崩壊編 第2話【Day.1-2】
多午の家に寄ってみたが、まだ警察がいて、とても入れる状態ではなかった。
まぁ、考えてみれば当然だ。先生が言い淀むような死に方をしたんだ、よっぽどとんでもない死に方だったんだろうな、と他人事のように考えていた。
「まさか……自殺、とか?」
戸田が小声で、俺と堂本に訊く。
「…多午君が、自殺なんてするはずないよ……だって昨日まで、あんなに元気そうだったんだよ……?」
堂本の目元には、薄っすらと涙が浮かんでいた。他人ごとのように思えてきている俺とは違い、まるで家族が死んだかのように悲しんでいる。
「でも……自殺にしても、こんなに警察は来るのか?」
ちょっと人数が多すぎる気もしないこともない。自殺で警察がどれくらい来るのかは知らないが。
「ねえ、二人とも……」
堂本が、どこか疲れたような声で俺を呼ぶ。
「これ以上ここにいても、邪魔なだけだよ……だから今日は一旦帰って、落ち着いた頃にまた来よう?」
―――そうだな。これ以上ここで粘っても、何も出て来ないだろう。
俺達は一旦解散し、自分達の家に戻った。
夜、戸田からメールが来た。多午の事が夕刊に載ってる、と。
仰天してリビングへ新聞を取りに行き、メールに書いてあったページを半信半疑で見ると、本当に多午の事が載っていて、俺は目を疑う。
『中学三年生男子 一晩で白骨死体化―――――――』
ここにきてようやく、多午の死因が判明したが、白骨死体というのは何かの暗喩かと疑う。が、新聞はそんな暗喩は使わないなとすぐに気づいた。だとしたらわけがわからない。
(なんだよ、白骨死体って………)
新聞によると白骨死体はリアルな人形とかではなく、正真正銘多午の骨だったらしい。余計にわけがわからない。
(どんな方法で死んでも、白骨死体にはならないよな……)
どう考えても不条理で整合性のない普通じゃない事実に、言いようのない不快感を覚える。死んだ所までは百歩譲るとしても、なんでこうなったのか。
そんな風に死なれると、普通のバランスが狂うんだよ。不快なんだよ。せめて普通に死んでくれないと困るんだよ。こっちの事も考えろ。
思わずその記事を破りそうになったが、親に怒られるので思い留まった。
…………ない。
多午の荷物が入っていた、ロッカーが。机が。
とにかく、多午の遺品が、全てなくなっていた。
「先生が処分したのか………?それにしても、たった1日で、しかも俺達に何も言わずに……?」
クラスメイトの一人が、怪訝そうな表情をする。そりゃそうだ。たった1日で、無申告で生徒の遺品を処分する薄情な教師が、一体どこにいるんだよ。
「あ!先生!」
戸田が俺の服を引っ張り、無理矢理先生がいる方角を向かせる。先生は、平然とした顔で廊下を歩いている。かと思うと、1秒後には戸田に襟首を掴まれていた。
「な、何するんですか……戸田君……」
先生が、息が締まって苦しそうな表情をする。
「何したも何もねぇよ!何で俺達に何も言わずに、多午の遺品を捨てちまうんだよ!」
すると先生は、明らかに変な表情をして、
「……多午?誰ですか、多午って?」
その言葉の直後、先生の顔に戸田の本気のパンチがめり込んだ。
「フザケんな!あんたのクラスの生徒だっただろ!」
「そんな生徒、私は受け持った記憶がありません!」
ダレデスカ、タゴッテ。
ウケモッタキオクガアリマセン。
その言葉から、一つの推測が浮かんだ。
ハッキリした確証はないが。
――――――多午の存在自体が、消滅している。