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九十九尾の狼の娘

遅くなりました。書き方がブレてないか心配です……。

「暇だなぁオイ……」


ズズッと縁側で茶を飲みながら日向ぼっこ。

最近の幻想郷では異変らしい異変は全く起こらず、昼はこうして明王と命蓮が共に茶を飲みあうのが日課になっていた。


「確かに暇ですが、それは平和だという証ですよ」


ボヤく明王の隣で正座しながら命蓮も茶を喉に通す。

季節はまだ冬だが、最近は少しずつ暖かくなってきたような気がし始めたこの頃。

暇つぶしに見ている『文々。新聞』には


『第二次月面戦争勃発!月の命運や如何に?!』


と、大々的に取り上げられている。

取り上げられているが、この話が盛り上がったのは二ヶ月は前だった筈………まぁ、深く考えたらいけないだろう。


「あーー……やっぱ暇だわ。面白れぇことねえかなぁ〜〜」


ゴロゴロと縁側を寝そべりながら明王が転がると、命蓮が何かに気付いたように明王を見る。

見えにくいが、よく見ると明王の服に犬か猫か分からないが灰色の動物の毛が付いていた。


「明王様、服に動物の毛が付いてますよ」

「動物の毛?まったく、いつの間に……」


よっこらしょと座り直して毛を摘んで目の前へと持っていく。

やはり灰色の毛だ。

珍しい物だと命蓮が見ていると、明王が難しい顔をして毛を睨んでいた。


「…この毛、どっかで見たような……うーん……」


どうやら見覚えがあるようだが、ハッキリと覚えては無いようだ。

しかし、本当に珍しい色の毛だ。この幻想郷に灰色の毛を持った動物と言えば狼か妖怪位だろう。

狼と言えば、僕達が元々いた外の世界の日本では狼は絶滅したらしい。

僕達の時代には我が物顔で闊歩していたあの狼達が絶滅したと聞いた時にはにわかに信じられなかったが、幻想郷は忘れ去られたモノを受け入れる、つまり絶滅した動植物は必ずと言って良い程幻想郷に入っているのなら、やはり絶滅したのだと納得するしか無かった。


悲しい事だ、と思っていると突然空から何かが降りてくる音が聞こえた。

この寺に来る者は皆歩いて門を潜るので、空を飛んで入ってくるのは必然的に、新聞を届けにきた文さんか、新聞を届けさせられた椛さんの二人に絞られる。


「文さんかな?」

「ん?どうした、命蓮」


適当に今から来るお客を予想すると、明王が毛から目を離さずに訊いてきた。どうやら他の事が気にならない程毛に悩んでいたらしい。只の毛にそんなに集中しなくても良いと思うのだが……。


「いえ、誰かが降りてくる音が聞こえるので文さんかなぁ、と」

「あん?」


そういって毛から顔を離して空を見上げる。

―――その瞬間だった。


バキボキグシャ!!!



「クペ」


嫌な轟音が響く。

何が嫌って言うと、自分の寺の材質の木が折れる音だから。

そして隣を見ると……凄まじい速さで落ちてきた何かが縁側の天井を貫き……下にいた明王も巻き込まれていた。


「み、明王様!?大丈夫ですか!」


…………。


返事がない。只の屍の様だ。


何故か、そんな言葉が頭を()ぎりました。


「ちょ!死なないで下さいよ!?今助けに……?」


未だ土煙が登る中へ助けに行こうとすると、煙の中に誰かが立ち上がる姿を見た。

初めは明王かと思ったが、よく見ると背が小さい。

明王は命蓮より頭二つ分以上高い。足まで見えているのに、その背は命蓮の肩までしかない。

そしてもう一つ、決定的に違うのが――――尾が三本生えている事だった。


当然、明王には尾は生えていない。

勿論尾を持った妖怪とも交友はあるが、その殆どが一本だ。二本の尾を持った妖怪は数える程しかいない。


「…さてと。おじ様にマーキングしといて良かった。おかげで一瞬で来れたしね〜♪」


おそらく土煙の影の主のものだろう少女の声が聞こえた。

だからといって用心しない訳が無い。

自分の家とも言うべき寺を天井から床まで壊されて黙っている人はそう居ない。もし黙っている人が居たら、それはもう聖人君子を通り越して馬鹿の領域に達しているだろう。


「…どなたですか?」


一応名前を訊いておく。もしこれで名前を教えてくれれば、少なくとも話は通じる相手だと判断出来る。


「ん?誰?」


声の主が土煙から姿を現す。

なるほど、予想は当たっていた。声の主は少女だった。見た目は十五歳程度だろうか。肩まで伸ばした灰色の髪の毛は毛先が所々跳ねており、元気という言葉が良く似合いそうだった。……天井をぶち破るという悪い意味もあるが。


「あ!アンタが命蓮?」


ビシッと人差し指でこちらを指差して訊ねてくる。

先に僕が訊いてますが等々色々と言いたい事はあるが、あまり事を荒立てたくは無い。


「僕が命蓮ですが…君は?」


再度訊ねると、ようやく少女も名乗ってくれた。


「アタシ?アタシは狼藍(ローラン)。この世で最も気高き妖獣である九十九尾の狼の娘よ!」


高らかに自分の名前を宣言する少女狼藍。

この状況でなければ命蓮も一瞬目を奪われる程凛々しい姿だが、第一印象が最悪な今、命蓮からすれば狼藍は只の不審者にしか見えなかった。


「…何よその目。もうちょっと反応してくれても良いじゃない……」


それは無理というものだ。


「と に か く !

今日はアナタに用が有って此処に来たの」


何故か無理やり話を持って行かれた感がするが、とりあえず話は聴く。狼藍ももしかしたら何かしら相談に来た客かも知れないからだ。それならば天井の事は後回しでも構わないと思っている。無論相談内容にもよるが、相談事はなるべく早く、しかし確実に解決するのが信条だからだ。


だが何故だろうか、先程から自分の勘が早く逃げろと警鐘を鳴らしている。こういった勘は一度も――――


「早速だけどアタシと勝負なさい!!」


―――外れた事は、無い。




あったら良いのにな〜…アハハ(泣)。







「ま ち な さ い!!大人しく食らいなさいよ!!」


などと理不尽極まりない発言を無視しつつ放たれる弾幕の雨を命蓮はただ避け続ける(ああ…寺がボロボロに)。

明王みたいにずっと力任せで襲ってくると思ったけど、狼藍はこの幻想郷の決闘ルール『スペルカードルール』に従って戦うみたいだ。

だがそのルールに則ると、命蓮はかなり戦い方を限定させられる。


要は『避け続けるだけ』になってしまう。

勿論、明王との修業によって弾幕は放てる様になった。ただ、肝心のスペルカードがまだ放てない。理由は簡単…作れていないからだ。

スペルカードというのは自身の能力と知識と経験を組み合わせる事で強力な効果を発揮する。


例えば、魔理沙とマスタースパークで説明するとしよう。


先ずは能力。彼女の能力は『魔法を使う程度の能力』だ。だから魔法を『発動させる事』まではこの能力で充分だが、放たれた魔法までは制御が効かなくなる。

そこで重要になるのが『知識』になる。魔法とはどういったものなのか、どうすれば制御出来るか等の知識が有れば、制御出来る計算式が編み出せる。

そして最後に必要となるのが『経験』だ。彼女だって初めからあんな魔法は制御出来なかった筈だ。それが出来るようになった……それはつまり、制御出来るまで数多の『経験』を繰り返したからに他ならない。


こうして初めて魔理沙のマスタースパークは完成したと言える。これをもし『才能』や『能力』だけで行使すると、威力が大きすぎたり発動中に暴発したりする危険が出てくる。


そして、命蓮がスペルカードを作っていない大きな理由が『能力』だ。


命蓮の能力は『神仏の加護を受ける程度の能力』というとてもあやふやな能力だ。

三千大千世界の数珠を使っている時はその能力が最大に活かされる。普通時は天界最速の仏『韋駄天』の加護を受けても50M走のタイムが一秒減るだけにしかならない。

これが三千大千世界の数珠を使うと音速を超える速さで移動出来るようになるのだから、その違いが良く分かると思う。

つまり要約すると、普通時は弾幕として使うには弱過ぎて使えず、数珠を使うと強過ぎて使えない。正に帯に短し(たすき)に長し、といった所だ。


「うりゃあ!!」

「うわっ!?」


少し気を取られていた所を隙とみたのか、爪を伸ばして襲いかかって来た。

だが、弾幕ごっこが苦手な僕にとってそれは好機と呼べるものだ。


「はぁっ!」

「!!?」


逃げ回っていた僕が反撃に出た事に狼藍は驚いたのか攻撃を中断しようと踏ん張るが、手遅れだ…!!


「ハアアア!!!」


一歩踏み込んでカウンターを入れる。

素人目から見ても完全に決まっていた。


「わーーーん!?」


悲鳴をあげながら綺麗に一直線で飛ばされる狼藍。

だが、少し威力が強かったのか寺の門まで向かって吹き飛んでいった。

そしてその先には――――。


「命蓮、少し騒がしゴフッ!?」

「……あ」


ちょうど扉を開けて入って来た慧音さんが狼藍と一緒に吹き飛んだ。

時間が止まったように辺りに静寂が走る。


「…えーと、慧音さん?大丈夫…」

「…に見えるか?命蓮……」

「ですよねーアハハ」


ダッ!←脱兎の如く逃げる命蓮。


ガシッ!←命蓮、捕まる。


「うわわわわーーー!!?」

「そう怖がるな命蓮。私の顔を見てみろ」


優しい声で慧音さんが耳元で囁いてくる。

―――そうだよ!慧音さんは元々器が大きな人だし、希望はあるかも。


勇気を振り絞って振り返る。





結論。

希望は無かった。



「うわーーーーー!!?」

「歯を食いしばれぇ!!!」


その日、僕の人生の中でも最大級の頭突きを食らったのは言うまでもないだろう。








「…で、狼藍。君は一体どんな理由でここに来たのかな?」


慧音の頭突きを交えた説教が終わり、今は皆で居間に集まって今回の騒動の原因である狼藍に理由を聞いていた。


「どうせババアの差し金だろ」


すると横から明王が顔をしかめ意味深な事を言ってきた。

言葉から察するに明王とは親しい仲と推測出来る。つまり先程の言葉を全て鵜呑みにすると狼藍は仏の使いという事になる。

その考えに至った時、僕は心の中で盛大に驚いた。

別に寺に仏や、その使いが来るのは珍しい事じゃない。

……寺を壊して入ってくる仏の使いが珍しかっただけだ。


「私のお母様はババアじゃないわよ!」

「何言ってんだ。俺より30億位若いだけだろ。立派なババアだ」

「じゃあアンタはクソジジイね!!」

「じゃあテメェはクソガキだな」

「何ですってーー!!」


あーあ、また険悪な空気に……。

この二人、常にこんな調子で喧嘩腰なので一向に話が進まない。僕としては話が聞けたらそれで良いのだが。


「まぁまぁ。二人とも落ち着いて下さい」

「「アンタ(命蓮)は黙ってろ!!」」


「二人とも説教が必要ですね」

「スンマセンでしたーー!!」


僕の説教という言葉を聞いた瞬間スライディング土下座なる技を披露する明王。

一方狼藍はなにがなんだか判らずあたふたするばかりだ。


「えっ?何?何でアンタ土下座してんの?」

「……無知とは、恐ろしいな………」


遠くの景色を見る明王の目はどこか虚ろだった。


「まぁいいでしょう。それでは狼藍。こちらに来なさい。

あなたには、今から72時間の説教を行います!!」


その言葉を聞いた瞬間、狼藍の顔が綺麗に青ざめた。


「な、72時間って!?アタシが何したってのよ!!

この鬼!悪魔!!人でなし!!!」


部屋の隅へ後退り必死に抵抗を示してくる。

確かに僕も頭ごなしに説教するのは嫌だが…。


「ちょ、アンタ!助けなさいよ!!」


傍で遠くを見つめている明王に狼藍は助けを求める。さっきまであんなに喧嘩腰だったというのに。もはやなりふり構っていられないという訳だろう。

言葉を聞いた明王は立ち上がると狼藍に近付いて肩を掴むと、凄い笑顔で救済の助言をした。


「諦めろ☆」


という全く有り難くない救済の助言だが。


「さて、ついてきなさい」

「だ、誰がついていくかって、はーなーせーー!!!キャアアアアアアアアアァァァァァァ………」


狼藍の叫び声が消えた後、明王は仏壇の前に座りただ祈った。




「(もう二度と説教を食らいませんように……)


南〜無〜…(チーン)」


最後に鳴らした鐘の音は余りにも綺麗だったそうな……。

新オリキャラ登場しました!!


やっと…やっと書き上げれました!!

なかなか細かいストーリーが安定せず、変更に変更を重ねてここまで遅くなってしまいました。待っていてくれた方すいませんでした。そして待っていてくれてありがとうございます!!


さて、新キャラの名前は高尾さんの『狼藍(ローラン)』に決まりました。ありがとうございます!

他にも色々な名前の案を下さった方々にもとても感謝しています。

これを機に、『この小説は読者の皆さんと共に作り上げる作品』と思い、より良い作品になるように頑張っていきます!




それでは、次回予告です。


九十九尾の狼の使いとして来た狼藍を命蓮寺に住まわせる事になった命蓮。

賑やかになった命蓮寺に、一人の少女が相談に来た。その相談内容とは一体…?


では、次回をお楽しみに!

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