平等に愛されて育った私は、“特別”を知らないまま学園へ向かう
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うちの家が“特殊”だと気づいたのは、いつだっただろう。
毎日が幸せで、愛情にあふれていて、
賑やかで、騒がしくて、笑顔が絶えない家族だった。
だからこそ、外の声に気づくまで少し時間がかかった。
「ほら、あれが例の家の子よ」
「まあ、綺麗な子。でも母親がアレだとねぇ」
「優秀だけど、男にだらしないって噂もあるし」
そんな声が、ある日耳に届いた。
——母は、そんな人じゃない。
愛情深くて、優しくて、確かに少し変わった話をするけれど、
父たちを平等に愛する優しい人だ。
父親が多いのは、そんなに不自然だろうか。
王様に妃が多いのは普通なのに、
どうして母だけ“だらしない”と言われるのだろう。
私は勇気を出して、母に尋ねた。
「お母さん……うちは、おかしいのでしょうか?」
母は少し考えて、柔らかく笑った。
「んー……まあ、特殊よね。でも私は幸せよ」
「……はい。私も、毎日幸せです」
「ふふふ。ねぇツバサ。
貴方が見て、聞いて、感じた気持ちが一番大事なの」
どんな感情も“あなたのものだから大切にしなさい”。
そう教えるように、母は言った。
母は不思議な人だ。
前世の記憶があり、地球という世界の話をしてくれる。
そこには、色んな価値観の人がいて、
愛の形もさまざまだったという。
兄は否定的だったけれど、
私はその話に強く惹かれた。
——この世界にも、いろんな価値観があるはずだ。
それを知りたくて、私は旅立つことを決めた。
◆
「……様……ツバサ様!」
はっ、と我に返る。
「ああ、ごめん。ぼーっとしてたみたい」
長い時間馬車に揺られていたせいで、
代わり映えしない景色に意識が流れていたらしい。
「もうすぐ学園に着きますよ」
「ああ、そうなんだ。どんな人たちがいるか楽しみだね」
世界一の魔法学園。
そこへ入学するために、家からはるばる旅をしてきた。
「はぁ……ツバサ様。兄上のお言葉を覚えておられますか?
学園は勉強の場であって、遊び場ではございません」
小さい頃から世話をしてくれた老執事が、
呆れたようにため息をつく。
「もちろん。でも、色んな人と交流するのも勉強でしょう?」
笑顔で返すと、老執事はさらに深いため息をついた。
「ツバサ様は、見た目も性格も特殊ですからな。
だからこうして、学園までお見送りに参ったのですよ」
言葉は厳しいが、その目は優しい。
「大丈夫だよ。兄さんたちみたいに問題は起こしてないし。
私は人当たりが良いからね」
そう言うと、老執事はまたため息を漏らした。
「ええ、人当たりは良いでしょう。しかし……
本当に人当たりが良い方は、自分からは言いませんな」
遠い目をしている。
どうやら、幼い頃の私を思い出しているらしい。
「あ! 見えたよ、爺!
門が見えてきた! ここからでも分かるくらい立派だね!」
胸がすっと高鳴る。
馬車の窓の向こうに見えるのは、
空へ伸びるように聳える光の塔——
魔法都市ルミナリアの象徴。
たしかに、“光の都”と呼ばれるのも頷ける。
新しい世界。
まだ見ぬ価値観。
“特別”の愛の形。
私は、胸の奥が踊るのを止められなかった。
魔法都市ルミナリア。
中立国として知られ、様々な能力者が集まる国だ。
孤児から王族まで、
“能力があり、学びたい意思がある者なら誰でも門を開く”と謳われている。
……と言っても、読み書きができない者は当然ながら除外される。
形式上は平等でも、結局は実力主義ということだ。
各国にも学園はあるが、
この魔法都市にある“中央魔法学園”は別格。
テストで優秀な成績を残した者、
もしくは特殊能力を持つ者だけが入学を許される。
例外として、能力の“予兆”がある孤児が保護されることもある。
表向きは「慈悲深い中立国」だが……
実際には“育成と管理”の意味が強いのだろう。
そんな中で――
私はというと、特別な能力も、飛び抜けた頭脳もない。
魔力量も知識も、そこそこ。
テストはギリギリ合格。
正直に言えば、コネ入学だ。
父たちが全力で “私には将来性がありますよ” とアピールしてくれた結果だろう。
そこは素直に感謝している。
……入学できたなら、楽しまないとね。
学園では寮生活が推奨されているけれど、
家から通う者、寮が嫌で近くで家を借りる者もいる。
私は寮生活を選んだ。
最低限の荷物は先に送ってあって、
さっき老執事のエドガーとも別れてきたところだ。
別れ際の小言はすごかったけれど、
あれはきっと、私のことを自分の子どものように思ってくれているからだ。
生まれてはじめての、一人暮らし。
寮生活。
受付を済ませ、案内された部屋で荷物を軽く確認する。
広くはないけれど、三年間を過ごす場所だ。
胸が高鳴る。
私は一足早く学園に着いたので、
入学式まではあと一週間以上ある。
寮にはまだ人が少なかったが、
その静けさもまた心地よくて——
新しい場所、新しい世界に触れる期待が、
どうしても抑えられなかった。
——この時の私はまだ知らなかった。
この学園で“特別”という言葉の意味に触れることを。
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