偉大な骨壺
怪盗から予告状が届いた。『次の満月の夜、例の骨壺を盗みにうかがう』と記してある。教会の人々は騒然となった。
「――例の骨壺! 偉大なる聖人の遺骨を納めたあの骨壺!」
「純金仕立てでさまざまな宝石を色とりどりにちりばめた、あの骨壺を!」
「これは大変だ、聖人様の遺骨を持ち去られては、この教会の存在価値すら無くなる! 怪盗は遺骨を持ち去って、どこか異国で新興宗教でも興す気なのか!」
教会の面々は大騒ぎし、教会の地下室に骨壺を移し、厳重に見張りを立てて備えていた。満月の夜、ふいに花の蜜のような良い香りが漂ってきて、教会じゅうに満ちあふれた。人々はその香りに陶然となり、香りに酔ったようになり、ばたばたと倒れ伏して深くふかく眠り込んだ。
……次の日の朝、人々が目を覚ました時には、骨壺はかげも形もなかった。聖人の骨と灰が、地下室の床にばらまかれていた。
聖人の遺骨を納めた骨壺。純金製で色とりどりの宝石をちりばめた、高価い骨壺――、
考えてみれば当然だ。怪盗は、壺だけが欲しかったのだ。
(完)