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ぼくらは七不思議にヒトを視る  作者: 雪車町地蔵
第五章 絶対に満点が取れないテスト問題事件

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第七話 ふたりだけの世界 ~多賀恵留と透海近の場合~

「やぁ! 突然会いたいだなんて、こんな夕暮れになにがあったのかな? ああ、ひょっとして、とうとう私のものになってくれる気になったのかね? そうなのかな? そうだろう、遼遠く――」


 空き教室の扉を開けてすぐ。

 恵比寿顔(えがおぜんかい)の恵留さんが飛び込んできた。

 そして、ぼくと。

 いや、ぼくの横にいる魔女を知覚して、恵留さんの双眸が吊り上がる。


「透海、近ァ……! またおまえかっ」


 もはやその視界に、ぼくなど映ってすらいなかったのだろう。

 恵留さんは透海さんに大股で歩み寄り、その胸倉を掴みあげる。

 一方で、魔女はどうしていたかといえば、すまし顔で「やれやれ」と首を振り。


「ね? 元から眼中にあるのは、あたしだけだって」


 と、こちらへウインクを飛ばしてくるのだった。

 それがまた癪に障ったのか、恵留さんは怒りをあらわにする。

 怒りと、憎悪を。


「そういうことか、あの画像も、動画も、噂さえも!」


 彼女がぼくを見ることもなく指差し叫ぶ。

 なんのことかと魔女へ目線を向ければ、「匂わせかなぁ」と(とぼ)けた返事が来た。


「多賀ちゃんがあたしのことを忘れないように、挑みかかってくれるように、ずっとグルチャに匂わせ投稿をしてたの」


 ほら、マグカップとティーカップの写真とか、黒猫とか、お弁当とかといわれて納得する。

 あれは、そういう意図だったのか。


 しかし、そうなれば恵留さんの感情も理解できなくもない。

 散々煽られてきたのだから、復讐の一つもしたくなるだろう。


「そんな簡単な関係じゃないんだけど、あたしたち。でも、ここまでかな、多賀ちゃん。もう、告発の用意を整っているから」

「告発ぅ?」


 口元をねじ曲げて、嘲笑を顔いっぱいに溜めて、多賀恵留が侮蔑を吐き出す。


「おまえ如きが私になんの権利があってそんな真似を? 第一、できるわけがないだろう。だって今回のテストで、私はおまえに勝って――」

「勝ち負けはどうでもよくてさ」

「――は?」

「あたしはあたしのために、謎を解き明かさなくちゃいけないんだ。ごめんね、エゴイストで」

「ふ……ふざけるなっ」


 激発する恵留さん。

 目を血走らせ、凶相を浮かべ、彼女は喚き立てる。


「無駄だよ、無駄さ、無駄なんだとも! なにをしても、全部私が無価値にしてやろう! 七不思議の解読だったかな? そのために、自分で謎をばら撒いて、自給自足していたんだったかな? 全部さ、すべてだよ。私が……それもぜんぶ、毒に変えてやる、自滅の種にしてやるとも!」


 それは、ほとんど自白のようなものだった。

 これまで、透海近はたびたびマッチポンプを企んだ。

 七不思議の1、予言の魔女は、残るすべての七不思議、その在・不在証明を行うことで人間に戻ることができる。

 正確にいえば、七番目に関しては、少し違うのだが……それは一端脇に置いておくとして、この在・不在証明を、透海さんは自分の手の平の中だけで完結させようとした。


 七不思議を用意し、これを流布し、育ったところで、正しくはこうであると告げることで、労せずして結果だけを手に入れようとしてきたのだ。

 だが、これは上手く行かなかった。


 なぜならば、妨害者が、いたからだ。


 透海近が流行らせようとした噂を書き換え、彼女に不都合なように調節するもの。

 答えとトリックを入れ替えてしまうもの、ねじ曲げてしまうもの。

 すなわち魔女の敵対者。

 多賀恵留が、いたのだから。


 恵留さんはいま、自分がやってきたのだと自供した。

 それは、今回も同じであるということだろう。

 このまま謎とその答えを受け容れれば、透海近は中毒に陥り、魔女として存在が固定化される。

 人間に戻ることはなく、学園から出ることも叶わない。


 けれど。


「そうはならないよ。だって、あたしにはもう、見えているから」


 双眸に一等星を宿らせて、透海さんが、推理を展開する。


「この場にはわかっている人間しかない。でも、一回だけ整理をします。七不思議の名前は『絶対に満点が取れないテスト』。多賀ちゃんにかかっている嫌疑は、この七不思議を悪用して、自分だけ満点を取ったこと」

「はい矛盾! おまえは自分の言動にすら責任を取れないのかなぁ?」


 嬉々として悪罵を吐き出す恵留さん。

 活き活きとしているぶん、なんなら普段より魅力的だ。


「む……ハルさん、あたしを見てて。あたしの話を聞いてて」

「具体的には?」

「いま指摘された矛盾を暴く」


 それはじつに愉快そうだと答えれば。

 透海さんは、満足げに頷く。


「コホン」


 ひとつと咳払いして、魔女は切り出した。


「トリックは簡単で、暗号のようなものです。テスト問題をどう解いても、正しい答えを得ることはできません」

「なら私が答えを知っていたとでもいうのかね?」


 恵留さんの煽り文句に、透海さんは答えない。

 代わりに紡がれたのは、一つの推測。


「ところで、A先生――問題を制作した教諭と多賀ちゃんはたびたび会っていたよね?」

「だから疑わしいって? 愚か極まるねぇ。生徒と教師なら、授業内容の相談ぐらいするものだろう」

「ええ、そこに疑問はないの。A先生は無実。ただ、多賀ちゃんには一方的にチャンスがあった、というだけ」


 チャンスぅ? と語尾を跳ね上げながら、魔女を()めつける恵留さん。

 焦りの色はない。

 むしろ、喜びのようなものさえ感じられる。

 彼女たちが言葉を交わすたび、そこだけに閉じた世界があるように見えて。


「チャンスでしょう? 学習させるチャンス」

「……なにを言いたいんだい、透海近。私は」

「そう、多賀ちゃんは学ばせたんだ」


 誰に?

 教師に?

 否。

 答えはもっと単純で明瞭だった。


「断言します。多賀恵留、あなたは――問題作成と採点用のAIに、細工をしたのです」


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