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ぼくらは七不思議にヒトを視る  作者: 雪車町地蔵
第五章 絶対に満点が取れないテスト問題事件

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第五話 仕切り直し

 ギャグか喜劇(コメディ)であれば、場面転換した次の瞬間には、ぼくの怪我などすべて治っていたことだろう。

 しかし残念ながら、この七不思議を中核とする寓話(フェアリーテイル)において、どうしようもないほど現実の立ち位置は残酷だった。


「全治二ヶ月だそうだな、自業自得だ」


 学内の人間関係中継点(ハブ)にして好漢、そしてぼくの親友。

 東雲茶太郎が、とても珍しく厳しい言葉を投げかけてきた。

 屋上で繰り広げられた(くだん)の茶番を、携帯端末越しに見た彼は、あれ以来どうにも冷たい。


 わかっている。

 怒っているし呆れられているのだろう。

 見限られていないことだけが幸いである。


「その可能性も十分にあっただろう。こんな真似までして」


 言いながら、彼が突きつけてくるのは端末だ。

 そのディスプレイには、学生掲示板……を悪用した裏グループチャットが表示されており、そこでは延々と一つの議論が続いていた。

 そう、茶番のデータは、ここにも貼り付けられていたのである。


「学園中が上を下への大騒ぎだ。リョウ、はっきり言っておくが」

「茶太郎はぼくらの味方になれない、だろ? それでいいよ」


 中立でいてくれれば、なんの問題も無い。

 もとよりぼくらの関係性はそういうものだ。

 そう告げれば、彼は一層難しい表情になり。


「それで、どう収拾をつけるつもりだ」


 と、訊ねてきた。

 ……それが問題だ。

 いま、学内の世論は幾つかに別れてしまっている。

 ひとつは、例の動画をみたことで、透海近は無罪であると意見を(ひるがえ)した一派。

 次に、たとえなにをしても他者を追い詰めるのは許されないと糾弾(きゅうだん)する派閥。

 ほかには、多賀恵留を盲信するグループ。


 これについては、さほど問題ではない。

 議論すべきは、それぞれの中で、信じていることが違うという一点。


 茶番を起こす前、透海さんは確実に詰んでいた。

 世論は七不思議の介在よりも、透海近が誤った糾弾をしたことにこそ焦点を当てていたからだ。


 けれど現在は違う。

 透海近の死――まあ、偽装でしかないのだが――を受けて、罪悪感を拭うため、七不思議は実際にあったのではないか? とする説が台頭しはじめている。

 同時に、不正も事実では? 事実だとしたら、どんな方法で? なんて議論が活発になっているわけだ。


 これは、願ったり叶ったりと言える。

 なぜなら完全な負け戦を。

 ジャッジの差し戻しという状況まで、移行させることに成功したのだから。


 要するに、透海近と多賀恵留は、同じ土俵に立っているのだ。

 あとは、どちらがより、大衆を説得できる魅力的な論旨を展開できるか、あるいは相手の揚げ足を取れるかに終始することになる。

 ゆえにこそ、茶太郎は渋い顔をしているわけだ。


 透海さんの死という冷や水をかけられてなお、学園での議論はヒートアップを続けているのだから。


「おそらくね、常に焚きつけている相手がいる。周りがどうなろうと知ったことじゃない。透海近が命を懸けたからなんだというのか、絶滅戦争しかないとふれて回っている人がね」

「自分ではないぞ、リョウ」

「立場的に茶太郎ができることを否定はしないよ。でも、そうだね、君はやらない」


 善良だから、ではなく。

 責任を負えないから、でもなく。


「茶太郎に、利益がないからだ」

「…………」

「この辺り一帯を傘下に置く、天下の東雲グループ。その御曹司(プリンス)が、本当に人情だけで行動するなんて、ぼくは思っちゃいない。君は常に、叩き込まれた帝王学による、損益分岐で世の中を考えてきたはずだ。七不思議のことでさえ」


 恋人さんのこともそうだろう。

 敢えて踏み入るつもりはないし、本筋にはまったく関係ないので触らないが、彼女だってどこぞの名家の生まれだろうから。

 もっとも、自由な青春的恋愛をしてみたかった、なんてラインも、あるにはあるのだろうけど。


「とかく、ここまで発展したトラブルは、若気の至りではなかったことに出来ない。茶太郎が、そんなヴィジョンすら描けないような唐変木だとは思わないからね」

「やはり、四月の時点でおまえを殴っておいてよかった」


 親友が、眉間に深い皺を刻んで、諦めたように口にする。


「あのときのリョウなら、死傷者の数はいま、倍だったろうよ」


 そうなれば、自分の力でも隠蔽や取りなしはできないと、彼は言外に語る。

 それでいい。

 そうしてくれるのがありがたい。


「感謝するよ、親友」

「そんなガラか。ま、治安を元に戻してくれれば文句はない。こちらも自分の尻拭いはする」

「もちろん、請け負おう」


 なにせぼくは、係員。

 七不思議にまつわる事柄を、なんとかするのが、責務なのだからね。



§§



「最悪の場合、ハルさんが多賀ちゃん側につく可能性もあった。そのときは、きっと手に負えなかったかなぁ」


 茶太郎と別れ、放課後の空き教室へと向かうと、魔女はティーブレイクを(きっ)していた。

 件のマグカップでご相伴(しょうばん)にあずかれば、唐突に透海さんはそんな言葉を口にする。


「だから賭けをしました。いまハルさんはあたし側にいます。やったね!」

「そもそも、多賀恵留にぼくの情報を流して、隔意を抱かせたのは透海さんだろう?」

「わぁ……それすらバレてるんだ……」


 やや意外そうな、或いは少しだけ申し訳なさそうな顔をする彼女。


「でも、なんにせよ、ハルさんはあたしに賭け(ベット)してくれた。だったら、あとは勝つだけだね」

「それに関してなのだけど、ぼくらは本当に多賀恵留を打倒しなくちゃいけないのかな?」


 彼女に、そこまでの問題があったとは、個人的には思えない。

 もちろん、これまで透海近との間に、どうしようもない確執があったのは事実だろうけれど、それはどこまで行っても他人事であって。


「多賀ちゃんに変な憐憫(れんびん)の情をかけているみたいだから、はっきり言っておくけど」


 魔女は、じつに悪徳に満ちた。

 一方で、寂しそうでもある表情で。

 こう断言した。


「あの()、普通に不正をしてるから」


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