東方風神録 〜命蓮紀行〜 stage 2
風神録 stage 2になります。
秋姉妹を何とか退けた命蓮はやっと妖怪の山の麓まで来ていた。
ここまで来ると少し薄暗くなって、如何にも何か出てきそうな雰囲気を醸し出している。
「うーん。かなりジメジメしてるな……」
しかも、日が余り届かないからなのか空気が冷たい。
これはこれで景色も相まって風流だが、あまり長居はしたく無い。
経験則として、こういった状況で出てくる者はいろんな意味で面倒になると分かっているからだ。
「あら、今日は人がよく通る日ね。厄いわぁ」
そう思っている時に背後から声をかけられる。
遅かったか…、と内心ため息をつきながらも表情には出さずに声の主の方へ振り向くと
「アナタも」
くるん
「あの山に」
くるん
「登るの」
くるん
「かしら?」
見ているこちらが酔いそうな位回転していた。
「は、はぁ…そうですけど……」
返答しながら目の前の女性の分析をしようとする。
こう考えてる間もずっと回転し続けている。恐らくこの回転こそ彼女の存在意義か?―――
昔読んだ書物に、妖怪や神というのは人間の信仰以外に、自分の存在意義を全うする事で存在を保つ者も多いらしい。
例えば神は人を導き、救うため。
妖怪は人を襲い、畏れられるため。
こういったありきたりな物なら経験があるため、どういった対象をすれば良いかある程度わかる。
だが、僕の人生の中で回転を存在意義としている妖怪や神を相手取った事は一度も無い…!
何よりも、見ていると酔いそうになるのが辛い……。
「あの〜、すいません。回転を止めていただけないでしょうか…?」
無駄かもしれないが言っておかないと―――
「あらそう。良いわよ」
普通に止まってくれた。
「あ、あれ?」
「私は厄神の鍵山 雛。人々から厄を吸い取って代わりに流しているの」
………まさか厄神様だったとは。
「…何か…すみません……」
「?何で謝るのかしら?」
それは言わせないで頂きたい………。
それにしても先程は豊穣と紅葉の神に今度は厄神。
本当に妖怪の山というのは様々な者達がいるなー、と一人感心しているともう一度問いかけられた。
「あなたもあの山に登るのでしょう?」
その問いかけに頷いて答える。
「ええ。僕もやらなければならない事があるので」
すると雛は少し悲しそうな顔をして何やら呟いた。
「まったく…また人間に弾幕を撃たなければならないなんて、今日は厄いわ………」
「え?」
―――瞬間、周囲の空気が変わる。
雛の目を見る。
その目に殺意は無い。
だが、より強い意思がその目の奥に感じる。
「私は厄神、人間の味方よ。だから私の言うことを聞いて帰りなさい。
何なら、あなたの厄を吸い取ってあげましょうか?」
顔は笑っているが目は笑ってなんかいない。
彼女には彼女なりの譲れない意思があるのだろう。
たが、僕にも譲れない意思がある。
「…厄を吸い取ってくれるのは嬉しいです。
でも、帰ることは出来ません」
はっきりと雛の顔を見て答える。
彼女も何かを感じ取ったのか顔が強張った。
「……どうやら聞いてはくれないようね。
一応、理由を聞かせてくれないかしら?」
「…守矢神社の方達がやろうとしている事を止めさせるためですよ」
彼女は理由を聴いても、淡々と反論を述べ始める。
「それなら博麗の巫女がたった今向かったわ。これならあなたが行く必要は無いんじゃないかしら」
「だから、何もせずに帰れ、と?」
「ええ。だってそうでしょう?
あなたはこの異変を解決するためにあの神社に向かっている。だけど既に異変解決の専門家が先にいるわ。あなたより強い人間がね。
残念だけど、あなたの出る幕は無いわ」
……そうだ。確かに彼女の言うとおりだろう。
異変解決なら、僕より優れている人に任せたほうが良い。
だけど彼女は大きな勘違いをしている。
―――そう。『異変解決』なら、だ。
「雛さん。異変解決に関しては確かにあなたの言うことは正論でしょう。
ですが、あなたは大きな勘違いをしていますよ」
首を傾げている。
どうやら解ってないようだった。
やれやれとため息を吐く。
少し考えれば解るはずだ。
何故なら僕は―――
「僕は一度も“異変を解決する”なんて言ってないですよ?」
雛の目が見開く。
そう。僕にとって異変の解決は二の次だ。
「僕がやるのは守矢の方達の信仰の集め方を正すためです」
確かに異変は重要な問題だ。
けどそういう事は異変解決の専門家に任せれば大丈夫だろう。
だけど、それだけだ。
恐らく博麗の巫女は力ずくで解決するだけだ。
それだけでは何も変わらない。
再び同じ事を繰り返そうとするだろう。
なら、繰り返さないように説く者が居なければならないはずだ。
「だからこそ僕は、同じく人を教えで導く者として、あの神社へ行くんですよ」
しばらく呆然としていた雛だったが、やがてクスクスと笑い出す。
「ごめんなさいね。あなたを舐めていたわ。てっきりあの巫女と同じ様に力ずくで来ると思っていたから…。
確かにあなたの意志には感心するわ。
でも、それは向こうに行けたらの話……」
そう言うと数枚の札を取り出し―――
「その意志を貫き通したいなら、私を倒してから行きなさい!」
宣言した。
「厄符『厄神様のバイオリズム』」
複雑な弾幕が現れ、交差しながら迫ってくる。
だが隙を素早く見つけてギリギリ避け続ける。
「凄いわ。初見でこれを霊撃も使わずに避けれるなんて…」
「避けるのだけは、うおっと!…得意なんですよ!」
彼女の弾幕は量こそ多いが、全て広範囲に放っている。
集中すれば大体の弾幕は避けれるはずだ。
「ならこれはどうかしら。
疵痕『壊されたお守り』」
急に雛の周りが弾幕に埋め尽くされたと思ったら、殆ど隙が無いままどんどん広がっていく。
「うっ!?」
避けきれないと判断すると、お経を読み上げて法力の加護を放つ。
これで周りにあった弾幕は全て消えた。
「良い判断よ。そうしてなければ当たってたわ」
そう言いながらも彼女はどこかホッとした顔をする。
さっきの弾幕を撃っている時もそうだ。とても悲しい感情を無理やり押さえ込んでいる…そんな顔だった。
弾幕を撃つ前の彼女の言葉を思い出す。
『また人間に弾幕を撃たなければならないなんて………私は人間の味方よ………』
あの言葉に嘘偽りはなかった。
彼女にとって本当に人間は大切な存在なのだろう。
人間に危ない目に遭って欲しくないから実力で追い返す……そんな矛盾に彼女は苦しんでいるのかもしれない。
「ならこれ以上、彼女に弾幕を撃たせてはいけないな…」
雛が札を掲げる前に数珠を持ち直して唱える。
「瞬神『韋駄天』」
すると命蓮は、人間には絶対出せないであろう速度で雛に肉薄する。
韋駄天……天界最速の仏と言われる彼らの力を借りて使ったからだ。
これが明王様との修業で見つけ出した自身の能力の活用法の一つだった。
そしてこの技を使ったのにはもう一つ理由がある。
それは雛を傷つけずに勝つ、というものだ。
それをするには、圧倒的な力を、あえて見せて戦う事の無駄を悟らせればいい。
―――本当はこんな形でこの技を使いたくは無かったけど、ここから先に進んでも大丈夫だよ、と安心させるためでもある。
「なっ!?」
さっきまで避け続けるだけの人間が一気に攻転してきたのだ。
驚くのも無理は無い。
その一瞬の隙を突いて彼女の手に握られている札を弾いた。
落ちていった札には気にも止めず、数秒間にらみ合う。
「………ハァ、私の負けね。これ以上続けても意味は無い、か…」
彼女が両手を挙げて戦意が無い事を示す。
やっと終わったのだ。
「ふぅ。でもかなり危なかったですよ」
緊張を解いて大きな息を吐く。
「まったく、あなたってとても頑固なのね」
クスクスと…さっきまでとは違う笑みをこぼしながら話してくる。
その顔にはもう悲しみや悩みは無い、清々しい顔だった。
「この先はもっと強い妖怪達が一杯いる。天狗達だってあなたを追い返そうと襲ってくるわ。それでも行くの?」
しっかりと頷いた。
「僕にも、やることがありますから」
「そう……」
そう言うと雛は近付いて来て、手を命蓮の胸に当てる。
「私が出来るのは厄をあなたから吸い取ることぐらいだけど…少しはマシになるはずよ」
どうやら自分の厄を吸い取ってくれたらしい。
そうやって心配してくれる気持ちがとても嬉しかった。
「ありがとうございます!何か困った事があれば命蓮寺まで来て下さい。どんな相談にも乗りますから。それでは!」
手を振って別れる。
とうとう妖怪の山に入る。
恐怖が無いと言えば嘘になる。
だけど自分の信念を貫き通すために僕は先へと進んだ。
うん、やっぱりアレですね。
シリアスと戦闘は僕の文章力の弱点ですね。
「いつもより毛色が違うシリアスと戦闘を!!」
と息巻いていたのですが途中から
「ヤベェ……どうしよう」
後悔モード全開でしたw
そしていつもよりグダグダに……orz
やっぱりほのぼのが一番ですね!!
異論は認め(ry
さて、次回予告です。
明王様との修業で身に付けた技を出して勝利した命蓮。
先に進むと綺麗な渓流に着いて……?
では、次回をお楽しみに!