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小さな小さな異変〜封印されし白鞘の鬼〜 3

翌日。


「では行ってくる。授業を頼んだぞ」

「はい……そうだ。慧音さん。これを持って行って下さい」


問題の山へ向かう慧音さんに数珠を渡す。


「これは?」

「せめてもの“御守り”です。法力を込めたので何かの役に立つはずです」


昨日、あの村から帰った後すぐに作った急拵えの数珠だけど、そこらのよりは出来がいいはずだ。


「…ありがとう。大切にする」

「いつもお世話になっているお礼ですよ。

どうか気を付けて。慧音さんに諸天善神の加護があらんことを…」


そう言って慧音さんを見送ると寺子屋に入り、僕は授業の支度を始めた。


ただ少しばかり不安がよぎる。

こういう時の勘は良く当たってしまうから嫌なものだ。


「大丈夫かな、慧音さん……」





「妹紅、すまない。遅かったか?」


妹紅との待ち合わせにしたあの村に着くと、既に親友の蓬莱人…藤原 妹紅が切り株に座って待っていた。


「いや、私が早すぎただけだ」


妹紅は立ち上がると何でもないという風に返す。


「それよりも慧音……最近一緒の外来人は居ないのか?」


妹紅はあたりを見渡すが、人っ子一人見当たらない。


「ああ。命蓮なら寺子屋の授業を任せてある」


妹紅は少しばかり残念そうな顔をした。


「どんな奴か見たかったんだけどな」


慧音はため息をつくと


「なら寺子屋まで来れば良いだろうに」


本質的な返事を返す。


妹紅はある薬を飲んでしまったために不老不死になってしまい、親しい人との死別を恐れてしまい、あまり人里へも寄ってこなかった。

慧音は何とかその恐れを払おうとしているのだが、当の本人がそれを頑として受け入れなかった。


「気が向いたらな」


いつもこの返事で返されてしまう。

こう言われたら黙るしかない。


「そんな事より、あの山か?」


話題を切り替える。

今は妹紅の事よりも消えた村人達を捜す方が優先だ。


「ああ。そうらしい」


妹紅が指差した先の山はかなり奥にあり、山を二つ越えなければならなかった。


「今回は人捜しだから空も飛ばずに歩いていくぞ」

「うへぇ……」


弱々しいため息をつく。

これからの事を思うと仕方ないと言える。


山を二つ越える前に消えた村人を隈無く探し、原因があればそれを解決する。


重労働のオンパレードだ。


「(でも慧音の頼みだし、仕方ないか)」


妹紅の数少ない付き合いの中で親友と呼べるただ一人の彼女の頼みを断る事は出来なかった。


「さて、では行くか」

「そうだね。行こう」


いつでもスペルカードを取り出せるようにして、二人は山に入って行った。



一方寺子屋では命蓮が授業を進めていたが


「先生〜?」

「………ん?すまない。何だい?」

「先生、ぼーっとしてるけど大丈夫?」


まさに心焉に在らずといった感じだった。


やはりどれだけ払おうとしても不安が残る。

慧音さんには申し訳ないけど、仕方ない。


「みんな、今日の授業はここまで。今日は早くお家に帰りなさい」


子ども達は一瞬キョトンとしたがすぐに歓声に変わると荷物を持って帰って行った。


命蓮はすぐに法衣に着替えると玄関へ向かう。


「準備は……万端。急ぐか」


懐に道具が入っている事を確認するとすぐに寺子屋から飛び出すように走る。


「あー、こういう時空が飛べたらな〜……」


走りながら少し愚痴る。


慧音さんに師事してもらって練習してるけど、この前やっと浮いたばかり(約1cm程)だった。


心の中で自分の不甲斐なさを感じる。


その時、急に横から人が出て来たから避けられずにぶつかってしまった。


「いたたたた……だ、大丈夫です…あれ、大ちゃん?」

「あ…あれ、先生?どうしたんですか?」



横から出て来たのは大ちゃんだった。

珍しく一人だけど今は好都合だ!


「大ちゃん!!」

「ふぇ!?は、はい!」

「僕を向こうの村まで運んでくれないか!!」


大ちゃんの手を取り、真剣に頼む。


「頼む、大ちゃん!!」


何故か大ちゃんの顔が赤くなってるけど………………風邪かな?


「ぅ…は、はい……///」


良かった!何とか頼みを聞いてくれたようだ。


「…では失礼しますね」


後ろから大ちゃんが服を掴むと、僕を抱えて飛び始める。


やっぱり空を飛ぶのは気持ちいい……。

おっと。今は感激してる暇はない。


「大ちゃん!全速力で頼む!!」


その声に応えるように速度がどんどん上がっていく。


――どうか、無事でいてくれ……!!


今の僕はそう願うしか出来なかった。




「そういえば慧音、捜すあてはあるのか?いくら小さな山だからって全部見て回るのは1日じゃ無理だぞ」


既に山に入った妹紅達だが小さい山とは言え、山なのだ。適当に捜していたら自分達まで遭難してしまう。

…まぁ飛べるのでそんなことにはならないが。


「心配するな。目星は付けてある」


そう言って足を止めると慧音が懐から一枚の紙を取り出す。


「昨日、彼らの家を調べた時に見つけた、山菜の採取地点の地図だ」


なるほど、確かに上から見た山の図に所々印が書かれていた。


「つまり採取地点を重点的に捜すんだな」

「そういうことだ。今は一番近い中腹の採取地点に向かってる所だ。


……おそらく、この辺りだと思うが」


やっぱり慧音はすごいなと感心する。

妹紅自身は細々と調べたりするのが苦手なので、出来ない芸当をこなす慧音を親友に得たのはとても嬉しい事だった。


「(私も慧音が出来ない事をして助けないとな…)」


妹紅が慧音より優れていると断言出来るのは、やはり荒事だろう。


千年以上生きて、そのほとんどを妖怪や人間の追っ手との戦いに費やしたのだ。単純な力勝負でもほとんどの奴に勝てるし、何よりも不死という特性がある以上、死合いでは負ける事はまずない。



歩き続けると開けた場所へ出た。

どうやらここが中腹らしい。


そして―――


「あれは……」


鎖に巻かれて座っている人が二人いた。


「消えた村人の二人で間違いないな」


慧音が顔を見て確認する。


「かなり衰弱しているな……すぐ助けないと」


そう言うと慧音は小走りで巻かれた二人に近付いていく。




――――その時だった。



「ッ!?」


微かにだが、濃密な殺気を妹紅は感じた。


そしてその殺気は慧音の前から――――。



「慧音!!!避けろぉぉ!!!!」


慧音は立ち止まって後ろにいる妹紅を見る。


瞬間。


慧音の前に一人の男が現れ同時に男は手に持っていた得物を慧音に向けて振り下ろした。



「オラァァァ!!!」


妹紅が炎を纏って、男が振り下ろした得物が届く前に肉薄し、蹴り飛ばす。

男はそのまま後ろの茂みまで吹き飛んだ。


「慧音!!大丈夫!?」


すぐに振り返り、慧音の無事を確かめる。


「あ、ああ!大丈夫だ!!」


妹紅は安堵の息を一つ吐くと、吹き飛んだ男の方に向き直る。


「ふざけやがって…!」


怒りを体現するかのように妹紅の体が炎に包まれていく。

元よりだらだらと戦いを長引かせるような趣味は無い上、大切な親友を斬りつけようとしたのだ。



塵も残らない程焼き尽くしてやろう、と決める。



男が茂みから出て来る。


妹紅は男の手に握られている得物を見て、さらに顔をしかめる。



――刀だった。ただし、白木の鞘に納めたまま。


ふざけてるとしか思えない。

それとも、遊んでいるのか――――。


男の顔は少し俯いているので目は見えないが、口は裂けんばかりに嗤っていた。



「ふざけた奴だ。……抜かないと、死ぬよ!!まぁ…」


カードを取り出し、宣言する。


「抜いても、だけどね!!!不死『火の鳥-鳳翼天翔-』」



自身を不死鳥にして、相手を焼き尽くす為に突撃する。

この状態ならただの物理攻撃のダメージは皆無になる。



妹紅は自分の勝利を確信した。


まさに不死鳥が当たらんとする時、男が抜刀して不死鳥になった妹紅を斬った。



次の瞬間。



「あああぁぁあぁぁあああ!!!!」


妹紅の身体に激しい痛みが襲いかかった。


思わず絶叫する。

それ程の激痛が身体を一瞬で蹂躙し、その残滓が身体をじわじわと妹紅をいたぶる。



―――何が起こったのか理解出来なかった。



全身を覆う苦痛は確かにあの男の攻撃を受けたという事を表している。



しかし、不死鳥になった妹紅に攻撃は無意味の筈だ。


斬られた箇所を見る。



すると、斬られた箇所の服は破けて自分の肌を晒していたが、傷は一つも無かった。おそらく不死鳥になっていたのが幸いしたのかもしれない。



「…グッ、クソ……一体、何なん…だよ!?」



男が振り返って妹紅を見下ろす。


男の顔が見える。



額に小さな角。鬼だ。

そして目は、その男に理性が無いことをしっかりと表している。



何故か悪寒が走る。



一閃、刀が振られる。


先程の激痛がまだ残る身体では避けきれずに斬られてしまった。


「ッ!!?」


再び、激痛。


今度は体を斬られて出血する。



そして驚くべき事に―――。


「さ、再生、しないだと…!?」


妹紅の不老不死の特性と呼べるのが、驚異的な再生だ。

たとえ死んでも妹紅の体は生を強制的に再生させられる。


普段は忌々しい能力だが、こういった戦いではとても役に立っていた。


その再生が、今は全く働かない。


男…いや、鬼が妹紅に近付き、刀を構える。



死ぬ、と直感する。


あれほど望んだ死が今、目の前にある。

やっと死ねる。


そう思っている筈なのに。


「……イヤだ」


自然と拒絶を口にしてしまう。


死に恐怖したわけでは無い…と思う。


ただ、自分が死ぬことによって慧音が危機に晒されると思うと、死を拒絶せずにはいられなかった。


「妹紅!!」


慧音が走り寄ってくるが、鬼はただ無慈悲に刀を振り下ろした。


反射的に目を閉じて痛みから目を背けようとした。


が、あの激痛が来ることは無かった。


しかも自分と鬼の間に誰かが立っている気配がある。


恐る恐る目を開ける。



そこには、男が振り下ろした刀を長い数珠で受け止めている法衣の男が映っていた。



やっぱり戦闘シーンは難しい…。

改めて自分の文才の無さを痛感します。

もっと他の小説を読んで勉強していきたいですね!!


この小説が命蓮だけでなく自分の成長にもなれば良いな〜、と感じる今日この頃です。

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