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崩壊編 第17話【Day.3】

(……さてと)

うちは改めて、ブルーシートに向き直る。警察が忙しそう。うちも野次馬の垣根を超え、現場を見続ける。せめてブルーシートの膨らみで相手の体格くらい分かるといいなって思ったけど、

(なにあれ)

あのブルーシート、人の形に膨らんでない。なんでか知らないけど、四角形に膨らんでる。だけど血はブルーシートからはみ出てる。どんな死に方したらああなるんだよ、ってちょっと考える。丸まったってあの形にはならないだろうし、うーん。

(つかさ、あれ、結局誰なの?)

制限時間はあと12分。それまでに分からないとどうなるか分からないけど、あの主催者、マジでやばいことしそう。やばいやばい。樹里や戸田、あとなんかいるらしい萩原の到着待った方がいいのかな。つかこの前みたいになんかひらめかないかな。

(死体は目の前にあるのに、誰か分からないなんて……)

微かに漂ってくる血の匂いとブルーシートの匂いが、吐き気を催させた。食欲はなくなりそうだけど、こんなダイエットやだ。

(そうだ、鞄)

鞄の中身見れば誰か分かるじゃん、と思ったけど、鞄を取りにいけない。人が邪魔とかじゃなくて、逆に人払いされてるし。あれで取りに言ったらKY通り越して追い出されるに決まってる。

しかしそんな事で悩む必要はなかった。警察のいわゆる鑑識?が、鞄の中身を調べだした。

(チャーンス!)

あれ覗き見すれば誰か分かるじゃん、と思い、必死で人波をかき分けようた。なんとか鞄の見える位置までおどり出て、中身に注目する。教科書、筆記用具、携帯、それから鞄をよーくひっくり返した結果、煙草の箱がぽろりと落ちてきた。

「え」

警察が一瞬どよめく。私は考える。うん、クラスで煙草なんか吸っちゃってる奴なんて、1人しかいない。

「……渡辺……?」

その瞬間、無音になった。



『ぱーんぱっかぱーん!正解者が出ましたー!』

再び無音になり、背景が固まり、時間の停止するデジャヴ。そしてこの殺意の湧いてくる声。俺達は一旦、自転車を停めた。

『正解者は倉石翔子さん!死体が誰かを、見事に解き明かしました!』

「えっ、マジで!?やるじゃんショーコ!」

んな事言ってる場合じゃねーだろ、という戸田の声で我に返って再びペダルを踏み込む。そして主催者の声を無視して、さっきよりも急いで団地に向かおうとする。

『ちなみに死体が誰かも発表しとくね!死体の正体は……渡辺竜騎君でしたー!』

その声で、一瞬足が止まったが、直後により足に力が入った。何故なら、渡辺は昨日俺達が疑っていた奴だったからだ。


団地に到着した時、まだ時間停止は解除されていなかった。まだ主催者が話し中だったのか、それとも俺達が必死こいて到着したからなのか。

「樹里!」

人混みの向こうから、倉石の声がする。

「ショーコ!」

すぐさま難波が自転車から降りて(その際戸田が一瞬バランスを崩して)、人混みに走り寄っていく。しかし、人混みの先に進まないのを見ておかしいと思ったが、進めないんだなとすぐに気づいた。

「ショーコー、大丈夫ー!?」

「大丈夫だけど、そっちはー?」

「人が邪魔で行けなーい!」

「こっちも!てゆーか、人に挟まって動けなーい!」

俺も現場の様子が少し気になるが、あの状態ではたとえ人がそれほど多くなくても、通れる程の隙間がない。

「……ねぇ、この人混みって超えて大丈夫かな?うまいこと足をかけてけば……」

「人踏むの?」

「いや、もういいっしょ。どうせカチコチなんだし。踏んだって気づかないって。よいしょ!」

そういう問題なのかと俺達が思っている間に、難波は人混みに足をかける。そのまま手やら鞄やらを踏み、肩に足をかけたところでバランスを崩した。

「おっと!」

しかしすかさず、いつのまにか移動していた戸田が受け止めていた。突っ立っていた俺とは違い。

「サンキュー、戸田っち」

「分かったからさっさと体制直せって」

難波はさっと起き上がり、肩を超え、人混みの内側に降りた。

(……どうしよう?)

流石に人を踏むのは普通に躊躇ってしまうのだが。

「なにあの死体……」

「樹里、分かる?」

「全然…もっと近くで見てみる?」

「そんじゃまず、うち抜いて……」

「うん……あれ?……男子来てー!ショーコが抜けないのー!」

その声で、俺達の行動は決定せざるを得なかった。



死体を見て、俺は、俺達は目を疑った。

「なんだよ……あの、死体……四角形……?」

そう、戸田が言ったように、そこには四角形の死体があった。ブルーシートに包まれているが、透けた暗い紅とはみ出た血からして、あれは間違いなく死体だ。……あれが渡辺なのか?渡辺はどうしてあんな形になってるんだ?

「……倉石、なんだあれ」

「そんなん、うちが聞きたいし。つかさ、早く抜いてくんない?」

「……あっ、悪い。……よっ…と!」

死体も気がかりだったが、3人がかりで引っ張って挟まってた倉石の腕と足が抜けた。普通に考えて女子の体を男子が触っていいのかと思ったが、この際いいだろう。

「あー、痛かったー。つか狭かった」

「倉石、ケガはないか?」

「あーうん、うちは大丈夫」

なんて言いながら、死体とさっきからまったく無視していた球体に全員揃って向き合うと、主催者はさっきからずっと黙っていたようだった。

『……うん、これでギャラリーはいいかな』

「は?ギャラリー?意味わかんない」

挟まれていた部分をさすりながら、倉石は言った。

『だってさー、肝心の現場に1人しかいないなんて寂しいじゃん。だからこうやって、ギャラリーの到着を待ってたの。もうちっと待ってもいいけど、そもそも君たち以外現場知らないよねー』

確かに。

『ところでさ、この死体どう思う?』

「気持ち悪い。正気の沙汰じゃないな」

俺の即答だった。

「てめぇ……何考えてんだよ。渡辺をこんな風にしやがって……!」

「そうだよ!つかどうやったの!?教えろし!」

『あーはいはい、好奇心旺盛ですねー。ま、そうじゃないと面白くないもんね。それでは現場に集合したみなさん、そもそも現場がどこか分かってない外野の皆さん、お待たせいたしました!』

何がだよ。

『えー、これで死体も3体目となりました。怖いねぇ、次はキミ辺りが死んじゃうかもねぇ』

「やってんのはあんたじゃん……」

『皆今、『やってんのお前だろ』って思ったでしょ。単純だねぇ、もうちょっと頭回らないの?』

さっと察知して戸田をがっちり止めて正解だった。球体を破壊しようとしていた。

『さーて、明日はなにしようかなー。こんなんじゃ、まだまだつまんないなー。明日はもっと面白くしようかなー』

明日、という言葉を聞いて、ふっと堂本の言葉を思い出した。

(今日も、死んじゃうのかな)

堂本の言葉を、頭の中で思い出す。堂本の言葉は当たっていた。だとすると、もしかしたら、明日も、

『 もー、そんな明日にでも死んじゃいそうな顔しないでよね、みんな!……そうだ、忘れてた。正解者の倉石翔子さんにはご褒美をあげないとね』

「ご褒美?」

倉石が球体に顔を近づける。

『倉石さんには、私への質問権をプレゼントしまーす!1回限りの大チャンス!さぁさぁ、何聞いちゃう!?』

「じゃあ、あんたは何がs――――――――」

「待て、倉石!」

戸田が怒気たっぷりの倉石を静止した。

「なによ、戸田!ジャマしないで!」

「……いや、今ここで質問権を使うのは勿体無い」

「は?」

「よく考えろ。クラスメイトは、お前以外にも――――――30人―――――――いる。他の奴らも聞きたいことはあるはずだ。今ここでさっさと質問権を使うのは勿体無い。折角のチャンスなんだ。よく考えてくれ」

「俺も戸田に賛成だ。もしかしたら、他にも訊くべきことが出てくるかもしれないんだ」

戸田に同調しながら、戸田にしては冷静な判断だ、と思った。てっきりまだ頭に血が昇っていると思ったから。

「……どうしよう、樹里」

「う~ん……2人がそう言うんだったら、そうしとけば?」

『ふーん……じゃあ今は、聞かないってことでいいの?いいんだね?ファイナルアンサー?』

倉石は無言で頷いた。

『……どうやら、倉石翔子さんは今はまだ質問権を使わないそうでーす。ところで現場のみんなー』

「……なんだ」

『さっき難波樹里さんが言ってたけど、死体がどうしてこうなったか知りたいそうでーす。この死体、なんと四角形なんだよねー。それじゃ、ここにいるみんなにだけ、特別にお見せしちゃいまーす!いないみんなは、現場の音声を中継するから悲鳴から想像してねー!』

「えっ――――――――」

「竜騎!」

下村の声がどこかからしたと思った瞬間、動かないはずのビニールシートが、一気にめくれた。

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