プロローグ
開いて下さってありがとうございます。この小説らしき物はカウンターアタック編からの続きになりますので、出来ましたらシリーズの最初から御読み下さると何となく分かるかもしれません。
◯ プロローグ
「また忙しい日々が……本当に嵐の前だったね」
レイはくたびれた様子で皆に視線を向けた。アストリュー神殿のとある場所での会合だ。
「本当ねぇ、ギダ達なんか休暇返上だったのよ〜」
マリーも驚きの連続だった。ただの買い付け旅行が、あれよという間に第一級の危険戦闘区域にまで発展したのだ。
「まあ、大丈夫ですの?」
メレディーナは二人の忙しい日々を労って声を掛けている。
「今は見張りも交代が決まって、ゆっくりしてるわ〜」
自身も差し入れやら色々とフォローをしていたので、休憩中のようだ。でも何やらトーイの実の研究をマシュとしているようだし、メレディーナは少し息を抜くべきだと思っている。
「そうですか。ご自愛下さいとお伝え下さい。彼らの活躍も随分広まっているようですね」
「それはそうよね〜、あれだけの悪神、邪神達を一気に捕獲すれば有名にもなるわ〜」
組合であれだけの成果を上げた者はいないし、そもそもが死神とは違った働きのための戦力だ。
「おかげで死神の組合も、こっちに戦力を遠慮無しに要求し出してる。合同練習が大規模で始まってるって聞いてるよ?」
マリーもそれに一度参加して具合を見ていたので頷く。
「そうなのよ〜。アキちゃんも参加出来れば良いんだけど、ちょっとね〜」
眉間に皺を入れて少し渋ったマリーの表情に、メレディーナは首を傾げた。
「何か問題が?」
「物理の攻撃に弱いのがやっぱりね、不意打ちや影からの攻撃、そんなのが多いからある程度の防御を持ったマントの方がギダ達の負担が減るのよね〜。何か方法が無いかしらねぇ、他はすごく良いのに勿体無いわぁ」
「確かにな。魔法と呪いの防護も上がったと言ってたが、物理だけは上がらないみたいだな」
マシュもその事には疑問だった。スフォラの成長もそっち方向は伸び悩んでいるからだ。まあ、何にでも完璧というのは難しい。
「そうなのよ〜、マシュ〜、何とかならないかしら〜」
マリーが唇を尖らせてだだをこねるかのように頼ってくるが、正直見たい顔じゃないと思っているマシュはそっと視線を外した。
「大丈夫ですよ、アキさんならきっと乗り越えますよ」
答えたのはメレディーナだ。
「そうだな、ポースと何かやってたぞ? 多分マリーのは、杞憂に終ると思うぞ?」
どうやら、知らないうちにアキは動き出しているようだ。全員がマシュの言葉に反応した。アキが動くとはすなわち、新たな何かを呼び込むという事だと思っている。
「へえ、それは楽しみだね」
レイが興味を示して振り返った。悪戯な笑みを目の端に滲ませている。
「本当〜?」
マリーは純粋に嬉しそうだ。
「あら、防護が上がれば戦地に向かう事に?」
メレディーナは少し心配な様子だ。
「……アキの神経が持たなさそうだね」
レイがメレディーナの心配を言葉にした。
「今度はそっちの問題か。確かに無理だな。気絶して帰って来ることにならなきゃ良いが……」
「そうね〜、そっちの繊細さもあったわねぇ」
マシュもマリーもその可能性を失念していたみたいだ。
「アキさんに暴力の耐性は求められない方がよろしいかと……」
「殴られただけで腰が抜けるとか、そんな状態だからね、肉体言語は持ってないよね」
「私もそんなものは持ってないぞ?」
「……マシュはもっと違う言語を持ってるから良いんだよ」
「そうですわね。独自言語をお持ちです」
「それは褒めてるのか?」
「もちろんだよ」
「もちろんですわ」
何故か全員の視線が泳いでいることにマシュは居心地を悪く感じたが、それは振り払って、分析するのは勘に従って止めておいた。迷惑なら向こうから行ってくるだろうと、放置する事にした。
大体このメンバーは独自言語を全員間違いなく持っている。
「アキちゃんも意外に持ってる感じよね〜」
「今、作られてるって感じだよね」
全員その意見には納得の表情で話し合いは終った。