小さな小さな異変 〜封印されし白鞘の鬼〜 5
山での戦いの後の話になります。
寺子屋に着くと既に日は沈んで、辺りは薄暗くなっていた。
慧音は命蓮を奥の部屋に寝かせると居間へと向かう。
「(随分傷の治りが早かったな…)」
山では全身の骨が骨折していた筈だが、命蓮を奥に運ぶ際彼の体の調子を確かめたら、なんと傷らしい傷が全て治っていた。
あの明王が言うには、これも諸天善神の加護の力らしい。
まったく、とため息をつく。
「あれでは妹紅と変わらんな…」
不死という点は違うが、命蓮も他人の為なら自分の命を懸けるのだろう。
少しばかり釘を刺そうかとも考えたが、今回はそれで助かったのだし良しとしよう。
そう考えながら居間の襖を開ける。
居間には妹紅ともう一人、あの明王が向かい合って座っていた。
何やら話し込んでいたらしい。
微妙に妹紅の顔が赤いが……。
明王が入ってきた慧音を見つけると尋ねてくる。
「命蓮の方は大丈夫か?」
「はい。仰られていた通りに怪我も治っていました」
「ほらな。良かったな、妹紅?」
「えっ!?あ、あああ!うん、そうだな!!」
こんなにあたふたする妹紅も珍しい。
本人に聞いても教えてくれそうにないので明王に聞いた。
「一体どうしたのですか?」
ニヤリと、まるで悪戯する小僧のように笑みを浮かべる。
「な〜に。妹紅がな、命蓮の事を好ビブ!?」
妹紅のハイキックが綺麗に決まる。
「ててててめぇ!!!何言ってやがるんだ!?アァ!!?」
「いや、だってそうだろう?『ああ、命蓮は大丈夫かしら…』なんてアハハハハハハグホゥ!!」
「気象悪い声だすんじゃねぇ!!あとそんな言い方して無ぇよ!!」
肩で息をしながら倒れた明王を見下ろす妹紅。
さっきまで戦いあっていたとは思えないほどにお互い打ち解けていた。
少しばかり、この二人を一緒の居間に残して大丈夫だろうかとも思っていたが、どうやら杞憂に終わったらしい。
「…二人とも、はしゃいでいる所ですまないが本題に入っても良いか?」
雰囲気が変わる。
「そうだな。まずは説明しないとな」
座り直した明王の顔はさっきまでと同じだが、目は真剣そのものだった。
妹紅も空気を読んで真剣な顔つきになる。
「さてと……まずは、そうだな。大体二百年前ぐらいになるかな」
目を閉じて当時の事を少しずつ思い出し、整理していく。
「俺は元々西方の守護を担当していてな。いつも通り仏敵達を倒していた時だ。
変な野郎が現れてな…」
「変な野郎とは?」
思わず質問するが
「知らねえ。でも多分男だと思う。フードってヤツを深く被ってたから顔は判らんかった。
で、何か変なことをブツブツ呟いたかと思ったら急に襲ってきて、何合か斬り合ってたらいつの間にか封印されて石になっちまってよ。
それであの山に持って行かれて、見たこと無い陣が出てきたと思ったら……………そうだ、そん時野郎が呟いたんだ。『俺の目的の為に一旦潰れてくれ……』ってよ。
そしたら、ごっそり力取られてあんな風になっちまってた……て訳だ」
居間に静寂が走る。
慧音と妹紅は先程の話を聞いて深く考え込んでいる。
そこで慧音が何かに気付いたように口を開いた。
「…もしかすると、二百年前の妖怪襲撃も、その延長……?」
「……あれか」
妹紅も納得したように頷くが、明王は何だそれ?と首を傾げる。
「前にこの人里……正確に言えば、我々が通った水田の辺りが狂った下級や中級妖怪の集団に襲われた事があったんです。それも約二百年前に」
ふむ、と腕を組む。
「どうやらそれも併せて調査する必要があるな」
そう言いながら明王は出された玉露を飲み干すと
「そこの妖精、何を隠れておる。入ってくるがいい」
外に向かって声をかける。
すると恐る恐る襖が開いて大ちゃんが入って来た。
「どうしたのだ?帰るように言ったはずだが…」
大ちゃんはもじもじしながら口を開いた。
「あ、あの……命蓮先生は…?」
「命蓮ならこの廊下の奥の右の部屋だ。……そうだ。大妖精、彼の介護を頼む」
まさか介護を頼まれるとは思ってなかった大ちゃんはビックリしながらも内心喜んだ。
「は、はい!!」
元気よく返事を返すと、微妙にスキップしながら奥へと向かった。
「よ、妖精だけじゃ心配だからなっ!私も行こう!!」
急に妹紅も立ち上がって大ちゃんの後を着いていった。
「…もしかして妹紅は?」
明王はまた悪童のようなにやけた顔をする。
「ああ、どうやら惚れちまったらしい。これから面白くなるねぇ…フッフッフ……!」
どうやらこの明王、色恋沙汰をいじるのが好きらしい。
仏様とは皆こうなのだろうかと思案すると、奥から三人の声が近づいてきた。命蓮が起きたらしい。
襖が開くと命蓮が入ってくる。
「大丈夫か?」
慧音が心配の声をかける。
それに命蓮は頷いて答える。
「ええ、ありがとうございます。慧音さんに明王様。」
「良いって、謝らんでも。元はと言えば俺が原因だし、ここに運ぶぐらいどうって事無いから」
手を振って必要ない事を示す。
「そんな事より命蓮。俺はちょいとここに残る事になってな。
そこでだ、お前に寺を建てて欲しい」
「えっ、寺ですか?」
「そうだ。近くの寺に厄介になろうと思ったんだが、ここら辺は神社しか無くてな。まともな坊主はお前しかいないしな。
だから頼む」
命蓮は少し考える。
確かに自分の寺を持ちだいと思う。だが…。
「お金が無いですよ…」
一番の問題はそこだ。
何せ、寺や神社は造りが普通の家とは違うので人手も多岐に渡るし、木材も大量に使うのだ。
だがあっさりとその問題は解決する。
「ああ、そんなもんこっちでやるから、お前は場所を探してくるだけでいいよ」
「場所なら最近取り壊された長屋跡がある。広さも充分あるぞ」
その後も問題はドンドン解決していった……。
翌日
「ほらよ。どうだ?いい出来だろ!!」
命蓮の寺が完成していた。
結構手抜きだけどなと言っていたが、命蓮が今まで見たどの寺よりも造りが凝っていた。
「さてと、後は名前だが……何て付ける?」
一つ呼吸を置き
「……命蓮寺っていうのはどうですか?」
寺から目を離さずに答える。
よほど嬉しかったらしい。
「命蓮寺……良いじゃねえか。これからもよろしくな、命蓮!」「はい、よろしくお願いしますね。明王様」
お互い力強く握手する。
すると早速参拝客がやってきた。
「先生ー!」
「へぇ、結構良いじゃない」
「大ちゃんに妹紅さん、いらっしゃい!」
建立した日を毎年祭りにしようと今日は人里中の人達を呼んでいた。
「さて、命蓮。今日はお前が主役なんだからとっとと挨拶してこい!」
「ええ!?そんな急に」
「ええから行ってこーい!」
そんな、いつもより少し賑やかな日が幻想郷にまた一つ生まれた。
数年後、この祭りが妖怪を巻き込んで幻想郷一の祭りになるのはまた別の話…。
妖怪の山に神社が無理やり引っ越してくる一週間前の事だった。
まず謝ります。
すいません!!
次回予告に命蓮の能力が…とか書いたのに、全然触れれませんでした……。
次こそ…次こそ出します!!
目指せ、構成力&文章力向上!!!
こんな自分の小説ですが、皆さんよろしくお願いします!
次回予告
人里に寺を建てた命蓮。
妖怪の山に神社が来た事以外は普通の日々だったが、彼女らが無理やり信仰を広めようとしている事を知ると山に登り……。
では次回をお楽しみに!