密やかな刃
お読みいただきありがとうございます!
今回は、仲間の中に「蓮を危険視する動き」が芽生える回です。
異能の力が、仲間を救うと同時に恐れられる――そんな皮肉を描きます。
奪った補給物資を拠点へ運び込んだ夜。
レジスタンスの隠れ家は久しぶりの笑いに包まれていた。
仲間たちは酒を分け合い、肩を組み、勝利を称え合う。
蓮もその場にいたが、輪の中に加わることはせず、静かに壁際で杯を傾けていた。
「おい、新入りも飲めよ!」
陽気に叫んだ男の声に軽く手を上げるが、蓮の瞳に明るさはない。
頭の奥には、あの夜の戦場がこびりついていた。
銃弾を浴びて倒れた兵士。
その瞳に浮かんだ母の姿。
血と共に押し寄せた断片的な映像が、まだ消えてくれない。
◇
夜も更け、人が散っていった後。
残った数人が、声を潜めて囁き合っていた。
「……やっぱり、あいつは危険だ」
「蓮のことか?」
「そうだ。戦闘じゃ役に立ったが……未来が見えるだと? 気味が悪い」
「迅さんが庇ってるから誰も言えないが……俺たちのことまで見られてると思うと、安心できねえ」
「いっそ……事故に見せかけて消すか」
男の吐き捨てるような声に、別の者が小さく笑った。
「戦場なら、死は珍しくない。明日、運搬任務があるんだろ? “たまたま”弾が当たっても、誰も疑いやしねえさ」
冷たい笑い声が、暗闇に沈んでいった。
◇
その頃、蓮は拠点の外に出ていた。
月明かりが淡く雪を照らし、夜風が頬を刺す。
吐く息は白く、重苦しい。
未来視の残滓がまだ残っていた。
敵兵が倒れる刹那の光景――。
未来と過去がないまぜになり、現実感を揺るがす。
「……やめろ」
額を押さえ、低く唸る。
「蓮」
背後から声をかけてきたのは雪だった。
彼女は手に毛布を抱え、そっと差し出した。
「寒いでしょう?」
蓮は受け取りながらも、目を伏せた。
「また、見えたの?」
「……ああ」
短い答えに、雪は唇を噛んだ。
「私は……あなたを信じたい。でも、みんなが……」
そこまで言って、彼女は首を振る。
「ごめん。何でもない」
「いい」
蓮はそれ以上を求めず、毛布に身を包む。
雪の瞳には、言葉にできない不安が揺れていた。
◇
翌朝。
補給物資を別拠点に搬送するため、小隊が編成された。
蓮もその一団に加わる。
顔ぶれの中には、昨夜ひそかに囁き合っていた男たちの姿がある。
「よし、行くぞ」
鷹宮迅の号令と共に一行は出発した。
雪に覆われた林道を進む。
凍りつく空気。
雪を踏みしめる音。
だが、蓮の背に突き刺さる視線があった。
仲間であるはずの彼らの視線。
そこにあるのは、信頼ではない。
潜んでいるのは――密やかな刃の気配だった。
◇
その時、蓮の視界に一瞬、未来が揺らめいた。
銃口が自分へと向けられる映像。
そして仲間の顔――。
「……っ」
喉の奥で声が詰まる。
果たしてそれはただの幻か。
それとも、避けられぬ未来なのか。
蓮の足取りは重くなる。
冷たい風が頬を切り裂くように吹き抜けた。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
蓮の力が戦果をもたらす一方で、不信と恐怖が仲間の中に広がり始めました。
次回は、ついに「裏切り」が表に出る展開になります。どうぞお楽しみに。




