6.異世界での初報酬
村の入り口には、今日もリュートが門番として立っていた。
リュートは俺を見るなり近寄ってきた。
「さっきの音といい光といい、何があったんだ!?」
「いやぁ、少しだけ魔法の実験をしてたんだ」
嘘は言っていない。
というか、半分そのつもりだった。依頼をこなした後に実験をしようと思っていたのだ。もっとも、依頼内容がかなり予想を上回っていたのは言うまでもない。
「ほぉ、迷い人も勤勉なことで。あ、そうだ。冒険者ギルドから、なにやらヤバそうな依頼が出てたらしいぞ。それも、森だって言うし、魔法の実験もほどほどにな!」
「そうですね、気をつけます」
きっと、あのスライムの依頼のことだろう。
リュートは俺の肩を叩いて、村の中へと入れてくれた。
今日のところはリュートの誇張表現はなさそうだった。こいつの発言には今後も気をつけよう。
冒険者ギルドへと戻ると、外まで人々がごった返していた。
ちなみに白は少し動けるようになったようで、自分で歩いている。多分恥ずかし…。いや、これ以上はやめておこう。白からの視線が痛い。
冒険者だらけのギルドの中でも、ティナは真っ先に俺たちに気づき、冒険者たちの集団に道を作ってくれた。
「蒼さん、白さん!大丈夫でしたか!?」
「俺は大丈夫だけど……」
「白はもう動きたくない……」
白は疲れたのをアピールするように、俺の肩にもたれかかる。このままでも俺は良いが、白を休ませたいのもあり、ミレイナに依頼の処理をしてもらいたい、とティナに伝える。
「分かりました。少し待っててください」
ティナは小走りでミレイナの元へと戻り、すぐにミレイナは冒険者の対応を終わらせ、奥へと姿を消す。
俺たちの元にティナがやってきて、「来てください」と俺たちを案内する。
冒険者ギルドの奥へと連れていかれた。その奥の部屋ではミレイナが待ち構えていた。
「二人とも、依頼は、どうだった…?」
「白たちで倒した」
「本当!?魔石…えっと、大きな石みたいなものがあったと思うんだけど、見せてくれない?」
魔石を机の上に置くと、ミレイナは一週魔石の周りを見てから、ソファーに腰を下ろした。
「大きい…!本当にメガスライムを倒すなんて…!」
「メガスライムって、なに?」
「あ、二人にはまだ説明してなかったね。魔物たちの間では、同じ系統の魔物の魔石を取り込むとね、魔物がさらに強くなることがあるの。最悪の場合、他の村とか、国に要請をしなければならないの」
まさか魔石一つ処理しなかっただけで、あれほど強くなるとは思わないだろう。
実際、元のスライムとはレベルが違った。
「そうだ。二人はランクCの依頼をこなしたことになるから、冒険者ライセンスのランクをCまで上げられるよ」
「冒険者ライセンス?」
知らない単語が出てきた。この世界にはまだまだ知らないことが多いのだと実感させられる。
「あれ?……あ!まだ渡してなかったね。ちょっと待っててね!」
なんだ、知らなくて当然のことだったか。
ミレイナはバタバタと席を離れていき、ミレイナが出ていったところに誰かが立っているのが見えた。
「どうしたんですか?」
わざとらしく訊くと、その男性は姿を見せて頬を人差し指で掻く。見た目は若いが、見た目に反して年を取っていたりしたり……。
「僕はスリーヤ・カルミラン。シトロニの冒険者ギルドマスターだよ。よろしく、蒼くん、白ちゃん」
いや、普通に若い人の声だ。というか、ミレイナが同じ年とか言っていた気がする。
「なんで白たちの名前を知ってるの」
「迷い人が来たって有名になってたよ?名前はさっき知ったばかりだけど。まあ、今後とも頼りにさせてもらうかもしれないし、ここで会ったのも何かの縁だろうね。改めて、よろしく。蒼くん、白ちゃん」
「ああ、よろしく、スリーヤ」
「……よろしく」
握手やハグのような挨拶はなかったが、白が完全に警戒モードになってしまった。せっかく休憩できる時間だったのに。ごめんな?
「メガスライムの討伐、ありがとう。あれは本来僕がやるべきだけど、僕も帰ってきたのはさっきでね」
「帰ってきた?どこかに行っていたんですか?」
「ああ、王都に用事があってね。少し遠出をしていたんだ。」
王都。この世界には王がいるのか。きっと豪勢な生活をしているのだろう。
……見ていないのにそう言うのは良くないか。まあ、本当に豪勢な生活をしているなら、すぐさまその場を下ろしてやるのも面白いかもしれないな。
王都から連想して想像と妄想を膨らませていると、スリーヤの少し奥、先程ミレイナが退出した、ドアのない通り道からミレイナが顔を覗かせているのに気づいた。
「なんで見てるんですか」
「邪魔するのも悪いかと思って。ね?スリーヤ?」
話を振られたスリーヤは、夢を見ているのだと思ったらしく、頬を叩いて現実に戻ろうとしている。
数回頬を叩いて、現実だと理解したスリーヤはミレイナに少し赤くなった顔を向けて訊く。
「ミレイナ、その、体調はもう大丈夫なのかい…?」
「ええ、二人が回復魔法で良くしてもらいましたから、元気一杯ですよ」
「そうだったのか。ますます君たちに興味が湧いてきたよ」
「は、はは……」
こうして、スリーヤに興味を持たれた俺たちは、ミレイナとスリーヤを対面に、面接のような状態になってしまった。
「これがお二人の冒険者ライセンスです」
差し出されたのは名刺くらいの大きさで、少し硬い素材で作られたカード。名前、役職、冒険者ナンバー、それに、大きくFが書いてある。
「今は作ったばかりなのでランクはFです。ですが、今ならランクをCまで上げられますよ?」
「いや、上げるなら一つでいい」
「白もそれでいい」
俺たちの昇格をなぜか残念がるミレイナ。別にいいだろ。というか、駄目ならなぜ訊いたし。
「せっかくランクを三段階も上げられるのに、もったいないよ?」
「いや、面倒臭いので」
「面倒臭いし、いい」
「そう……」
なぜランクを上げなかったか。それは簡単だ。ランクが上がるということは、依頼の受注範囲が増えるということだ。
つまり、今日のような面倒臭い依頼も増えるということだ。
「とりあえず、ランクはEに上げるのは絶対だから、上げておくわね」
「……仕方ない」
白がミレイナにライセンスを渡すので、俺も同じようにライセンスを渡す。
ミレイナは冒険者ライセンスに魔法をかけたのか、俺たちの冒険者ライセンスのFの文字は、Eに変わった。
「これからも頑張ってね?」
「ん、気が向いたら」
白の返答に苦笑いを浮かべたミレイナは机の下に置いてあった箱から何かを取り出して机の上に置いた。
「これ、なに?」
「報酬よ。依頼を達成すれば、ギルドからお金が貰えるの。貰ったお金で家を買ったり、食べ物を買ったりできるわ」
「へぇ、そういえば報酬って、どのくらいでしたか?確認せずに受けたから分からなくて」
ミレイナとスリーヤは驚いた顔をする。ちゃんと見てなかったんだから仕方ないだろう。
差し出されたのは一枚の金色の硬貨。
「1ゴールドです。価値は100シルバーと同じですよ」
なんと。アリストから貰った計5シルバーに比べてはるかに多い。
そこまではありがたかったのだが。
「シルバーが足りないから、二人分に分けられなくて」
冒険者ギルドでシルバーが足りないとなると、このゴールド、もしかするとお守り状態になってしまうのではないか?
「王都なら、交換できると思うけど、シトロニでは難しいかもしれないな……」
「王都か。行ってみたいところではあるし、行ったついでに銀貨に変えてもらうよ」
さて、予定もできた。どうせなら王都への宅配みたいな依頼がないか見てみるのもいいか。
「じゃ、俺たちは帰るかな」
「また、お願いするね」
「今日みたいな依頼は嫌」
白がしっかり断り、俺たちは苦笑いを浮かべたミレイナと、ニヤニヤが止まらないスリーヤに挨拶をしてから冒険者ギルドを出ると、真っ直ぐティナの家へと向かった。