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異世界に10個だけ何かを持ち込めるそうです  作者: ペんぎn
第一章 始まりの大地
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8.異世界での魔法練習

 俺たちの朝は早い。これまでが夜起きて、昼は寝る生活だったのもあるが、人の家ということもあり、しっかり眠れなかった。


 まだ日も登らぬ時間でも、冒険者ギルドは開いていた。聞きたいことがあるため、冒険者ギルドで目当ての人を探す。


「朝から仕事か、スリーヤ」


冒険者ギルドマスターであるスリーヤは、夜明け前の冒険者ギルドのカウンターに一人ポツンと腰かけていた。

 俺の声を聞いて、少し驚いた表情をしたが、それも長くもたず破顔する。


「やあ、蒼くん、白ちゃん。こんな朝早くにどうしたんだい?」

「ちょっと訊きたいことがあってな」

「ほう、僕が分かる範囲なら答えるよ」


スリーヤもこちらが出す話には興味を示し、カウンターに両肘をついて話を聞く。

 スリーヤは俺の話を聞くときには頷いたり、「へぇ」といった反応をしたり、余計なことを話してしまいそうで危なかった。


「なるほど、王都への行き方か……。基本は馬車だけど、魔法で行く人もいたかな」

「魔法で行けるのか?」

「高レベルの魔法使いだと、瞬間移動みたいな魔法で行くみたいだよ」

「白も、できる?」


一言も話さなかった白が首をかしげながらスリーヤに聞くと、スリーヤは考え込んでしまう。


「まあさ、白にもできないことはあるだろうし、全部できなくてもいいんじゃないか?」

「歩くのめんどくさい」

「おい」


俺たちのやり取りを見ていたスリーヤは、にこにことした顔をしていて、「僕には気にせず続けてください」と言いたげだった。

 だが、後に白が「止めなかったにぃが悪い」と言いそうなので、無駄話は止める。


「とりあえず、王都への行き方を教えてくれ。それと、それに関係ありそうな依頼、そうだな、護衛の依頼とかはあるか?」

「護衛の依頼なら、一応あるんだけど、条件があるからね。例えば、これとか」


依頼板にあった紙に刺さったピンを抜き、依頼書の内容を見せてくれる。


「依頼人はオズワルト……誰だ?」

「にぃ、この人、領主」

「おっと、そうだそうだ」


ミアの方が印象に残っていて、オズワルトの印象としては地図をくれたおじさんレベルだ。

 だが、領主の依頼なら、条件が厳しくても何とかしてくれるかもしれない。

さて、条件は……


冒険者ライセンスのランクがC以上かつ、王都へ行ったことがある者。


率直な感想としては、これは駄目そうだ。


「他は何かありますかね?」


その言葉にスリーヤは笑い、見せてくれた紙をもとに戻した。



 結局、何も王都への足がかりを得ることはできなかったが、一つ気になる依頼を受注してみた。


「さてと、魔法指導とは、何を教えるのだろうか!?」

「にぃ、うるさい」

「今日の白はツンなのかーっ!?」

「…………」

「静かにするんで、その目はやめてください」


楽しく(?)お話しながら依頼主のもとを訪ねると、なんだか見覚えのあるお屋敷に着いてしまった。


「蒼様、白様、本日はどのような御用でしょうか?」

「依頼を受けてきたんだ」

「…はて?護衛依頼なら、一週間後のはずですが」


なに?なら、あの依頼は嘘の依頼なのか?

確かに領主の側近が魔法指導をすれば依頼なんて出さない。つまり、あの依頼は誰かのいたずらだったということだ。


「オズワルト様に確認することなら可能ですが、どうなさいますか」

「ああ。確認してくれ」

「はい。少しお待ちください」


残されたもう一人は何か言いたそうにしていたが、何かを話すより先に、確認をしに行った門番が戻ってきた。


「お待たせいたしました。オズワルト様に確認をしましたが、やはり護衛依頼以外は出しておられないようで……」


やはりか。先程からもう一人の門番が話し出せずにいるのも含めると、多分今考えている俺の予想は正しい。

後は依頼主か本人が来れば確信できるのだが、時間的には後者はほとんど期待できない。


「ま、待ってください!」


俺の予想を裏切り、開かれた扉からは寝巻き姿のミアが現れた。真っ先に反応したのは確認をしに行った門番だ。


「ミア様!?」

「魔法指導の依頼を出したのは、私です!」


 まあ。そうだろうな。なんとなく予想はついていたさ。依頼をオズワルトに気づかれぬよう出せる人とは誰だろうか?

無論、それは普段お屋敷に入らない門番だ。


「依頼はミアでも、差出人はあんただろ?」


門番の喋らない方に指差すと、その門番は少しの間を置いて頷いた。


「勝手な真似をすみません!でも、私も、魔法を使いたいんです!」

「ですがミア様、オズワルト様は魔法の使用の制限を…」

「お父様のことはいいの!蒼さん、白さん、私に魔法を教えてくれませんか?」


困ったな。教えるのはいいけど、領主の娘に勝手に教えるのはな…。


「じゃあ、オズワルトに許可が取れたらいいぞ」

「…それはっ!」

「白たちも行くから」

「…わかりました。頑張ります」


門番たちはやれやれと反応をしつつも、俺たちを中に入れてくれた。



 ミアに案内されるまま、領主のいる部屋の前に着く。ミアは一度息を整えてから、部屋をノックした。


「お父様」

「ミアか。入れ」

「失礼します」


ミアの後について入ると、オズワルトは分かりやすく驚いていた。


「お父様、私、ミア・シュトーラスに魔法の使用許可をいただけませんか?」

「待て。なぜ蒼と白までいるのだ…?」

「俺たちがミアの依頼を受けたからです」


オズワルトは黙り込み、少しの間考え事をする。ミア、もう一息だぞ?


「私は、お姉様みたいに、魔法を使いたいのです!お願いします!」


ミアが頭を下げると、オズワルトは重い口を開く。


「わかった」

「それなら…」

「ただし条件をつける。ミアは蒼と白がいるところでなら、魔法の使用を許可する。だが、ミア自身が魔力を消費するのは禁止だ」

「それ、魔法使えなくないか?」

「いえ、蒼さん、魔法は本人の適正と譲渡をする気持ちがあれば使えるんです」


オズワルトが折れたことで、ミアは大いに喜んだ。早速というほどに俺と白の腕を引いて外へと連れていく。

 部屋に残ったオズワルトが頭を抱えていたのが見えたが、ミアの魔法練習に付き合うことを優先しよう。



 さすが領主の家と言ったところか。魔術書が大量にあり、白は指導そっちのけで本を漁っていた。

 なので、俺とミアは門番たちに見守られながら、魔法の特訓をする。

 まずは的を土魔法で作り、俺のテニスボールくらいの火魔法をぶつけてみる。火魔法が霧散し、土魔法はボロボロと崩れていく。


「わぁ、蒼さん、すごいです…!2種類も魔法が使えるなんて!」

「そうなのか?」

「はい。2種類魔法が使えるひとは《二属性魔術者(ツインキャスター)》と呼ばれます。一番すごい人は《六属性魔術者(ヘキサキャスター)》で、《七賢人》の一人とされています」

「へぇ、白もそのくらいできそうだけどな」


本を読んでいる白は、俺の発言に気づいたのか、手軽に俺が作った火魔法より小さめなサイズの魔法の色のついた球体をすべての指先に出していく。

赤、青、茶、透明に近い緑、黄、水色、紫、白、無色二つの玉を出して説明してくれる。


「火、水、土、風、雷、氷、闇、光、強化(バフ)制限(デバフ)。10種類?」

「最後二つは数えないんですけど、お、《八属性魔術者(オクタキャスター)》!?《七賢人》を超えてます!」

「はぁ!?」

「ん…?」

「それに、白さん、無詠唱で全て魔法を!」

「え、なに…?」


本人が一番しっくりきてなさそうな雰囲気を醸し出しながら、指先に出した魔法を消す。白はその場で立ち上がり、ミアから逃げるように読み終えた本の山を元のところへ戻していく。


「白さん…、その、どうやって無詠唱と《八属性魔術者》を…?」

「知らない」

「え…?」

「勝手にできるようになった」

「えぇ…?」


ミアは納得がいかない様子だが、それより食い下がることはなかった。まあ、白もよく分かってなさそうだし、食い下がっても意味がないのは明白だが。


 ミアは結局、白の魔法を少しだけ操る練習をしただけだった。それでも、ミアは水、氷、光、強化魔法を使うことができたので、《三属性魔術者(トライキャスター)》であることに喜んでいた。


「依頼はこれで終わりでいいか?」

「はいっ、今日はありがとうございました!」

「ん、楽しかった」


白はほぼ同年代の友達ができて嬉しそうだ。

 ミアは報酬に20シルバーをくれた。オズワルトからもらった20シルバーをそのまま横流しに。


「また一緒に遊ぼうね白ちゃん!」

「うん。また来る」


数時間で本当に白はミアと仲良くなったようだ。

 中学入学以来、白が仲良くなった人を見かけたことがない。それは両親がいなくなったこともあるし、白が同級生に比べて賢すぎたということもある。

 白の精神が良くなかったときに白が厳しい言葉を飛ばしたことで、同級生たちと距離ができてしまった。それに早く気付いてメンタルサポートさえできていればと悔やんだこともあった。

 でも、ようやく白に友達ができた。俺は何もできないけど、白なら、これから先もうまくやれるんじゃないかと思う。


 依頼書を提出し、依頼達成が認められた。オズワルトから直々に護衛依頼を頼まれることをスリーヤから教えられ、来週には依頼が始まるため、怪我をしないように領主の屋敷で数日ミアと遊んで過ごした。

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