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ぼくらは七不思議にヒトを視る  作者: 雪車町地蔵
第二章 無人音楽室の月光ソナタ事件
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第四話 天才のライバルは、己こそ被害者だと憤った

「今回は迂闊(うかつ)が過ぎました、反省。それはそれとしてハルさんや、そのピアノって、本当に聞いたことあるひとがいるの?」


 透海さんが口にしたのはもっともな疑問だった。

 加えて言うなれば、最初に確認すべきことだ。

 だから彼女は先ほどまで、よほど冷静さを欠き、増上慢(ぞうじょうまん)になっていたのだろうと推察される。


 それでも落ち着いてくれたらしい魔女の質問に答えるため、ぼくは親友に用意して貰った音源を、携帯端末で再生する。

 流れ出してきたのは、間違いなくピアノの音色だった。


「すごくたどたどしいけど……これって、月光?」

「そうだね、ピアノソナタ第14番だ」

流行(はや)ってるの?」

「……意味をはかりかねるけど?」

「学生でピアノが絡めば月光みたいな風潮のことです」

「流行りではなく、共通認識の問題だと思うよ。モンスターと違って七不思議は、知っていることの形で出てくるものだからね。あるだろう? 全年齢通して教科書のネタで盛り上がれるパブリックイメージのようなもの。織田信長とかザビエルとか」


 ぼくの説明を聞いて、彼女は数秒考え込み。

 とても悪い顔で、


「それって、引き出しが少ないってこと?」


 と、追及してくる。

 さすがにノーコメントだ。

 世界を向こうに回す覚悟ならあるが、無辜(むこ)の世間を敵に回すほど恐いもの知らずじゃない。


 まあ、そんなやりとりがあって、翌日。

 ぼくは茶太郎に無理を聞いてもらい、とある人物との対面の場をセッティングしてもらった。


 他でもない、弦本鍵……ではなく。

 その終生のライバルと呼ばれた、同じく天才児。

 高等部三年生、大枝(おおえ)悠斗(ゆうと)先輩である。


 現地に行くと、すでに茶太郎と大枝先輩がいた。

 密談の場に選んだのは、屋上へと続く階段と踊り場だ。


 ここならば、一方向だけに注意を払っていれば、誰かの不意の接近にも気がつける。

 このご時世、屋上は出入り禁止で、キーの貸し出しもよほどのことがないとされないのだから。


 とにもかくにも、まずは挨拶。

 よく、外見や言動で相手を評価してはならないという言説を耳にするが、対人関係なんて十割ぐらいはファーストインプレッションに左右されるものだとぼくは考えている。

 なので、可能な限り友好的な笑顔で切り出す。


「はじめまして、大枝先輩。ぼくは春町(はるまち)遼遠(りょうえん)、茶太郎の親しい友人です」

「はっ」


 名乗り終えるのと同時に、彼、大枝先輩は鼻で笑ってみせた。

 神経質そうな顔立ちが、不愉快さを隠すこともなく歪む。


「初手で東雲(しののめ)の友人だとアピールするかよ。気にくわねぇな、こっちの勘所を押さえてますよってツラだ」


 なにを言っているか解らない、という表情を作り、茶太郎へと曖昧な微笑みを向ける。

 親友はため息。


「リョウ、俺の家と先輩の家は、親密にさせていただいている。つまり」

「茶太郎を盾にすれば、先輩は無碍(むげ)にできないってことかな?」

「解っているなら(とぼ)けるならリョウ。先輩はすでに進学が決まっている身だが、音楽の道を邁進(まいしん)するための貴重な時間をさいて、この場に来て下さっているのだぞ」


 それはそれは。

 ありがたいことです、と一礼し。

 本題を切り出す。


「では、早速。大枝先輩、あなたにはひとつの嫌疑(けんぎ)がかけられています。音楽の授業中、教室内で細工をし、施錠された状況でもピアノが鳴るように仕向けた疑いです」

「……なるほど。テメェがくだらない噂話の帳尻を合わせる、今年の〝係員〟か。だったら挑発的な物言いも、こっちの顔色を(うかが)って出し入れしてやがる礼節も不問にしてやる。おつれぇ(・・・・)だろうからな(・・・・・・)

「ご配慮、痛み入ります。それで、先輩は」

「大枝悠斗は、なんら手を出していない。誓約書を書いてもいい。こっちから言えることはそれだけだ」


 先ほどまでとは違う、生真面目な表情で、先輩は己の関与を否定してみせた。

 ふむ。


「いまの言葉は、音楽に対して、冒涜的(ぼうとくてき)なことはできないという、マエストロとしての矜持、感性によるものですか?」


 前言どおり、沈黙を選ぶかに思えた先輩は。

 片眉を、嫌そうに持ち上げ。

 それから、ぼくが浮かべているのとは別種の、侮蔑(ぶべつ)の笑みをみせた。


「言葉を選ぶのが上手いな、後輩。音楽を持ち出されたら口をつぐめねぇ。苛立たしいよ。そうだな……答えはこうだ。おまえたちが考えている前提であればNOといえる」


 ぼくらの前提。

 いや、彼はぼくという存在を信用などしていない。

 ならば、ここでいうおまえたちとは、茶太郎を中心に据えて放たれた言葉だ。

 親友はなんと言っていた?


 両手の不自由になった天才ピアニスト、無演奏の弦本(つるもと)(かぎ)の心が、これ以上傷つかないように音楽室の事件を解決して欲しいと、そう口にしたのだ。

 そして、大枝先輩は弦本鍵先輩の好敵手。


 なるほど、配役は見えた。


「先輩、つまりあなたには、弦本先輩を害するつもりはない、ということですね?」

「……本当に、人の顔色を読むのが得意なガキだな」

「滅相もない。ただ、純粋に謎を安全に処理したいだけです。自分のために」

「そうかよ、だったらテメェが望んだ答えを言ってやる。逆だよ」


 逆だと、彼は繰り返す。


「弦本鍵が、この大枝悠斗に嫌がらせをしているんだ」


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