第一話 それは桜舞い散るはじまりの
終わりの終わりを終わらせる前に。
この寓話のはじまりを、語らせて欲しい。
元より欄外余白に記された、走り書きのようなお話だ。
ぼくの独白に、少しばかり付き合ってもらえれば幸いだね。
……すべての切っ掛けは、今年度の入学式。
校庭に、あるものが設置されたことに起因する。
翠城学園の名物とされる、ふたつの木が絡み合い、支え合いながら立っている双樹桜。
連理と呼ばれる病に冒された、その古木から舞い散る無数の花びら。
そして、花嵐のなかに置かれた、一揃えの机と椅子。
まるで、フィルムアートが表現するような。
絵画のワンシーンを切り抜いたような、映え映えとする光景。
けれど、ずっともっと目を惹くものが、同じ場所にはあった。
いや、現れたんだ。
それは、机へと歩み寄ってくるひと。
瞳には一切の陰りなく、諦観を打ち倒すような勝ち気な表情をたたえ、そして席に着く。
二学年の女生徒だった。
長い黒髪はフィンセント・ヴィレム・ファン・ゴッホの『星月夜』のごとく麗しく、星界を投射したように繊細可憐。
肌は白磁のようになめらかで、体付きはなだらかながら、しっかりと鍛えられていることがわかる。
彼女は、桜吹雪のなか、背筋をピンと伸ばしてそこにいた。
いつまでも、いつまでもそこにいた。
きっと本人にもわかっていたのだろう。
これなるは最悪の席であり災厄の堰き。
翠城学園にはびこる、七不思議と呼ばれるものの防波堤。
毎年ひとりが、全校生徒のなかから選ばれ供物として捧げられる祭壇。
つまり、彼女はその席の持ち主で。
害悪を一身に受ける人身御供だった。
拒否することはできたはずだ。
逃げ出すことだってできただろう。
こんな学園など捨ててしまえばよかった。
自分を差しだす連中など、見限ってしまえばそれでよかったのだ。
実際、そうするやつはたくさんいて。
けれど彼女は、孤高にも、座したままで居続けた。
自分が立ち退けば、代わりが選ばれると知っていたのか?
あるいは、自暴自棄になるほど、周囲から疎まれていたのか?
わからない。
なにも理解できない。
だから、もっと知りたくて。
ぼくは、彼女について、記録を取ることにしたのである。
「やあ、はじめまして。名前を、聞いてもいいかな?」
その瞬間まで存在しなかったもの。
影も形もなかったぼくが現れて。
不躾に声をかけたにもかかわらず、彼女はとても上品に。
なにより不敵な悪徳をもって、こう返した。
「ええ、はじめまして。そして罰ゲーム、ご苦労様。あなたは意外と紳士的だったけれど……でも減点。小さい頃、お父さんから習わなかった? 知らない人と口を利いちゃいけませんって」
「…………」
「あら? もしかして本気だったの? だったらあなたから名乗って。そうすれば」
互いが知り合いになれるのだからと。
彼女は微笑んだ。
かくてぼくらは出逢う。
春町遼遠と。
透海近は。
七不思議の在・不在証明を行う日々をはじめて――
そうだ。
これまでのすべては、ぼく。
七不思議の7 『もうひとりのクラスメート』が。
ただ、透海近を存続させるために行ってきた茶番である。
それこそがぼくの至上目的。
存在理由。
ゆえにいまこそ、こう言おう。
さあ、透海近。
「予言の時間だ。君自身のために未来を見て、ぼくの不在を、証明してくれ」




