崩壊編 第6話【Day.2】
俺は、人の死に非情すぎるとたまに言われる。
2年前に祖父が死んだ時、俺は涙一つ流さなかった。否、流せなかった。
人の死はあって普通のものだ。それなのに、何であんなに泣いていたんだ?もういつ死んでもおかしくない年齢だったじゃないか。どうしてなんだ?何を惜しんでるんだ?
だから井沢や多午が死んだ時も、周りが悲しんだからとりあえず悲しんでいたが、正直言って何も悲しくない。何も思っていない。思ったのは、「死体が気持ち悪い」くらいだ。
あいつらは、死ぬのが少し早くなっただけなんだ。何度も言うが、死ぬのは当たり前なのに、どうして悲しむんだ?
ここまで言うと昨日の俺と矛盾している気がするが、俺が怒っているのは二人の死ではなく、死に方だ。異常な死に方は、さらに異常を産んでしまったからだ。異常は普通を遠のかせる。
だから死なんて当たり前のことに悲しむ前に、その普通のバランスを元に戻すべきじゃないのか。
だから俺は、普通のバランスを元に戻すことにした。死んでしまう前に。だから、今の現状に立ち向かうんだ。
『なるべく』人を傷つけずに(普通のバランスが狂ってしまうから)、この状況を普通に戻すために。
そんな色々な事を考えながら家路に向かい自転車を走らせていたら、自分の家を通り過ぎてしまった。
俺は自転車を急停止させ、家に向かいUターンする。自転車置き場に入り、自転車を停める。
エレベーターに入り、5階まで行き、いつも通るドアのドアノブに鍵を差し込み、開く。
そして俺は風呂場へ直行し、鞄にしまっていたブレザーを出した。
井沢の血が飛び散って汚れてしまったため、こんなものを着て帰るわけにはいかなかったからだ。すごく寒かったが。まだズボンは色も濃いし、人通りの少ない道を選んで帰ったから見られてないと信じたい。
しかしこんなものを親に見られたらとんでもないことになるから、見られる前に洗っておこう。幸い、母はいない。スーパーにでも出かけたんだろう。
制服に冷たい水と鹸をこすり付け、5分かけてやっと全部落ちた。
そして水を止め服を絞ろうとすると、電話の鳴る音が聞こえた。
ブレザーを放り出し受話器を取ると、「もしもし」も言う前に母の甲高い声が飛んで来た。
『ちょっと優!あんたの学校、マスコミと警察がすごい集まってるわよ!何かあったの!?』
……やっぱりか。
まだ多午の事例しかないから確証はないが、恐らく死んだその日は「死んだ」ということになっている。次の日にはいなくなってたが。
だからたまたま死体を見かけた下級生か先生が、通報でもしたんだろう。
「はぁ!?知らねぇよ!」
まあこんなことは想定内だったので、俺は演技で驚いた声を上げた。
『知らないはないでしょ!あんたの学校のことよ!?』
「だって本当に知らねぇんだよ!……分かったよ!今からそっち行くよ!」
俺は受話器を戻した。
……成り行きとは言え、まさか行くことになるなんて。面倒臭ぇ。行っている間に母が帰ってくるかも知れないので、ブレザーを絞り自室のハンガーにかけた。
制服で行くとマスコミの質問攻めに会いそうだったが、母が現場にいたら「何ぐずぐずしてんのよ!」と言われそうだったので、制服のまま外に出た。
マスコミとパトカーの数は、想像以上だった。どこを見ても、マスコミ、警察、野次馬。
「KEEP OUT」と書かれたガードに野次馬が集まっている状態だ。
自宅で白骨死体ならまだしも、学校で破裂死体だもんな。
しかしマスコミも警察も、災難だな。明日になれば、(多分)全てなかったことになるのに。
結局母親は見つからず、俺はここにいる理由を無くしてしまったが、早く帰りすぎるとまた何か言われそうな気がしたので、適当に周辺をうろついて時間を潰してから帰ることにした。
それにしても寒い。上着を着てこなかったせいか。まぁ乾いてないからな。缶コーヒーでも買うか。
そう思って学校を出てよく行く自販機の所に行き、ポケットから財布を出そうとした時。
「くしゃ」と謎の音がした。
この音が、あいつの言っていた「ゲーム」がさらに進むきっかけになった。