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ぼくらは七不思議にヒトを視る  作者: 雪車町地蔵
第四章 きみがわるいぐらい逆転卵事件

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第四話 反証するは、我にあり

 状況を、整理しよう。


 七不思議と思われる事件が発生した。

 内容は、天邪鬼(あまのじゃく)によって、卵の中身が逆転してしまうというもの。

 七不思議出席簿表巻にも天邪鬼の記述はあるため、噂として広がりつつあるのは間違いない。


 当初、透海(とうみ)(ちか)はこの一件を、東雲(しののめ)茶太郎の恋人が引き起こしたトリックであると考えた。

 手製の弁当を彼氏に食べさせるために、卵を台無しにしたのだと。

 しかし後日になって、卵の中からカッターの刃が発見されてしまい、一転、傷害事件の疑いが浮上。

 茶太郎の恋人が犯人であれば、非常に拙い立場になってしまうことが判明する。


 数日前からぼくの前に出没している同学年の少女、多賀(たが)恵留(える)は、事件のすべては透海近の画策したもので、よって魔女は東雲茶太郎やその恋人に対し害意があったのではないかと推理。

 このままでは、透海近は東雲グループからなんらかの処置を受ける可能性があると告げた。


 では、このことについて春町(はるまち)遼遠(りょうえん)はどう考えるか?


 なにも考えない。

 どうでもいい。


 誰がなんのために事件を起こしたとか、犯人が誰かとかに興味は無い。

 ぼくがやるべきは、七不思議を発生させたのが人かそれ以外かを魔女へと判断させること、それだけだ。

 ……それだけだったにもかかわらず。


 ぼくはこれから。

 謎を解体しようと、決めてしまったのだ。


 それは、あってはならない介入だというのに。


「ほら、遼遠くん。あんなクソ女は捨ててしまおうじゃないか。そして、もっと素敵な、例えば私のような優良レディーとお付き合いをする。そんな未来を考え――」

黙れ(・・)

「――――」


 浮ついた、心にもない偽りの好意を向けてくる相手を、ただ(にら)む。

 多賀恵留の顔に張り付いていた余裕の笑みが、ほんの僅かに凍り付く。


 本当によくないことだ。

 七不思議にまつわる事件を円滑に運営すること。

 魔女のカウンターとして位置すること。

 それこそが係員の仕事であるのに。 

 ああ、ぼくはいまから、それをひとつ、台無しにする。


「はっきり言わせてもらう。この一件に、魔女は関与していない」

「ひ――ひとがいい遼遠君がそう信じたいのは解るとも。けれど、事実として透海近は」

「透海近に、事件の実行は不可能だ」


 なぜならば。


「魔女は人から与えられた食材とお菓子、そしてお茶以外には手をつけられない」

「……はい?」


 自分がいかに的外れなことを口にしているかは理解している。

 誰も透海近が、自らの手で卵を攪拌(かくはん)し、カッターの刃を仕込んだ、なんて話はしていない。

 だが、推理とは一つ一つ疑惑に反証していくことで完成する。

 少なくともぼくに、ハウダニットを紐解く能力は無い。ひとの心などどこにもない。

 あるのはそう、消去法だけ。


「ならば他人にやらせたか。これは大いにありだ。けれど、他者を(そそのか)すことぐらい、どこの誰にもできる。ぼくにも、たとえば――」


 目前の人物を見詰める。


「優良なレディーとやらにも」

「…………」

「では次だね。逆転卵を作り出したものは、天邪鬼か、あるいは東雲茶太郎の恋人か。これについて、前者は否定される」

「あま、なんだって?」


 (ろう)した詭弁(きべん)を指摘されないうちに、話題を次へ。

 天邪鬼は、確かに他人の真似をすることができ、悪意に満ち、悪戯をする。

 卵にカッターの刃を仕込むなんて、じつにそれらしい振る舞いだ。


 けれど、ならば逆転卵はなんだ?

 そんな怪しいものを作らなければ、刃入りのゆで卵は食される可能性が高かっただろう。

 実害は、そっちのほうがよほど大きい。

 よって、天邪鬼の犯行は否定される。


「また、逆転卵を作った、という自供を、ぼくらは恋人さんから得ている」

「……どうやってだい?」

「茶太郎が聞き出した。恋人同士の間に隠し事は無粋だろう?」


 茶太郎から受け取ったメッセ、その追記事項を開陳すれば、多賀恵留はまた押し黙った。

 なぜなら、作ったという事実がありのまま綴られていたからだ。


「…………」


 平行したままの多賀恵留。

 そんなに難しく考えることはない。

 ここまでは自明というだけだ。


 ならば、問題はなにか。

 ひとつ、カッターの刃は、どうやって卵の中に入れられたか?

 ふたつ、誰がそんな真似をしたのか?


「前者から考えていこう。卵を割るところから動画が残っている以上、カッターの刃は後から混入されたものじゃない。茹でる前から、卵の中にあったと考えるべきだろう」

「魔女だね、魔女の仕業だ。人間業じゃとても――」

「七不思議の1、予言の魔女に、そんな力は無い。もしも誰かが、『この卵の中にカッターの刃は入っていない、と占ってください』とでもお願いをしたならば別だろうが」

「だったら簡単だねぇ。東雲茶太郎の恋人が、魔女に(そそのか)されて願ったに違いないさ」

「論外だ」


 すでに恋人さんは、予言を終えている。

 魔女の予言を受けられるのは、一人につき一回まで。

 これは絶対のルールだ。

 もしも論理の穴をつくとすれば、魔女に占わせたのが別の誰かということになるが……ならばそちらの動機の方が、よほど重要になる。


「よって、事前の工作でカッターの刃は卵内部へと入れられた。まずはそう考えるのが順当だろう」

「できるわけがないだろう。遼遠くん、魔法なんてこの世にはないのだぜ?」

「けれど、人間には知恵がある」


 そうだ、透海さんが言ったとおりだ。


「断言しよう。これは、知識の持ち物チェックで、解決できる」


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