崩壊編 第10話【Day.3】
原因不明の死を遂げた二人。そしてその二人の存在そのものが消滅して、代わりにこんな頭蓋骨の気味悪いミニチュア。何でこんなことになったのか、何がしたくてこんなことをしているのか。この部分は考えれば考える程、嫌気が差す。
(糞っ、何が一体どうなってるんだよ……)
黒板に女教師が年号やら人物名やらなんたらかんたら書いているが、俺は当然それをノートに書き写してなんぞいない。授業なんて聞く気も起きない。当たり前だ。この前、井沢の肉や血やら内臓やらが飛び散った床の上に椅子を置いてその上に座って授業を受けている、そう思うだけでも形容しがたい吐き気が込み上げてくる。
そしてその井沢はもういない。机もロッカーも全部消えた。あいつの痕跡は、何一つ無くなった。
俺は時計を見て、黒板を見て、色々考えて、そうやって授業が終わるのを待った。まだ2時間目だ。これを6時間目まで繰り返すのかと思うと、頭が痛くなってきた。
(早く普通に戻れ……)
皆が黒板を睨んで必死に授業を受けているあの頃が、今はとても遠いものに感じた。
俺はまだ、俺の知らない所で裏切りが生まれつつあることを知らない。
放課になり、俺達クラスメイトは教室の中心に集まる。今や放課中も参考書を開いて勉強する奴の姿はこのクラスのどこにもなくなった。これが受験シーズンの光景とは、誰も思わないだろう。
誰かが、この現象に関することに対して口を開く。誰かがそれに返事を返す。議論が始まる。結論は出ず、恐怖感のみが募る。それの繰り返しが延々と続いていた。そこにチャイムが入り授業が始まり、終わればまた集合して議論スタート。
こんな光景、どう見てもやはり普通ではない。俺の普通を奪った犯人が憎い。犯人が分かったら、今すぐにでもこの手で殺してやりたいくらいに憎い。俺が怒りで右拳を握ると、爪が食い込んで痛かった。
「……ねえ、ちょっといいかな」
クラスメイトのほぼ中心にいた堂本が、静かに口を開いて手を挙げた。堂本は、消え入りそうな震えた声で言葉を紡ぐ。
「……今日も、死んじゃうのかな」
ここだけ聞けば意味不明だが、なんの事を言ってるのか、俺達には大体想像はつく。
「二日前は多午君が死んで、昨日は井沢君が死んだ。今日も誰か死んじゃうの?死んだら、またその人の存在消えちゃうの?親や先生も、その人のこと忘れちゃうの?……いやだよ、私、もう、大切なクラスメイト失いたくないよ……」
堂本が、膝から崩れ落ちて静かに泣き出した。それから数秒は堂本の言う事に皆共感していたが、数秒後には、皆同じ事を思っていただろう。
『今日、もしかしたら自分が死ぬのかも知れない』と。
人間、誰だって結局は他人より自分のことを優先するのは当然のことだ。自分の死の恐怖に皆怯え、震え、惑う。死が当たり前とは言えど、死んでしまえばしょうがないといえど、自分が当事者なら話は別だ。
(……あいつが言う通り、これが『ゲーム』なら、戸田が主人公、堂本がヒロインなんだろうな。多分俺はそのうち死ぬ。……いや、待てよ?)
俺の中で、稲妻のように思考が走り始める。
(毎日誰かが死ぬんなら、あいつが殺すんじゃなくて、俺達の誰かが殺してもいいんじゃないのか?死体が一つできることには変わりは無い。ということは、俺が毎日一人殺せば、俺の命日は延びる……)
こんな事を考えてる時点でかなり危ないのに、俺の思考は更に悪い方向に走り始める。
(もし主人公を殺したらどうなる。主人公が死んだら、ゲームにならない。だから『代役』ができる。その『代役』に俺がなれば……)
その時、俺は我に返った。俺は今、主人公、つまり戸田を殺そうと考えていた。何を考えているんだ俺は。もしそれで世界が普通に戻っても、親友が消えてたらその時点で普通じゃない。
でももし、親友が消えようが消えなかろうが世界が変わらないと知ったら、俺はどんな行動に出るだろう?
門之城中学校、つまり『ゲーム』の舞台の中学校の屋上の給水塔の上に、私は座っていた。今は、お気に入りの白のワンピースは着ていない。路地裏の不良のせいで汚れたり血がついたりしてもう着ていたくなかったから着替えた。ちなみに、ワンピースは洗濯してもらってる。
冬だけど桃の水玉のタンクトップに短パンを履いて(どうせ寒さなんて感じないし)、1階の3年4組の会話を聞いている。ちなみにどうして1階の人達の会話が屋上にいる私に聞こえるかというと、それは私が『ゲーム』の主催者だから。主催者は舞台を管理する権利がある。
「……ふんふん、ほーお。毎日誰か死ぬかも知れない、かー。……それ、超ナイスアイデアじゃん!毎日適当に誰か殺せば1か月くらいで『選別』終わるし、何よりゲームの駒が怖がってくれるし!それに『優』の反応を調べるには丁度いいかも……!」