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ぼくらは七不思議にヒトを視る  作者: 雪車町地蔵
最終章 桜吹雪の下の机事件

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最終話 ぼくらは七不思議にヒトを視る

 こんな七不思議を知っているだろうか?

 放課後の空き教室には魔女と。

 そして、もうひとりのクラスメートがいて、予言と謎解きをしてくれるらしい。


 夕日が差し込む、いつもの空き教室。

 相変わらず自動で現れるティーセット――意味はない――から紅茶を汲み出し、カップに注ぐ。

 同じようにお湯だけ借りて、ぼくはマグカップにコーヒーを淹れる。

 馥郁(ふくいく)とした薫りと、爽やかなフレーバーが混ざり合ってしまうまえに、紅茶は本来の主が受け取りに来た。


 予言の魔女、透海近。

 彼女は口に菓子パンをくわえて、フガフガ言いながらカップを引ったくり、適当な席に着く。

 自分を占ったことへのお礼、ご褒美の類いは、いつのまにかパンに変わっていた。

 苦笑しながら、ぼくも対面に腰掛ける。


「結局、どうなったの?」


 パンを食べ終えて、紅茶に口をつけ、落ち着いたところで透海さんがそう切り出してきた。

 ぼくは頷き、答える。


「じゃあ、今回は結論から入ろうか」

「前提は?」


 それはここまで、長々と語ってきた。

 もう、必要ない。


「学園には、新しい七不思議が産まれたと考えて貰っていい。ぼくらを出席番号一番とした、まったく別の七不思議だ」

「あたしたちはその在・不在証明をしなきゃいけないと」

「振り出しに戻った……というわけじゃないよ」


 状況は、ありがたいことに好転している。


「少なくとも、いまのぼくらは七不思議であると同時に、人間としても成立している。中途半端な半人前ではあるけれどね」

「それって、あたしたちが互いを補完したってこと?」

「存在の綱引きと、ご都合主義のような奇跡の結果、恐らくそうなったとぼくは考えている」


 春町遼遠は人間であるかという問いに、人間ではないと透海近は答え、結果として予言は外れた。

 けれど、それはすなわち怪異になるということじゃない。

 人間であるもの、ただし完璧にそうだとは言っていないものとして、再構築が為されたのだ。

 透海さんと、存在を一部共有する形で。


 そう、補い合い、わけあって、透海近と春町遼遠は存続を果たした。

 半分人間、半分怪異のふたりひと組として。


 なるほど、なにもかもがご破算になるより、よっぽどよい結果だ。

 正直に言えば、透海さんがぼくのことを覚えてくれているというだけで、相当なありがたさを実感している。


「ただ、解らない部分もあるんだ」


 魔女の予言を、ぼくはかつて二者択一の結論を知ることが出来る能力だと表現した。

 けれど、透海さんが自らに行った予言は、いくらでも他の解釈ができる曖昧なものだ。

 そこからこの、最上とも言える結果を導き出すなんて、あまりにできすぎている。

 だから、どうにも不安で、疑ってしまって、落ち着かない。


 喉の渇きがひどくて、コーヒーをぐびりとあおれば。

 透海さんが、「そんなことかー」と呆れた様子で肩をすくめてみせた。


「ハルさんや。あたしたちは、これまでどうやって、七不思議を解き明かしてきたでしょうか?」

「……そうか、動機が重要なのか」

「打てば響くねぇ。そうだよ、ハルさん。七不思議を紡ぐのはね、怪異であれ人為であれ、現象じゃなくて意志だから」


 なにかを思って行動し、その結果として生じるもの。

 その動機、願いこそが、不思議を引き起こすのだからと、透海さんは言う。


「つまり、その結果を、七不思議を紐解くということは」

「ヒトの意志を()るということ。なるほど」


 ぼくらは七不思議にヒトを視て。

 だから生きている。

 存続している。


 お互いを思い合って、願ったのだから。

 求め合ったのだから。


 ……もっとも、副産物として新た七不思議が産まれてしまったし、その対応はしなくちゃいけない。

 解決し消滅させることも出来たはずの七不思議。

 これを新たに生じさせたことは、明確な罪、学園に対する裏切りなのだから。

 まったく、感動話で締めくくれないあたり、じつにぼくららしいとも言えた。


 そんな諧謔(かいぎゃく)を伝えると。

 透海さんは、胸を張ってみせる。


「そうなのです。あたしたちには、やらなければならないことがあります。それはひとりではとても困難で、誰かの手伝いがいるでしょう。たとえば互いに手を汚し合った、仲間や友人という枠組みを超えた相手との、協力と団結です」


 ……なにを言いたいのかな?


「わかっているでしょう、ハルさん? それともこういうのを、相手から言わせるのが趣味だったりする?」

「……わかった、降参だ」


 いい加減、彼女になにもかも任せるというのは善くないことだろう。

 男らしく、というのは今の時代たいへんバイアスがかかる言葉らしいから控えるとしても。

 半人前でも、人間として。

 半分だからこそ、互いを補い合うと誓って。

 確固たる意志で、こう告げるべきなのだろう。


「透海さん、透海近さん」

「はい」

「ぼくと」

「はい」


 その、ぼくと。


「……もう一度、共犯関係を結んでくれないかな?」

「はい!」


 差しだした手が、ほんの少しの躊躇(ラグ)もなく握られて、大きく振られる。

 なんのてらいもない、正真正銘、真実の意味で、とうとうぼくらは、共犯関係になったのだ。


 そのときの、彼女の表情は、これまでに見たこともないほど朗らかな、満面の笑みで。

 まるで引きずられるように、押し上げられるように、ぼくの口角もまた上がって。


「あ、そうだ」


 楽しそうにしていた彼女が、急にぼくの手を放り出し、眉間に皺を寄せてみせた。

 何事かと思っていると、予想だにしない言葉が彼女の口からまろび出てくる。


「ひとつ、解決していない謎があるんだよね。いまの七不思議は、あたしたちの願いが産んだ。これは間違いない?」

「そうだね、合っているよ」

「じゃあ、前の七不思議にも、産みの親がいたということ? だとしたら、それは誰?」


 おっと。

 確かに説明していなかった。

 前提というなら、こんなにも重要な前提を取りこぼしていたことに、いまさら気が付く。


「これについて、答えを要求します」


 共犯者に、そこまで言われては、ぼくも沈黙できない。

 今後のことも考えて、すっかり明瞭にしておこう。


「順当に考えれば、すぐに答えは出てくるのだけれどね」


 それは、桜の木の下に机を設置した人物だ。

 誰かのためなら、生け贄を差しだすと決定できる、裁定権を与えられたもの。

 外面と内心に葛藤を抱え、定められた大きすぎる人生のレールに辟易(へきえき)として、せめて学園の中だけでは自由と青春の謳歌を望んだ誰か。

 そのひとは、ことを起こした罪悪感から差し入れを続け、協力を惜しまなかった。

 〝彼〟こそは、七不思議の産みの親にして皆の友人。


 断言しよう、その人物とは。


「その人物とは?」


 純粋に疑問の眼差しを向けてくる共犯者へ。

 ぼくはありったけの茶目っ気を動員しながら、彼女の手中にあるティーカップを。

 差し入れの(・・・・・)ティーセット全般(・・・・・・・・)を指差しながら、こう告げるのだった。


「東雲茶太郎。ぼくの、親友だよ」






学園七不思議 第一号 100%外れる予言の魔女

および

学園七不思議 第七号 もうひとりのクラスメート 早退



学園七不思議 新一号 魔女と共犯者

本日より――【出席開始】





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