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ぼくらは七不思議にヒトを視る  作者: 雪車町地蔵
最終章 桜吹雪の下の机事件

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35/39

第一話 それは桜舞い散るはじまりの

 終わりの終わりを終わらせる前に。

 この寓話のはじまりを、語らせて欲しい。


 元より欄外余白(わくのそと)に記された、走り書き(メタテキスト)のようなお話だ。

 ぼくの独白(わがまま)に、少しばかり付き合ってもらえれば幸いだね。


 ……すべての切っ掛けは、今年度の入学式。

 校庭に、あるものが設置されたことに起因する。


 翠城(すいじょう)学園の名物とされる、ふたつの木が絡み合い、支え合いながら立っている双樹桜(そうじゅさくら)

 連理(れんり)と呼ばれる病に(おか)された、その古木から舞い散る無数の花びら。

 そして、花嵐のなかに置かれた、一揃えの机と椅子。


 まるで、フィルムアートが表現するような。

 絵画のワンシーンを切り抜いたような、()()えとする光景。

 けれど、ずっともっと目を惹くものが、同じ場所にはあった。

 いや、現れたんだ。


 それは、机へと歩み寄ってくるひと。

 瞳には一切の陰りなく、諦観を打ち倒すような勝ち気な表情をたたえ、そして席に着く。


 二学年の女生徒だった。

 長い黒髪はフィンセント・ヴィレム・ファン・ゴッホの『星月夜』のごとく麗しく、星界(せいかい)を投射したように繊細可憐。

 肌は白磁のようになめらかで、体付きはなだらか(・・・・)ながら、しっかりと鍛えられていることがわかる。


 彼女は、桜吹雪のなか、背筋をピンと伸ばしてそこにいた。

 いつまでも、いつまでもそこにいた。

 きっと本人にもわかっていたのだろう。


 これなるは最悪の席であり災厄の()き。

 翠城学園にはびこる、七不思議と呼ばれるものの防波堤。

 毎年ひとりが、全校生徒のなかから選ばれ供物(くもつ)として捧げられる祭壇。

 つまり、彼女はその席の持ち主で。

 害悪を一身に受ける人身御供(いけにえ)だった。


 拒否することはできたはずだ。

 逃げ出すことだってできただろう。

 こんな学園など捨ててしまえばよかった。

 自分を差しだす連中など、見限ってしまえばそれでよかったのだ。

 実際、そうするやつはたくさんいて。


 けれど彼女は、孤高にも、座したままで居続けた。


 自分が立ち退けば、代わりが選ばれると知っていたのか?

 あるいは、自暴自棄になるほど、周囲から(うと)まれていたのか?

 わからない。

 なにも理解できない。


 だから、もっと知りたくて。

 ぼく(・・)は、彼女について、記録を取ることにしたのである。


「やあ、はじめまして。名前を、聞いてもいいかな?」


 その瞬間まで存在しなかったもの。

 影も形もなかったぼくが現れて。

 不躾(ぶしつけ)に声をかけたにもかかわらず、彼女はとても上品に。

 なにより不敵な悪徳をもって、こう返した。


「ええ、はじめまして。そして罰ゲーム、ご苦労様。あなたは意外と紳士的だったけれど……でも減点。小さい頃、お父さんから習わなかった? 知らない人と口を利いちゃいけませんって」

「…………」

「あら? もしかして本気(マジ)だったの? だったらあなたから名乗って。そうすれば」


 互いが知り合いになれるのだからと。

 彼女は微笑んだ。


 かくてぼくらは出逢う。

 春町(はるまち)遼遠(りょうえん)と。

 透海(とおみ)(ちか)は。

 七不思議の在・不在証明を行う日々をはじめて――


 そうだ。

 これまでのすべては、ぼく。

 七不思議の7 『もうひとりのクラスメート』が。

 ただ、透海近を存続させるために行ってきた茶番である。

 それこそがぼくの至上目的。

 存在理由。


 ゆえにいまこそ、こう言おう。

 さあ、透海近。


「予言の時間だ。君自身のために未来を見て、ぼくの不在を、証明してくれ」


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