雪に沈む銃声
お読みいただきありがとうございます!
今回は、ついに「裏切り」が現実に起こる回でした。
蓮が未来視を使い、自らの生死を分ける場面を描きつつ、仲間の中の不穏さを鮮明にしています。
林道を進む一行。
風は冷たく、木々の枝に積もった雪が時折ぱらりと落ちる。
荷車のきしむ音と、靴が雪を踏みしめる音だけが響いていた。
蓮は歩きながらも、頭の奥に残る光景を振り払えずにいた。
銃口。
仲間の顔。
そして、己が倒れる未来。
――来るのか、本当に。
「……蓮」
隣を歩く雪が、囁くように呼びかけた。
彼女の視線は前方に向いていたが、僅かに強張っている。
「気をつけて。何か……嫌な気配がする」
蓮は頷き、答えを返さなかった。
代わりに、指先でそっと銃の安全装置に触れる。
◇
やがて、林道は小さな谷を越える細い橋に差しかかった。
荷車が通るたび、きしむ木の音が冷たい空気に響く。
一行が橋を渡りきろうとした、その瞬間――。
「――今だ」
低く短い声。
同時に、銃声が轟いた。
弾丸が蓮のすぐ脇をかすめ、背後の雪壁に突き刺さる。
白い粉雪が弾け、冷たく舞った。
蓮は反射的に飛び退く。
未来視で見た光景が、現実に重なっていく。
「……やっぱり」
喉の奥で押し殺した声が漏れた。
撃ったのは、同じ部隊の男――昨夜、密談を交わしていた一人だ。
その顔にはためらいも迷いもなかった。
「こいつは危険だ! 今のうちに――!」
叫び声に合わせ、別の銃口が蓮に向けられる。
◇
銃弾が迫る刹那、蓮の視界が揺らいだ。
未来の断片。
閃光。
銃弾の軌跡。
それを“先に”見ていた。
「……遅い」
身体が自然に動く。
わずかに身を逸らし、飛び込む。
耳元を弾丸がかすめて抜け、背後の木を抉った。
驚愕する男の前に転がり込み、蓮はナイフを突き立てる。
男は声にならない呻きをあげ、そのまま雪の上に崩れた。
「っ……!」
残る二人が銃を構えた瞬間――。
「やめろ!!」
鋭い怒声が林道に響き渡った。
鷹宮迅だった。
彼は荷車の影から飛び出し、銃を構えたまま裏切り者たちに狙いを定めていた。
「撃つな! こいつを殺したら……お前らが地獄を見るぞ!」
迅の眼差しは鋭く、冷たかった。
裏切り者たちは顔を引きつらせ、銃口を下ろす。
蓮は荒い息を吐きながら、血に濡れた手を見下ろした。
自分が殺した仲間。
胸の奥が冷たい何かに締め付けられる。
◇
「……分かってるな」
迅の低い声が裏切り者たちに突き刺さる。
「次はない。蓮を敵に回すということは、俺を敵に回すってことだ」
誰も反論はできなかった。
沈黙の中で、雪が蓮に駆け寄り、その手を握った。
「大丈夫……?」
蓮は答えなかった。
雪の手の温もりを感じながらも、心の奥底に別の問いが渦巻いていた。
――なぜ、自分は生き延びたのか。
――なぜ、未来を知ってしまうのか。
答えは、まだ闇の中にあった。
ここまで読んでいただき感謝です!
仲間の手によって命を狙われた蓮。
それを救ったのは迅でしたが……この一件が蓮にどんな影を落とすのか。
次回は、その余波と、さらに深まる「不信」が描かれます。お楽しみに!




