第一章 転生
土曜日の午後1時。僕は自転車で駅に向かっていた。
ひりつく様な陽射しの隙をつくようにパラパラといく粒かの雨が僕の顔に振り降りた。
「やばっ、晴れてるのに降ってきた」
僕はペダルを漕ぐ足に力を込めた。
狐はまだ嫁入り中なのか、すぐには止みそうな気配もなく、僕は立ち漕ぎで駅の駐輪場を目指した。すると、小粒だった雨が急に大粒に変わり、僕は無造作に目を閉じてしまった。だが、それもほんの1秒足らずだったと思う。
「何か違う」
目を開けると50メートル程先に見える駅の様子がいつもと違って見えた。
いつの間にか雨は止んで夏の陽射しに戻っている。僕は、自転車の速度を落としてゆっくりと駅に近づいていった。
自転車の駐輪場が無いので駅舎の横に止めると、建物の前に行って駅の名前を確認した。
「原口駅」
駅の名前は同じだったが、板に手書きで書いてあった。駅舎の壁も板を張ってある。
何だか、古臭い・・・・
「ねえ、君。それは防空頭巾なの?」
背後から声を掛けられてドキッとした。
「君だよ、君」
そう言われて僕は慌てて振り向いた。
「あのう・・・・」
「何?」
「ここって何処なの?」
「何処って、そこに書いてあるじゃない」
女の子はそう言って駅の看板を指差した。
僕は改めて看板の文字を確認した。やっぱりここは原口なのか。いや、そうじゃなくてどうしてこんな駅になってるのかって事が意味が分からないんだけど。それに、目の前の女の子の服が凄くダサい。お尻まで隠れるようなダボダボのTシャツと膝下までしかないパンツとテカテカのサンダル。
「その格好、流行ってるの?」
「あのさあ、流行ってるも何も。それより、あんたの防空頭巾のほうが変だと思うけどね」
「アハハハ」
「ん?」
「いや、防空頭巾って」
「違うっていうの?」
「パーカーだよ、パーカー」
「バーカー?」
「違うよ、パーカー」
「何それ?」
「これの名前だよ」
そう言ってフードをパタパタとして見せた。
「うーん、何かよく分かんない」
「それより、ここの駅っていつから板張りの壁になったの? 2週間前まではコンクリート造りだったのに」
女の子は不思議そうな顔をした。
「前からこうだけど。ていうか、さっきから何を言ってるの?言ってること変だよね?」
変って言われても・・・・
あれ?ここの信号が無くなってる。それに、道向かいの自転車屋も普通の民家みたいだし。走ってる車も今どきじゃない形をしてる。
僕は、変に思われるのを覚悟で聞いてみた。
「今、令和何年だっけ?」
「また変な事言って。令和って何よ?」
「あ、年号だよ」
「だったら、昭和だよ。昭和55年」
「:西暦何年かな?」
「1980年」
そう言いながらマジで呆れた顔を見せてくる。
1980年。ということは、45年前?
僕は、たった今起きたことを女の子に説明した。勿論、女の子は半信半疑だったけどね。