弾幕ごっこと新たな目標
幻想郷に来て5日が経った。
教師の仕事もまだまだ下手だが、子ども達にも好かれたのが良かったのか授業も教えやすくなった。
「命蓮先生、さようならー!」
子ども達を見送ると何人かが必ずこうやって声を掛けてくれる。
「さようならー!」
僕もそれに応え、手を振って見送ると寺子屋に戻り、一息ついた。
「先生、か…」
まだ先生と呼ばれる事に慣れないので、少しこそばゆい。
だけど教師というのも悪くない…最近そう思えるようになった。
この幻想郷には僕が知らない事が沢山ある。
幻想郷の成り立ちや歴史、文化等数え上げるとキリがない。
そういった事を子ども達と共に教わる。それが一番楽しいのだ。
僕が生きていた時代には無かった体験。それが今出来ている。
「フフ、これは異変に感謝しないといけないなぁ」
もしあのまま死んでいたら、こんなに素晴らしい体験は出来なかったのだ。
お礼を言う為にも異変を探さなければ。
「おっと。また一つ、異変を探す理由が出来てしまったな」
そう呟き、用意した玉露を飲んでいると
「めーれん!遊ぼー!!」
チルノが大ちゃんと共に入ってきた。
最近は授業が終わると、チルノと大ちゃんに人間の子ども達も含めて遊んでいる。
まぁ僕が遊びに交わり始めたのは、チルノに蛙を氷らせるのを止めさせるためだったが…いつの間にか僕自身がハマってしまった。
最近では遊びもかなり進化していてベーゴマ等はとても面白かった。
「今日は何をして遊ぶのかな?皆帰ってしまったけど…」
「うん。だから弾幕ごっこしようよ!」
「弾幕ごっこ?」
少し前に慧音さんから聞いた話にも出てきた単語だ。
なんでも力ある妖怪と人が平等に戦えるスペルカードルールに基づいた遊び、らしい。
決着はどちらかのスペルカードが先に無くなるか、又は弾に当たるかという単純なものだが、その勝負は目が釘付けになる程美しい…と慧音さんが言っていた。
ちょうど良い機会だ。異変に関わるなら弾幕ごっこも経験しなければならない、と慧音さんも言っていた。
何よりどれほど美しいのか興味が沸いてくる。
「うん、良いよ」
「やった〜!」
チルノは嬉しそうに飛び跳ねる。
しかし大ちゃんは少し心配そうな顔をしている。
「どうかしたかな?大ちゃん」
「あ、いえ…その……大丈夫なんですか?」
「ん?何が?」
「弾幕ごっこですよ。出来るんですか?」
あぁ、そのことかと納得する。
確かに僕はまだ弾幕を撃てない。
だけど伊達に旅をしていたわけではない。道中でも危険な妖怪には何度も襲われたが、全て回避して来た。
それに弾幕を撃たないと出来ないとは聞いていない。避けるだけなら弾幕を撃てない僕でも出来る。
「大丈夫だよ、大ちゃん。さぁ、場所を移そう」
チルノ達を連れて人里の郊外に出る。
ここなら人もあまり来ないし、邪魔にはならないだろう。
「さてと…僕は弾幕ごっこは初めてだからお手柔らかに頼むよ!」
チルノと距離を取って少し身構える。
チルノは準備万端とでもいう風に仁王立ちしている。
「それじゃあ、ルールを説明しますね」
大ちゃんが用意していたであろう紙を読み上げる。
「今からチルノちゃんがスペルカードを三枚出します。命蓮先生は全て避けると勝ち、二回当たると負けになります。良いですか?」
「僕は良いよ」
「分かりました。それでは……始め!」
――――数分後
「そんな…あたいのスペカが全部よけられるなんて……」
「凄いです!とても初めてとは思えませんよ」
「ん、そうかい?そう言われると僕も嬉しいよ」
何とか全部避け切れた。でも少し見取れてしまって危なかった場面もあったが。
「チルノの弾幕、綺麗だったね」
少し落ち込んでいるチルノを励ます。
すると一変、顔を輝かせて自慢げに話し始める。
「そーでしょ!なんたって、さいきょーのあたいの弾幕だもん!!」
それは最強と関係ないんじゃないか、と思ったが…言わぬが華だろう。
「流石だったぞ、命蓮」
木の影から慧音さんが出て来た。
どうやら、さっきの弾幕ごっこを観られたらしい。
「まぁ僕は避けるだけですから…凄くないですよ」
弾幕どころか空も飛べないのであまり良いとは言えない。
しかし慧音は首を横に振る。
「謙遜するな。弾幕も空も飛べない、それに初見だったのにチルノの弾幕を全て避けた…それは誇れる事だ」
「そうですよ先生。凄くないこと無いんですから」
大ちゃんも一緒に誉めてくれる。
チルノと弾幕ごっこをしていたら、弾幕も撃てず、空も飛べない自分に少し劣等感が沸いていた。
でももう大丈夫。
自分は自分。
さっきのチルノとの弾幕ごっこで証明したはずだ。
弾幕が撃てなくても、空を飛べなくても、全て避ければいい。
その事に気付かせてくれた三人にお礼を言う。
「皆、ありがとう」
チルノと大ちゃんはキョトンとしているが、慧音さんは頷いて応えてくれた。どうやら劣等感の事はバレバレだったみたいだ。
なんだかそう思うと凄く恥ずかしくなってくる。
「ま、腹も減っただろう。飯を用意したが食べていくか?」
「はい、お願いします。チルノ達も食べるかい?」
「えっ良いの!?」
「ではご馳走になります」
そうして寺子屋への帰り道、僕はついさっき叶えたい目標が出来た事を反芻させていた。
先程のチルノを見て出来た目標。
時間が掛かるかもしれないがそれでも叶えたくなって、呟いた。
「空…いつか飛びたいなぁ……」