9.異世界での魔力実験
領主の護衛依頼を受けた次の日、俺たちはミアと一緒に遊んでいた。遊びの内容は、魔法をいかにうまく使うかの考察と実験だ。
そういえば言っていなかったが、ミアは16まで魔法の使用を禁止されていて、来年で使えるらしい。
「白ちゃんは10種類の魔法が使えますよね?」
「うん」
「なので、強化魔法と制限魔法を除いた八つのうちの三つくらいを主体にした攻撃方法を考えましょう」
ミアの提案に従って、俺は火魔法を主体にすぐに決めたけれど、白はかなり悩み始める。
ジャムの法則がきちんと働いているようだ。
「やっぱり、多いと悩むよな」
「そうじゃない」
「ん?じゃあ、何で悩んでるんだ?」
「どの魔法が一番白に合うか」
「おお…?」
全部似合いそう、というか、全部使っている姿が一番カッコいいと思う。男の子にはそう思うんですがどうでしょう?
「…にぃがいいと思うやつは?」
「全部だな。やっぱりロマンというか…」
「じゃあ、全部主役にする」
「白ちゃん、ホントに…!?」
「《六属性魔術者》はどうしてるの?」
「属性ならたしか、氷魔法を主体にしてたはずです」
「なら白は全部」
六属性魔術者の魔法の主体を聞いた意味とは。聞いたのに結局全部選んだから、ミアが口を開けて固まってるぞ。
白がミアの肩を揺すると、ミアははっと気を取り戻した。
「はっ、伝説が生まれるような夢を見てた気がします」
「ははっ、伝説ねぇ。白ならできそうだけどな」
「にぃも、できるよ」
白の期待を含んだ視線を感じる。あんまり期待しないでくれ。
白の頭を撫でていると、次はミアからの視線を感じる。そんなに撫でてほしいのか?まあ、それは白が許さないから叶わないぞ。
白が強化魔法の特訓をしたいと俺を実験台にしようとするので、俺は屋敷の外へ出た。なんで逃げるかって?それは白の目が悪いことを考えているときの目になっているからですよ。
「にぃ、にげないで」
「さすがに逃げるわ!絶対録なことにならねぇだろ!」
「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ、ま、まって…」
白は絶望的に体力に乏しい。逃げていれば基本追い付かれない。というわけで、息を上げた白を回収した。
まったく、実験台にされると聞けば逃げるに決まってるだろ。
そして、無詠唱による制限魔法で、数時間俺は白のおもちゃになっていた。なんで?
俺が白のおもちゃとして働かされたことを記そう。これを全て俺で試した白は鬼と言っても良いのでは?
まず、斬撃に魔法付与ができるかどうか。これは強化魔法と、付与したい魔法をどちらも使えるときにできた。俺は強化魔法が使えたので、火と土魔法だけ自分で魔法付与ができることがわかった。剣が火で熱かったり、氷で手が凍りかけたりした。
次に、制限魔法と強化魔法のどちらが強いか。これは魔力が強い方が優先されることがわかった。同じ魔力の強さのときは後にかけた方が優先された。俺にかけて試した。
他には、合体魔法について。主体とする魔法より威力の低い魔法なら合わせることができる。ただし、属性相性があり、水魔法と雷魔法を同時に使うと効果が高くなるが、火魔法に水魔法を合わせると弱くなり、逆だと熱湯になり強くなる。光魔法と闇魔法では相殺される。逆に合体できない組み合わせもあった。光と闇は基本的に合体できないようだ。俺にぶつけて試した。
最後に、魔法の相殺について。一つの魔法には魔力をいくらでも込めることができて、その魔力が大きい方が相殺時に打ち勝つ。同じ場合はどちらも消失する。威力が弱くなったかを俺で試した。
やっぱり白というのは鬼に違いない。《八属性魔術者》には気をつけような。
「にぃ、誰が鬼って?」
「白さんのわけないじゃないですかー!」
「ふぅん」
「すいません。白は可愛い癒しキャラなので、鬼なわけないです。天使の間違いでした。あ、心は悪魔どぅえ!?」
急な白の攻撃の氷魔法の氷柱を盾で防ぎ、チラッと白の様子を見る。あっ、これアカンやつや。めっちゃ怒ってるわ…。
「にぃ、シベリアで発見されたミイラは、氷のおかげで綺麗に残ってたらしいよ?白は、にぃもできると思う」
「待て!俺を氷漬けにするつもりか!」
「白を怒らせた罰」
「ごめんなさい!実験台になるんで許してください!」
こんな感じでプラスで三つ実験された。
一つ目、異常状態の回復。氷漬けの状態には火魔法で対象可能で、火傷には水魔法、感電には土魔法の金属で電気を床に流せば対象と、何個か対象方法を見つけた。
二つ目、《回復魔法》について。分類上では強化魔法で、いくつか種類があった。だが、その中に治癒魔法はなかったため、前にミレイナにかけた魔法はヒールと思われていたようだ。
三つ目、魔力量について。白が魔法を使うと、だんだん疲れが見られた。これは魔力量が減っているからで、魔力量は人によって違い、時間が経つと回復する。特に休憩しているときや睡眠中は回復が速いようだ。
と、まあ、最初の四つよりはよっぽどマシな実験で助かった。白の疲れがこれを引き起こしたなら、白の体力にも感謝すべきか。おっと、白の視線が痛い。やめておこう。
そういえば、実験を始めてからミアに会っていない。あれだけ大騒ぎしていたら気になって見に来そうなんだが。
白も不安になってきたのか、俺と一緒に話し声のする領主の部屋に行く。
部屋には、オズワルトに加え、ミアと門番二人が部屋にいた。
「まずい。このままではシトロニは…」
「「……。」」
「お父様…」
「《七賢人》に頼みを出すか…」
不穏な空気が立ち込める中、俺は声をかける。
「何があったんだ?」
ビクッと体を震わせたオズワルトは、少し考えた後、何を話していたのかを語る。
「君たちには見せておくべきか…」
オズワルトは四人で見ていた手紙を渡してくる。
「なっ…!」
「…!」
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シトロニ領主 オズワルト・シュトーラスへ
私たちは湾岸都市・ミーガンを占領した。つまり、君の両親は私たちの手の中であるということはお分かりのはすだ。
そこで私たちは君に提案をしよう。
最近シトロニには伝説の迷い人というのが現れたらしいじゃないか。その迷い人を差し出せば、私たちはミーガンを解放しよう。君がもし提案に乗らなければ、私たちはシトロニを占領する。期間は次の満月まで。君の判断を楽しみにしているよ。
海の支配者 ネロ・リファイアンス
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これは、強迫文章で間違いない。だが、なぜ俺たちを求めているのかがわからない。
「にぃ」
「分かってる。オズワルト。俺たちはミーガンに行く。だから、護衛までに間に合わないかもしれない」
「蒼さん、白ちゃん!?」
ミアが心配と驚きの声を上げる。門番とオズワルトからは期待の目を向けられている。
「オズワルト。ミーガンまでの道のりが知りたい」
「…分かった。なんだ、気をつけてな。奴らは海賊だ。何を仕掛けてくるか分からん」
「海賊…そうか。気をつけるよ」
「んっ。任せて」
手紙を返そうと裏返すと、まだ文字が乗っているのが分かる。こちらは表とは違い手癖がはっきりと出た字だ。
『迷い人へ、君たちはシトロニの街の最南端にある倉庫へと来てもらいたい。私たちは君たちを大いに歓迎しよう』
「なぁ白。なんでこいつは迷い人が二人だと分かるんだ?」
「…スパイ」
「だろうな。オズワルト、表と裏で書いたやつは違うと思うか?」
「裏?何も書かれていないが…?」
なるほど。不思議なこともあるものだ。白が手紙に制限魔法をかけると、オズワルトたちにも見えるようになったらしい。
「なに、これは…!」
「隠蔽系の魔法を文字にかけていたみたいだ」
「ほぅ…」
俺たちが見えた理由は、多分言語の翻訳が透明な文字に働いたからだろう。やはり白のおかげだな。
「俺たちは指定されたところに行くよ。ミーガンまで行ってネロから解放するさ」
「白の魔法で倒す」
「…それなら、二人には渡しておきたいものがある 」
オズワルトは引き出しを漁ると、ペンダントのようなものを取り出した。紫色の結晶が金のフレームで固定されたペンダントからは、魔力が籠っているのが分かる。
「これを持っていれば、そこら辺の魔物たちは近寄らなくなる。シュトーラス家に代々伝わるペンダントだ。これを貸しておく」
「助かるよ。無駄な消費が抑えられるしな」
「んっ、ありがと」
「ちゃんと、シトロニに戻ってこい。ミアが待っている」
「待ってて。帰ってくるから」
白はミアにそう言い残すと、俺より先に前へ行く。俺も白の後をついていく。さて、面白くなってきた。