崩壊編 第15話【Day.3】
ここで回想は終わり、リアルタイムに戻る。
普通に一日は終わった。気持ち悪いくらい何も無かった。
先生が出て行った後、ドアが開くのか、また閉じ込められてないか警戒したが、普通に拍子抜けするくらいあっさり開いた。
そして拍子抜けしたまま何となく戸田と一緒に帰っている。自転車は手で押しながら。習慣というのはあな恐ろしい。
(しかしここまで何もないと、逆に異常だ)
あの「主催者」とやらが何も企んでいないはずないだろう。ただ、その企みが読めない。まあ、そういう頭を使う事は堂本と戸田に任せた方がいいかもしれない。
(あと、気がかりはもう一つ)
「堂本は……大丈夫か?」
戸田が今言ったように、堂本の事が気がかりだ。
昨日の晩の時点では俺の地雷発言の前はまだ気丈な感じだったが、地雷発言のせいでまたなんか弱ってきていて、今日に至ってはとうとう膝から泣き崩れる始末。
「分かんねぇな…堂本だから大丈夫って気もするけど、堂本だから不安って感じもあるんだよ」
「やっぱ優もそう思う?」
しかし自分の命を心配して参ってしまうならまだ分かるが、「もう大切なクラスメイト失いたくない」と言っていたあたり、どうも他人を心配しすぎて参ってしまったようだ。そこが堂本らしいといえば堂本らしい。というか凄い。俺には到底真似できない。
しかし、堂本はこんなに参ってしまっていて、大丈夫だろうか。何かしてやれる事は……って、俺は昨日堂本にやらかしてしまった立場だ、今何をしても逆効果だろう。
「それと……どうする?頭蓋骨ミニチュア」
気がかりその2。俺の持ってる頭蓋骨ミニチュアプラス暗号ペーパー。今は家にあった適当な小箱にしまって鞄に入れてある。
「正直不気味だから持ってたくないけど……暗号?も意味不明だし」
「だからって捨てんのもな……多午と井沢の可能性がある以上」
「にしてもどこ置いときゃいいんだよ、こんなもん。親が見つけたら家族会議確定だ」
「……優の母ちゃん、ヒステリックだもんな」
そして割と真面目に隠し場所を話し合いながら、交差点を渡り、渡るはずだった。迫る物体。危ないの声。視線。
異常事態。そう気付いた時にはもう遅く、車がスピードを緩めることなく、こちらに向かって来る。
避けきれない距離まで近づき、話に夢中で気づかなかった―――と後悔し、いやでも信号は青だったよな、信号無視はこっちか、なんて余計なことが頭を高速で通り過ぎる。俺の今日は、普通に、終わらなかった。
そして無音。俺は一瞬、轢かれて感覚が吹っ飛んだのかと思った。だがなんか違う。俺の足は地に着いてる。
「…?」
まだ自分の現在の状態を掴めないままゆっくりと自分の首と判別できるものを動かし、視界を動かす。
自分の目前にまで迫った車が、止まっている。こちらを見る人間が、こちらに何かを言う体制のまま固まっている。そして隣にいたはずの戸田がいない。
(あれ?)
身体の感覚が何となく戻ってきて、轢かれてない、と脳が認識しだし、まだふらつく足を動かしだすと、戸田が歩道までリターンしていた。
(どうなってんだ?)
そして驚くことに、戸田はこちらに向けて手招きをしてきた。
「お、おう……」
取り敢えず自転車を起こし、居眠りしてる車の運転手の顔を見つつ歩道まで戻った所で、ここ現実だ、とはっきり脳が認識した。
しかし目の前の戸田が、何を言ってるか分からない。終始口パクだ。
「―――――っ、げほっ、ごほっ!」
そして突然、戸田が目の前で咳き込んだ。
「おい、大丈夫か!?」
「ごほっ、ああ、大丈夫だ……何か轢かれて夢でも見てんのか、って思って声の出し方忘れてた」
「なんだよ、びっくりさせるなよ……口パク手招き、今思うと不気味だったぞ」
「いや、このままじゃ轢かれる、って思って夢見心地で歩道戻ったら、優がまだ道路にいたから、つい……」
流石の戸田も、こんな状況に置かれるとこうなるのか。そして戸田と会話をしたおかげで、大分考える余裕が生まれてきた。
「どうなってんだ……?」
辺りを見回すと、なにもかもが固まってしまっている。プラスチックでも流し込んだみたいに。
「痛っ」
戸田がカチコチの植え込みに触れ、葉が刺さって痛そうにしていた。
『びっくりしてるー?』
俺はもう何かを認識するよりも、真っ先に悲鳴を上げた。尻餅をついてから、目の前にサッカーボール大の光の球体が浮いてるのに気がついて、思わず後ずさる。
(つか、この声…!)
間違いない、『主催者』の声だ。
『みんな分かってないようだから説明するとねー、周りの時間を止めたの。その方が話しやすいでしょ?』
(……はぁ?)
時間止めた?なに言ってんだこいつ?てか実現可能なのかんな事。……いや、もうできるかできないかに突っ込むのはやめよう。こいつは何でもできるんだろう。
『皆の所にこの通信媒体を送り込んでー、皆に一斉に話してるから質問も口答えもご勘弁ね』
その言葉には凄く重みがある。
『まあ何で皆がバラけた後にこんな風にわざわざ時間止めて話してるかというと、ワケがあるのよね』
(ワケ?)
そう思うがとても言えない。
『ついさっきね、1人殺しちゃったんだ☆』
球体に飛び掛かろうとした戸田を必死で止める。戸田の怒りが沸点どころか大気圏を越えている。
(落ち着け、戸田、落ち着けって!)
戸田が怒りまくってるせいで逆に冷静になった俺は、小声で必死に戸田を宥める。それでおさまる奴じゃないのは知ってるが、一応だ。
そして俺の必死の闘いも無視し、主催者は続けた。
『でねでねー……殺したのは……だーれだ?』
……は?