記憶を喰らう代償
ここまでお読みいただきありがとうございます!
まだまだ駆け出しで手探りですが、できるだけ楽しんでいただけるよう頑張ります。
今回は、蓮が自分の力の「代償」に気づくお話です
銃声が止んだ瓦礫の路地に、少年の荒い呼吸が響いていた。
篠崎蓮は、まだ温かい兵士の亡骸を前に立ち尽くしていた。
「……俺は、殺したのか」
震える声が夜の闇に消える。
初めて人を殺したという事実が、胃を締め上げるように重くのしかかる。
だが同時に、頭の奥では異様な感覚が渦巻いていた。
――兵士の言語がわかる。
――見知らぬ銃の分解方法を知っている。
――異国の歌を口ずさめる。
それはすべて、倒れた兵士の記憶だった。
「これが……俺の力……?」
吐き気を堪えながら、蓮は拾い上げた銃を手に取る。
冷たい鉄の感触とともに、自然に安全装置を外す手の動き。
まるで何年も使い込んだ兵士のように。
しかし次の瞬間、頭の奥で鈍い痛みが弾けた。
映像が勝手に流れ込んでくる。
――故郷の村で母に抱かれる幼い兵士。
――戦場で友を失った夜。
――「生きて帰る」と誓った約束。
知らぬ誰かの人生が、自分の脳裏に焼き付いていく。
笑い声や涙の温度までが生々しく伝わり、蓮は思わず頭を抱えた。
「やめろ……! 俺に見せるな!」
瓦礫の地面に膝をつき、喉の奥からえづきが込み上げる。
自分が殺した相手の“残滓”を無理やり飲み下す感覚。
そして蓮は気づく。
力を使うたびに、他人の記憶が自分の中に積み重なっていく――。
それは強さと同時に、魂を削る代償でもあった。
◇
夜更けの闇市。
食料を探してさまよっていた蓮は、三人組のチンピラに囲まれた。
「おい、ガキ。パンをよこせ」
「嫌だって? この状況で逆らえると思ってんのか」
汚れた手が蓮の袋を奪おうと伸びる。
普段なら殴られて、蹴られて、泣きながら諦めるしかなかっただろう。
だが今は違う。
蓮は静かに銃口を突きつけた。
「……動くな」
わずかな金属音とともに、路地が凍りついた。
チンピラたちは顔を引きつらせ、互いに視線を交わす。
目の前の少年が、本気で引き金を引けるのか。
それを判断する前に、本能が危険を告げていた。
「こ、このガキ……!」
次の瞬間、彼らは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
袋小路に残されたのは、蓮と、手の中で冷たく光る銃だけ。
しばらく震えていた蓮は、やがて小さく笑った。
それは恐怖からではない。
――自分に逆らえない者がいる。
――自分には、力がある。
胸の奥に、暗い炎のようなものが灯る。
それは希望ではなく、もっと原始的な衝動。
生きたい、奪われたくない、踏みにじられたくない――。
「俺は……生き残る」
瓦礫に覆われた街並みを見渡し、蓮は呟く。
「この灰の街で、必ず生き延びてやる」
その足取りは、もはや弱者のそれではなかった。
だが同時に、それが“灰の王”へと至る最初の一歩になることを、誰も知る由もなかった。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
第2話では、蓮が「力の代償」に気づき、初めて他人を圧倒する場面を書きました。
次回はついに、彼の運命を大きく変える存在が登場します。
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