4.異世界での冒険者
ティナの案内により、俺たちは村の中心地へと戻ってきた。ティナはさすがに人前で背負われるのは恥ずかしかったらしく、途中から自分で歩いていた。
そして、訪れた冒険者ギルドには少し人溜まりができていた。
「人がいっぱい」
「だな」
「そうですか?」
「いなくなるのを待ちたい」
「それは同感だ」
「え、入らないんですか?」
背中から疑問の声が飛んでくる。伊達に引きこもりをしていた人間をナメないでほしい。アメリカに行ったときはフード被って行って職質されたこともある。いつも陽キャのプロゲーマーに助けてもらったが。
「こんなのいつもより少ないくらいですよ。ほら、行きますよ。登録もしないといけないんですから」
「うー、仕方ない。今日は帰ろう。ね、にぃ?」
「そうだな。今日はやることやったし、帰るか!」
「ちょっと、二人とも帰ったら駄目ですよ!?」
ティナにガシッと手を掴まれる。
ったく、仕方ない。今日だけは行ってやらんでもない。
冒険者ギルドの前には、約20人くらいの冒険者のような人たちが集まっていただけだった。
もっと冒険者がいるのかと思いきや、ギルドの中はどの机にも空き席が見られた。
「あ、蒼くん、白ちゃん、こっちこっち!」
声の主を探すと、そこはギルドのカウンター。なぜミレイナがカウンターに?
「私、ギルドマスターから正式に雇われてて、今日から復帰できるの。二人のおかげでね」
「そうだったんですか。それで、冒険者になるには?」
「これを書いてもらわないといけないの」
差し出されたのは、同じ二枚の紙。左上には新規冒険者用手続き書類と書いてある。本来の言語で書いてあったら読めなかっただろう。
そういえば、アリストに役職は別にしろと言われていた。さて、この剣士と魔法使い、どちらにしようか。
「白は剣振れない」
「了解、魔法使いね。じゃ、俺は剣士だな」
役職を決め、後は冒険者適性を答えていった。
そして、ミレイナに書類を提出し、無事に書類は処理された。ただ、白が適性年齢の15歳より一歳足りていないということはスルーされて。
「はい。これで手続きは終わりです。そういえば、蒼くんは剣を持っていないようだけど、剣は?」
「ああ、これがあるので」
アイテムボックスから木刀を出して、ミレイナに見せるも、ミレイナは渋った顔をする。
「これ、刃先が金属じゃないから、剣とは認められないわ」
「えっ」
なんだそのルール。木刀が剣じゃないと言いたいのか。本当は中に刀のような刃が入っていたりする……ないか。まず外れる設計になっていない。
「そうだ。私の家に昔私が使っていた剣があるから、それを使っていいよ」
「いいんですか?」
「いいわよ。何もお礼ができていなかったし、どうせなら、盾も持っていってもいいよ?」
「本当にいいんですか!?」
「いいわよ。なんせ命の恩人ですもの」
人助けっていいなぁ。こうやって良いことが返ってくる。
ミレイナにはお礼を言って、ミレイナの家へと戻り、倉庫から、鉄の剣と盾をもらった。
女性用の剣は軽い素材で作られていて、表面に鉄を使っていて、強度を確保しているようだ。軽いのはありがたい。腕が痛くならないように練習しなければ。
剣と盾をアイテムボックスに入れた途端、目の前にアリストが現れた。
『おめでとう!一つ目のミッション達成だよ!さあ、願いを聞こう!』
スマホのメモアプリの一つ目の項目には、『達成!』と表示され、ミッションの内容が表示されていた。
……装備(武器)を手に入れよう。
この世界では、木刀は武器ではなかったらしい。
「最強の装備が欲しいって言ったらくれるのか?」
『一つしか渡せないけどいいの?』
「一つはいいのか。ちょっと気になるな」
「ん、気になる」
『分かった!なら、これをどうぞ!』
アリストは白に光る玉を渡し、白がその玉に触れると、白が白い光に包まれた。
「白!?」
俺が叫ぶと、光は弱くなっていき、頭に三角が二つついている。白は不思議そうに頭についたものをさわるが、何がついているのかは分からないようだ。
「なにこれ」
『はいっ、鏡で見てみるといいよ!』
白はアリストが造り出した手鏡を見て、「ね、猫耳……」と少し動揺していた。
正直とても似合っているぞ?
兄としては妹の猫耳は癒しでしかない。これが最強装備の一つか。
……ん?最強装備…?これが?
「効果はあるのか?」
「地図が表示されてる。ゲームのマップみたいなの」
白は空中に地図を呼び起こし、触れられない地図を上から見たり、下から見たりしている。
上から見ても、下から見ても左右が反転しない。地面の中から見れてるのか?
「つまり、猫耳を装備しておけば、地図いらないってこと?」
「そうかも」
最強装備の一つ、猫耳には猫要素のない地図を表示するという、最強っぽい能力がついていた。多分他にもあるだろうが、地図だけでもとても便利だ。
しかし、白は猫耳を外してしまう。せっかくの癒し要素だったのに。
「でも、恥ずかしいからいらない」
『そっかぁ~。まあ、最初から最強装備があったら楽しさ半減だもんね~!』
白は外した猫耳をアリストへと返す。アリストはその猫耳を光の玉にして、今度は違う光の玉を造り出す。
今度は何が出てくるのだろう?
『君たちに必要なものを渡しておくよ』
「必要…?」
光が一段と強くなると、布袋に入った、銅と銀のコインが手元に現れた。
『君たちにはこの世界の通貨の2シルバーと50カッパーずつ、今回の報酬で渡しておくよ。無一文じゃ、依頼すら受けられないからね!』
「先に言えよ」
『まだ初めの方だから先だよ?』
「さいですか」
『賽だけに?』
「「は?」」
とりあえずもらった布袋ごとアイテムボックスに放り込んだ。
「んで、どれくらいの……」
『あ、誰か来たみたいだし、僕はまた帰らせてもらうよ!』
「は?おい待て!」
『引き続き頑張ってね~!』
静止させようと声をかけたが、アリストは俺の静止を無視して消える。
この銅と銀の価値はどれほどのものなのか聞こうかと思ったのだが。
そしてアリストが言ったように、倉庫の扉からティナが顔を出した。
「蒼さん、白さん、剣と盾はありましたか?」
戻るのが遅かったので、心配して来てくれたらしい。ティナに剣と盾を見せると、ティナは剣や盾をさわったことがないらしく、ペタペタと剣の持ち手や盾の表面をさわっていた。
さわるのに満足したのか、剣と盾を返してくれた。そして、何かを思い出したらしく、俺の手を引く。
「お、おい!どこに連れてくんだ!」
「冒険者ギルドです!お母さんが呼んでました!」
「ミレイナから…?」
一抹の不安を持ち、冒険者ギルドへと向かった。
冒険者ギルドの前には、先程の群衆はおらず、スルッと中へ入れた。
冒険者ギルドの中の席には誰もいない。
カウンターにはミレイナと他数人が集まって何かを話している。
「誰かが回収しなかったスライムの魔石を取り込んだスライムがメガスライムになったんだって」
「メガスライムなんて、ランクC以上が目安じゃない!この村にはギルマス以外はみんなDまでしかいないのよ!?」
スライム……魔石……回収しなかった……。そういえば、昨日のスライムのあの石みたいなものは回収していなかったな。というか、石を取り込んだスライムだと思い込んでいた。
回収しなかったことを思い出していると、ミレイナが俺たちを見つけ、カウンターを回って、こちらに近づいてくる。
「蒼くん、白ちゃん!二人の力を見込んで、この依頼を受けてほしいの!誰もこの依頼を受けてくれなくて…!」
見せらせたのは、先程の話で出てきたメガスライム一匹の討伐依頼書。
これは諸悪の根元が引き受けるべきだろう。
「分かりました。受けます」
「っ、気をつけてね……」
「うん。気をつける」
ティナはミレイナと一緒に残らせ、俺たちは依頼を受けて森へと向かった。