第三話 親友の証言曰く
ぼくの親友こと茶太郎の証言をまとめると、次のようなことになる。
彼は名前に反して質実剛健、非常に体付きのしっかりした、胸板が厚い、上腕二頭筋が丸太のように太く肩幅の大きい、礼節を重んじる空手部期待の新人なので、普段は置き傘などしない。
そもそも、翠城学園では、生徒を目の敵にしているような指導部がおり、これがことあるごとに内申点を削ってやろうと、常になんらかの瑕疵を探している。
置き傘は、減点対象の最たる例だ。
学生からしてみれば些細極まりないことでも、大人のルールによってこれは禁じられている。
だから、茶太郎も傘を放置などしなかった。
だが、大型連休が迫った先週のこと、天気がぐずつく日が増えた。
ただでさえこの時期は、持ち帰る書類や教材の量が増える。
それでいて、いつ降り出してくるか見当もつかない空模様だ。
天気予報をあてにする時代は、正直遠く過去のもの。
毎日傘を持参するのも非効率だと判断した茶太郎は、同じような決断をしたその他大勢と同じく、傘立てに自分の分を放置することにした。
これが、ある日突然、すべて綺麗さっぱりに消えてしまったのだという。
「ふーん。それでチョーノスケくんは濡れて帰ったんだ?」
「茶太郎だ。彼は運良く、折りたたみ傘を持っていた女生徒に入れてもらい、難を逃れたらしい」
「相合い傘ってこと?」
なぜか胡乱なものを見るような目つきをこちらに向けてくる透海さん。
確かに状況だけ考えれば、相合い傘と言われても不思議ではない。
なにせ。
「その時に知り合った女生徒が、いま茶太郎が交際している相手だ。彼は喜んでいたよ。まったく濡れずに済んだし、自分のような無骨者にガールフレンドができるなんてと」
「指導員からなにか言われそうなものだけど? ほら、彼らって生徒が嫌がることを好むから」
否定しようとしてやめる。
一定の事実ではあるし、少なくとも透海さんはそう考えているのだから。
「指導はされていないね。近くに見回りはいたそうだけれど、雨に濡れないための緊急避難的な相合い傘だ。これに難癖をつければ、PTAが黙ってはいないだろう」
「不純異性交遊も黙っていないって」
「当人同士が節度を守っていれば、不純ではないよ」
「節度。節度かぁ」
何事かを思い返すように天井を見遣り、彼女は深くため息を吐く。
無言の時間。
窓の外、いつの間にか暗雲が途切れ。
雲間から、西へ沈みゆく太陽の光が差し込み、彼女の姿を照らし出す。
黄昏時。
或いは――逢魔ヶ時。
魔と行き逢う時間帯。
教室の中が、夕暮れに染まるなかで。
魔女が、はっきりと告げた。
「瞭然ね」
それは、なにが?
「唐傘オバケは存在するのかも知れないけれど――少なくともこの事件は、七不思議でなくても実現可能だと断言できる」
なぜ?
「だって、犯人と顔見知りでしょう、あたしたちって」




