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ぼくらは七不思議にヒトを視る  作者: 雪車町地蔵
第五章 絶対に満点が取れないテスト問題事件

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第一話 透海近の暴走

 七不思議出席簿 表巻。

 〝係員〟であるぼくだけが持つ、いわば七不思議の案内書。

 そこに、新たな不思議が浮かび上がってきたのは、中間考査を間近に控えた時期のことだった。


 七不思議の6 絶対に満点が取れないテスト。

 これは字義通りの存在だ。

 一般的にいう妖怪や幽霊などではなく、現象。

 読むと死ぬ本のように干渉してくるものではなく、歴然としたルール。

 試験問題のなかに、どうやっても解けない、解いたところで点数のつかない問題が紛れ込んでいる。

 いうなれば、都市伝説の類いである。


 当然ぼくは、このことを知らせるべく透海(とうみ)さんのもとへ向かったのだが。

 空き教室に、彼女の姿はなかった。


 ただ、魔女としての役割を放棄しているわけではないらしく、占いを外したことのお礼である菓子類が、いくつも備えてあり。

 その空き箱や空き袋は、綺麗に清掃され、整頓され、教室の端に整然と並べられているのだった。


 実のところをいえば、もう一週間以上、彼女とは顔を合わせていない。

 寂しいだとか誤解を解きたいだとか、そういった感情は無論ないが、伝達事項を伝えられないのは〝係員〟として(いささ)かよろしくない。


「意図的に避けられているのだろうけれどね……」


 思わず飛び出した独り言に、口を押さえる。

 らしくないな。

 こんなことでは、いざというとき、切れ味が(にぶ)る。切り捨てられなくなる。

 半人前に、それは大きすぎる瑕疵(かし)だ。


 考えていても仕方が無いから、撤収を選ぶ。

 次の日も、その次の日も、ぼくは透海さんに会えなかった。

 そして、あっと言う間に中間試験も終わって、成績優秀者が張り出され。

 ぼくは、言葉を失うことになった。


 第一位 多賀(たが)恵留(える) 満点


 七不思議が発生している環境下で、満点を叩きだしたものがいて、それが恵留さんで。

 そしてなによりも驚いたことは、そのあとだ。


 番付の第二位に、透海(ちか)の名前があったのだから。


 いや、彼女の優秀さを疑っているわけではない。

 その点数は、満点から10を引いたものだ。恐らく真っ当に向き合った結果、七不思議に阻まれて満点を取れなかったのだろう。

 彼女にはそれだけの能力がある。

 問題は、そこではない。


 空き教室に隔離され。

 人々の記憶から忘却され続けているはずの彼女が。

 試験に臨み、そして結果を出したということこそ、驚愕すべきことだ。


 つまり、新たに返上された権限を持って、彼女は一定の期間、自由な行動を取り、学園側へ干渉する力を持ってしまったことになる。

 それはすべて想定外で。

 よって。

 次に起きたことに対して、ぼくはただただ、度肝を抜かれるしかなかったのである。


 校内スピーカーが、ピガガと鳴る。

 放たれたのは、電子化された、聞き知った声。


『全校生徒の皆さん、ごきげんよう。あたしは透海近。突然だけど、今回の試験で不正が行われた可能性があります!』


 ……ああ、透海さん。


「それは、悪手(あくしゅ)だよ」



§§



 透海さんの主張を要約すると、以下のようになる。

 現在、学園には七不思議が存在している。

 そのうちの〝絶対に満点が取れないテスト〟がある限り、どうあっても点数は最大値にならないはずだ。

 事実として、これは自分が実証している。

 しかしながら、満点を取ったものがいた。

 つまりこれは、問題制作者が意図的に、成績第一の人物と示し合わせて、特定個人にしか解けない問題を用意したのではないか。

 裏取引があったのではないか。

 だとしたら、そんな不正は許されない。

 これは七不思議などではなく、人の手で行われた許されざる汚職事件である。

 ならば断罪せよ、ジャッジを降せと、彼女は全校生徒へと迫った。


 ……それが、どんな影響を及ぼすか、平時の彼女であれば冷徹に分析しただろう。

 すくなくともぼくの知る透海近は、無邪気に振る舞うようでいて、悪徳にまみれているようでいて、その実、無慈悲な世界との向き合い方を(わきま)えた聡明(そうめい)な少女だったのだから。


 この放送を受けて、学園の世論は沸騰(ふっとう)した。

 もしも試験問題に不正があったのなら、当然許されることではない。

 問題作成者である担当教諭は何度も職員会議にかけられた。

 多賀恵留に関しても糾弾(きゅうだん)の声は上がる。


 この頃の世論は、透海近に対して同情的であった。

 なにせ透海さんは魔女。

 学園に囚われた、憐れな被害者。


 しかし、ある事柄を切っ掛けに、流れは変わる。

 件の教諭が、休職を願い出たのだ。

 尋常であれば、責任を取ってのことだと判断されたかも知れない。

 けれど、いささかバッシングは盛り上がりすぎた。

 結果、学生達はこう考える。


 ひょっとして、教師に間違いは無かったのではないか?

 間違っていたのは、透海近なのではないか――と。


 多賀恵留の関係者が、駆けずり回っていたことをぼくは知っていた。

 それが世論の誘導なのか、多賀恵留の名誉回復なのかまでは関知していない。

 ただ、事実として今回の一件は、そんな恵留さんに対して透海さんが嫉妬しただけなのではないか……? と体制側が考えるようになってしまったのだ。


 かくして、陰謀論のような透海近の主張は日に日に下火となり。

 七不思議第六番もまた、力を失っていく。


 ぼくにはこれらを抑制する(すべ)など無かった。

 黙って見ていることしかできなかった。

 なにせ、透海さんはぼくを避け続けていたし、そうなれば〝係員〟としてできることなどひとつも無かったのだから。


 ……だが。

 それでも、放っておけなかったんだ。

 毎日、空き教室を見に行って。

 学園中を歩き回って。

 結局、彼女の姿もみつけることはできず。

 いよいよ打つ手なしとなっていたとき。


 茶太郎から、電話がかかってきた。

 なんだろうかと疑問に思いながら出ると、開口一番『リョウ、おまえ、屋上でなにをするつもりだ?』と詰問のような厳しい声が飛んできた。

 親友曰く、ぼくからメッセが飛んできて、なんとしても屋上の鍵を入手して欲しいと懇願(こんがん)されたのだと。

 彼はあらゆるコネを使い、鍵を入手し、指示されていた場所に置いてから、ふと疑問に思ったらしい。

 どうにもこれは、春町(はるまち)遼遠(りょうえん)仕業(しわざ)らしくないぞと。

 なにか、非常にまずい精神状態にあるのではないかと。


 そこまで聞いたときには、ぼくは走り出していた。

 茶太郎へと短くお願い事をして、屋上へと向かって階段をひたすら上る。


 こんなふざけたことをしでかす人物は、学園でもひとりしかいない。

 ぼくのサブ端末を自由に使えて、ぼくの言動をトレースできて。

 茶太郎にどうお願いをすれば、効果的か踏まえたもの。


 息が切れる。

 心臓が早鐘を打つ。

 目眩(めまい)すらする。

 それでも走る。

 自分の推論が間違っていることを願いながら、確信に裏打ちされた不安がぼくの足を突き動かす。


 ぜぇはぁと息をつきながら、這いずるようにして階段を上り終えて。

 目の前には、固く閉ざされているはずの鉄門扉。

 屋上へと続く扉。


「間違っていてくれ……!」


 祈るように、施錠されている可能性を願いながら、ドアノブを回す。

 開く。

 押し開ける。

 その先に。


「――来ちゃったか、ハルさん」


 屋上の落下防止用フェンスの上に立つ彼女が。

 寂しげな微笑みをこちらに向ける透海近が。

 こう言い放った。


「邪魔しないでね。あたし、これから飛ぶからさ」


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