設置する事だ。どちらもここから地竜の仲間のトカゲ擬きに乗って進む。
これもきっとラークさんの試練だと思う。乗り方は簡単なので、前のマリーさんとの買い付けの旅もこれに乗って進んだ。セスカさんの宮殿までの旅の日程は12日間の予定だ。明日の夕刻前の出発予定になっている。
「まあ、ヴァリーったらそんな事を言っていましたの?」
大げさに驚いているヴァリーのお母さんのネラーラさんは、二人の母親とは思えない程若く見えた。ヴァリーと同じ銀色の髪は長く伸ばしていて、とても艶があって綺麗だ。
「はい。ショックを受けてましたから、本人には僕が話した事は追究しないで下さいね?」
「あら! からかいたくなる内容なのに、先制されてしまったわ」
マリーさんに嫁に来て欲しいと言った事件を話して、からかわないようにお願いしたら、第一皇女のテレサさんが残念がった。綺麗なライラック色の瞳が印象的で、優しそうだ。
夕食の席はそんな感じで和やかに話は弾んだ。その間、タキから腹が減ったとか、なんで牢屋に入れられてるとかの質問が来たが、管理神の要望だと書いて送ったら、メッセージは悪態しか返ってこなかった。後で食べ物を渡しに行くしかない。多分、行く先の宮殿での扱いも同じだろうと思うので、先が思いやられる。




