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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

吸月鬼 ~月に一度、少女から血をもらう吸血鬼~

掲載日:2026/10/05

レオンは、月に一度だけ少女の血をもらう。


「今月も来たよ」


 少女は小さな保存容器を差し出した。

 月経カップから移した赤黒い血が、底で揺れている。


「遅かったな」


「学校あったし」


 レオンは容器を受け取った。


「ありがとう、とか言わないんだ」


「毎月言っていたら安くなる」


「なにそれ」


 少女は笑った。


 吸血鬼は、人の血を飲まなければ長くは生きられない。


 だがレオンは、もう誰かの首筋に牙を立てないと決めていた。


 最後に吸った血は、人間のものではない。


 最後の女吸血鬼。

 彼のつがいだった。


 吸血鬼がほとんど滅びた時代、二人だけが残った。


 そして飢えたレオンは、彼女を殺した。


「すまない」


 冷たくなっていく女を抱きながら、何度も謝った。


 女は怒らなかった。


 ただレオンの頬に触れて、


「最後なんだから、幸せになって」


 そう言って死んだ。


 それ以来、レオンは死ねなくなった。


 幸せになるまでは。


     *


「おいしい?」


「まあな」


「私の血」


「正確には経血だ」


「細かい」


 レオンは飲み干した。


 身体の奥に熱が戻る。


 少女はそれをじっと見ていた。


「ねえ」


「何だ」


「私、役に立ってる?」


 レオンは眉をひそめた。


「またそれか」


「だって、これなかったら困るでしょ」


「困る」


 即答すると、少女は少しだけ嬉しそうにした。


「じゃあ私、必要なんだ」


「血はな」


 少女の笑顔が止まった。


「……そっか」


 レオンは言い過ぎたと思った。


 だが謝らなかった。


 しばらくして、少女が聞いた。


「私が来なくなったらどうする?」


「別の方法を探す」


「見つからなかったら?」


「飢える」


「それでも駄目だったら?」


 レオンは答えなかった。


「また誰か襲う?」


 沈黙が落ちた。


 少女はその沈黙を見て、少し笑った。


「じゃあ、来ないとね」


「義務ではない」


「でも私が来なかったら、誰か死ぬかもしれない」


「そうは言っていない」


「同じじゃん」


 レオンは少女を見た。


 本当なら止めるべきだった。


 そんな責任を背負うな。

 お前は自由だ。


 そう言うべきだった。


 だが喉の奥には、もう次の月の渇きがあった。


「……好きにしろ」


「うん」


 少女は満足そうに笑った。


     *


 帰り際、少女が扉の前で振り返った。


「レオン」


「何だ」


「私がいなくなったら困る?」


「困る」


「かなり?」


 レオンは少し黙った。


「……かなりな」


 少女は、今までで一番嬉しそうに笑った。


「じゃあ、まだ死ななくていいや」


 レオンの顔から表情が消えた。


「何だと」


「別に」


 少女は扉を開けた。


「必要とされてるなら、まだいいかなって」


「お前は」


 呼び止めようとした。


 だが何を言えばいいのか分からなかった。


 生きろ、と言うのか。


 自分のために。


 それでは少女と何も変わらない。


「また来月」


 少女はそう言って帰っていった。


 扉が閉まる。


 部屋に静けさが戻った。


 昔の女の声が蘇る。


 幸せになって。


 少女は、自分に価値がないと思っている。


 だから、自分を必要とする相手に縋っている。


 レオンはそれを知っている。


 知っていて、血を受け取っている。


 そして今。


 少女が「まだ死ななくていい」と言った瞬間。


 自分は、安堵した。


 レオンは空の容器を見つめた。


「……最低だな」


 それでも来月が待ち遠しい。


 少女が来る。


 血を持ってくる。


 そして、自分を必要としているような顔をする。


 それを想像すると、胸の奥がわずかに温かくなった。


 レオンはその感覚を知っていた。


 きっとこれは。


 幸せと呼ぶものに、よく似ていた。

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