崩壊編 第1話【Day.1】
俺は、どこにでもいる様な普通の中学生、萩原優だ。俺が通ってる中学校も、どこにでもある様な普通の学校だ。だから先生が怪物だったり、クラスの中に超能力者が紛れ込んではいない。
「お早う」
俺は、普通に登校し、普通にクラスメイトに声をかける。
「お早う、萩原君!」
今挨拶を返したのは、俺の幼馴染でありクラスのアイドル、堂本美琴だ。俺もあいつと幼馴染であることを誇らしく思っており、あいつのことが好きでもある。
「優、目が半開きだぞ!また受験勉強で夜更しか?」
こいつは、俺の親友の戸田茂だ。情に厚く誰にでも気さくな、クラスのムードメーカーだ。
この二人は、どちらも俺の親友だ。どちらも普通すぎる俺とは不釣り合いだが、それでも何故か普通にうまくやっていけてる。
俺はさっきから普通普通と言っているが、別に普通が嫌いなわけではない。むしろ、この普通を心から愛している。この普通を邪魔する様なものは、何一つない。―――いや、いらない。普通が一番平和なのだ。
「ん?」
その時、なにか普通とは違うものを感じた。何かが、足りない様な気がする。誰だよ、俺の普通に支障をきたすのは。
まあ、こういう時は誰かが休んでいることが多い。
「なぁ、もしかして今日、誰か休んでるのか?」
俺は、さりげなく戸田に聞いてみる。
「休んでるかは知らないけど……今日、多午がまだ来てないんだよ」
あいつか。いつも朝一番に登校し、クラスの雰囲気に火をつける熱血野郎。あいつがいないから、今日はクラスが何となく静かなのか。
「にしても、元気と熱血だけが取り柄のあいつが休むなんて珍しいな」
「ああ。しかも、連絡がまだ来てない。堂本のところにも来てないらしい」
戸田と堂本は学級委員でもあるから、こいつらに連絡が回ってこないのは、いくらなんでもおかしい。
その原因を普通の頭で考えようとしたが、始業のチャイムがそれを遮る。一斉にクラスメイトが席に座る。先生が、教室に入って来た。何故か普通の時と違い、少し暗い様な気がする。
今日は、俺の普通を邪魔する奴が多い。しかも先生は、毎日恒例の朝の説教をしない。だから、俺の普通を邪魔するなよ。
俺のその思いは惜しくも先生に届かず、先生は教卓の前に立ち、静かに口を開いた。
「えー、皆さんに、大変悲しいお知らせがあります」
早く言え。どうせ、宿題がいつもより多いとかだろ。
「その……
多午君が、今朝……亡くなりました」
クラス中に、ざわめきが走る。当たり前だ。多午は、昨日まで何事もなかったんだから。
「なんで……なんで、多午は、死んだんですか?」
多午と同じ部活だった小坂が、先生に訊いた。
「それが……原因がよく分からないんです。警察も呼んで調査中なんですが……」
何人かのざわめきの声が止まり、驚きに変換される。警察って……多午はどんな死に方をしたんだ?
しかし先生は多午の死因については微塵も触れず、そのままホームルームに突入してしまった。
何でだろうか。その理由を考えているうちに授業はあっという間に終わり、放課後になった。
「なぁ……今日、多午ん家に寄ってみないか?」
戸田にそう誘われ、俺と堂本はあっさりとOKした。
―――――そんなことをしなければ、まだやり直せたのかな?