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異世界に10個だけ何かを持ち込めるそうです  作者: ペんぎn
第一章 始まりの大地
3/15

3.異世界での貴族様

 完全に光が散って消えると、喉から鳴る音はなくなり、ベッドの上からは「えっ!?」と、すっとんきょうな声が上がった。


「体が軽く…?」

「「お母さん!」」

「うおっ」

「むぎゅ」


ティナとユナに押し潰されながらミレイナを見ると、すでに一人で上体を起こせていた。


「痛くない。凄いわ!二人とも魔法が使えるなんて!」

「え、え、えと……」

「あ、ありがとうございます…?」

「本当にありがとう。何かお礼をしたいけれど……」

「なら、部屋を一室だけ貸してくれれば、それだけで俺たちは大丈夫なんで」


俺たちは空き部屋を一室貸してもらった。石壁には窓をさらに付けようとしていたのか白線が何本も引かれている。何かの落書きだろうか。

 ほとんどない荷物を一室に置き、白と会議を始める。


「これからどうする?さすがにカップ麺だけではもたないだろ」

「……うん」


3日分で3食、それが2人分で18個。森で二つ消費して残り16個。

第一に他の食糧を確保するべきだろう。


『お困りのようだね!』

「うおっ!?」


アリストがどことなく現れ、部屋の床に着地する。白がアリストに何をしに来たのか訊くと、アリストは自信満々に胸を張る。


『ふふん、2人にお助けしに来たんだよ!そうだな、今なら聞きたいことを何でも答えてあげるよ!』

「ほう?なら、俺から聞こう。この世界の()()は飯を食うのか?」


この世界の住人が食糧を必要とするなら、必然的に食糧はどこかにある。ないと言われれば魚でも捕って食べるか。


『食べるよ。1日に3回は基本かな?ずっと食べないと君たちと同じように死ぬ』

「なるほど。食事文化があるのは助かるな」

『どういたしまして!』


別にアリストに言ったわけではないのだが……いや、この世界を作っているなら、お礼はアリストに言うべきか?


『白ちゃんは何か聞きたいことあるかい?』

「この世界は自然経済か貨幣経済かどっち」


そうか、自然経済の場合、物々交換が主なので、俺たち側からの「物」が必要になる。食糧を得るまでに何かを失うとなると、貨幣経済でなければ困る。

 アリストはニヤッと笑みを浮かべる。


『後者だよ』

「……そう」

『それに、この世界は共通金貨制で、どこでも同じ金貨が使えるよ』


なるほど。それは便利だ。だが、ここまで来るとこうも思えてしまう。ご都合主義か、と。

どうやら口に出ていたらしく、アリストはやれやれといったようなポーズをする。


『何を。君たちのいた世界に必要だった制度じゃないか』

「アメリカでは面倒臭かった」

「あぁ、あの時か……」


以前ゲームの大会の参加のため、アメリカに行ったことがある。その時に為替やら価値の違いやらで面倒臭い思いをした。


『君たちの過去までは知らないけど、面倒臭かっただろう?だからこの世界はそのシステムを排除したんだ!』


神様様々……言いづらいな。ありがとう神様。これでどこに行くにも楽だ。


『そうだ!君たちに助言をしておくよ!』

「なに?」

『君たちはこれからいろいろ厄介なことに巻き込まれるだろう!』

「お前が巻き込むからか?」

『うん!』


コイツ、言い切りやがった。


『それで、君たちにはまず冒険者ギルドに入ってもらう。それも、二人は別の役職でね!』

「なんで別にするんだ?」

『それは見てる僕が楽しいからだよ!』

「左様ですか」


どうせ元の世界に帰れるはずだ。今だけはコイツの良いようにされておくか。


『というわけで、君たちのスマホにやることリストを登録してあるから、それを頼りにすると良いよ!』


スマホをアイテムボックスから取り出し、メモアプリに何か記述され、一つ一つマークがされているのが分かる。だが、その内容はほとんどが「?????をしろ」や「?????を倒せ」と、重要な部分が見えなくなっている。


「これじゃ分からない」

『最初から分かってたら面白くないでしょ?だから、そのときが来たら開放されるシステムにしておいたんだ!』


なんとまたありがたくないことを!


「これを達成して、俺たちに何のメリットが?」

『君たちが必要だと言ったものをあげるよ。ああ、安心して。ちゃんとクリアしたときに聞きに行くからね!』

「それじゃ、とりあえず俺たちは冒険者ギルドに行けばいいんだな」

『そういうこと。あ、誰か来るみたい!僕はこのへんで帰らせてもらうよ!じゃあね!』


アリストが弱い光に包まれ消えると、コンコンと扉をノックする音が聞こえる。


「ティナです。蒼さん、白さん、入ってもよろしいでしょうか」

「ああ、入ってくれ」


扉が開くと、そこにはティナだけでなく、ユナとミレイナまでいた。


「蒼くん、白ちゃん、こんな時間にごめんなさいね。ちゃんとお礼がしたくて」

「あぁ、あれはたまたま上手くいっただけですから」


実際のところ、完全に良くなったのかも分からないし、いつ悪化してもおかしくないというのが現状だ。この世界の医者みたいな人に見てもらった方が安心する。


「たまたまでも、それは凄いことよ?あ、それで、お礼のことで二人は何かしてほしいことはある?」


俺は白に視線を送ってみる。こういうのは白に任せるのが安泰だ。


「この村の地図がほしい、です」

「地図なら、壁に描いてあるのがそうよ。子どもたちが昔に遊んで描いたものだけど」


ミレイナが指差す先は石壁。白線が道で、丸は家らしい。てっきり窓枠と釘の位置だと思っていた。

だが、正直これでは分からない。もっと正確な地図はないのだろうか。


「領主はこの村の地図、持ってる?」


そうか、領主なら村を管理する者として持っているかもしれない。さすがは頭の回る白だ。


「領主様なら持っていると思いますよ。快く貸して頂けると思います」

「そうか。なら、明日は領主の屋敷と冒険者ギルドだな」


ミレイナは冒険者ギルドと聞いて、ズイッと顔を寄せてくる。


「冒険者ギルドなら、私に任せて!私と同じ年の者が今のギルドマスターをしてるから、すぐにできるわ」

「え、なら、お願いします?」


勢いのまま任せてしまった。ミレイナに頼んで大丈夫なのだろうか。無理して体を痛めなければいいが。



 翌朝、ミレイナとユナは冒険者ギルドへ、俺と白、ティナは領主のお屋敷へと赴いた。

 領主のお屋敷には門番らしき人が二人立っていた。

二人ともティナと面識があるようで、ティナの話を聞いた二人のうちの一人に案内してもらった。

 広いお屋敷にはいくつもの部屋があり、どこにどんな部屋があるのか覚えられる気がしない。

 門番は一つの部屋の前で立ち止まり、扉をノックする。

中から男の声で「なんだ」と聞こえた。


「オズワルト様、迷い人がいらっしゃいました」

「何っ、すぐに行く!面会室へ先に案内しろ!」

「分かりました。では、こちらへ」


中からの声が丸聞こえだったが、門番は丁寧に案内を続けた。

 面会室らしい場所に入り、俺たちは横に長いソファーに腰かけた。門番は分かるが、なぜかティナは座ろうとはしなかった。

 ソファーで待つこと数分、待ち望んだ存在がやってきた。無言のまま俺たちの正面に座る男。服装からして如何にも領主らしい。


「私はオズワルト・シュトーラス。このシトロニの領主だ。迷い人よ、名前を伺ってもよろしいか?」


シトロニ?この、と言ったということは、この村の名前か?

いや、まずは名乗ることからだ。


「俺は蒼。こっちは妹の白だ。呼びやすいように呼んでくれ。あと、無理に丁寧に言わなくてもいい」

「そうか、ありがとう。蒼と白、だな。よろしく頼む」

「ああ、よろしく」

「……よろしく」


挨拶も済んだことだ。聞きたいことは山ほどある。


「オズワルトさん、私、聞きたいことがある」

「ほう?」


白が言い出すのは珍しい。いつもある程度相手の内心を知ってから話すのだが。何を聞くつもりなのだろう。


「あの()、誰?」


白が指差す先には、ティナとくらいの背の女の子がいた。面会室にいる人全員からの視線を受け、扉より手前に来た女の子。視線は常に俺たちに向いている。


「……ミア、お父さん大切な話があると言っただろう?」

「うぅ、ごめんなさい」


反省しているのか、ミアと呼ばれた女の子は俯いてしまった。


「えっと、ミアって言ったか?どうせなら一緒に話をするのはどうだ?」

「え、でも……」


ミアはオズワルトを見て、どうやら許可を貰いたいらしい。

オズワルトも娘の上目遣いには負けたらしく、その場にいることを許可した。


「すまないな。ミアも増えてしまって」

「いえいえ。あ、そうだ。この村の地図ってあったりします?」

「地図?まあ、あるにはあるが、こんな小さい村の地図を持っていくのか?」

「まあ、そんなところです」

「そうか。なら、少し待ってくれ。地図を持ってくる」


門番を使ったり、他の人を使ったりしないのだろうかと思ったが、地図を受けとるという結果が変わらなければいいだろう。

 そしてこの子、ミアは白の髪に興味津々で、触りたがっている。白より身長は高いのは確実だが、少し子どもらしさを感じる。

 一方、白はミアのことを気にすることなく、あたりを見渡している。


「にぃ、ティナがそわそわしてる」

「え?あ、ほんとだ。ティナ、こっちに来たらどうだ?」


ティナはビクッと体を固まらせ、足と手を同時に出してこちらに近づいてくる。なぜそんなに緊張しているんだ?


「み、ミア様、は、はじめまして、ティナ・サテラードです」


初めて本名を聞いた。ミドルネームはないのだろうか。……いや、どうでもいいか。


「はじめまして、ティナ。私はミア・シュトーラス。様は付けずとも呼んでください」

「そ、そんな!ミア様を様なしでは呼べません!」

「そんなに緊張することか?ミアは緊張してなさそうだぞ?」

「み、身分が違いますから、当たり前です!」


身分?ああ、そうか。相手が領主となれば、それはそれは立派な貴族様なわけだ。緊張するのも無理がない気がする。あれ?でも、俺たち緊張してないな?なんでだ?


「すまない。遅くなっ……ミアはしっかり座りなさい」

「まあまあ、いいじゃないですか。それがこの村の地図ですか?」

「ああ、そうだ。地図の説明は……」

「必要ない。白たち、字も読めるから」


地図上の文字は全て日本語に見える。この世界の話し声も日本語に聞こえる。これも白が最後の『異世界で必要な能力』のおかげだろう。

……白、マジでありがとう。



 オズワルトから地図は受け取り、俺たちは緊張しきったティナを背負って屋敷を出た。


「すみません。案内する役が背負ってもらうなんて……」

「いいのいいの。いつか払っ!?」


「払ってもらうぞ、何でとは言わないが」と言いたかったのだが、白から脇腹に肘をねじ込まれて最後まで言えなかった。

ティナは俺が痛みに耐えているのに驚いていて、心配をしてくれた。だが、肘を入れた当の本人は知らん顔をしている。

……白さん、お兄さんは暴力は反対です……。

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