2.異世界での人助け
助けてくださいと言った女の子の後ろからは、水色の液体のようなボディーに、白い縦長の目らしきものをつけた敵(?)が追いかけてきていた。
角のように伸びたところもないし、悪いスライムじゃないと主張するわけでもないが、スライムとでも言えばいいのだろうか?
とりあえず木刀をアイテムボックスから出し、スライムに向けて構える。
女の子は俺の後ろで見守る白に隠れて俺を見守っている。女の子は白より背が高いので、白では完全に隠れられていない。
女の子を守ることを優先して、まっすぐ向かってくるスライムを見る。
「うぉりゃぁ!」
手前で跳び跳ねたスライムをめがけて木刀を縦に振り下ろすと、スライムの核らしきものに木刀がぶつかり、スライムは地面で跳ねてさらに遠くへ飛んで行く。
吹き飛んだスライムは、どうやら俺をターゲットにしたらしく、長細い白い目を向けてくる。
もう一度木刀を構えると、白の後ろに隠れている女の子が言う。
「だ、駄目ですっ!その武器じゃスライムは倒せません!」
「なにぃ!?何なら倒せるんだ!?」
「もっと鋭い武器か、魔法です!」
「魔法!?」
魔法があるなんて、この世界はゲームの世界か?
そんなことを考えている間にも、スライムは体当たりしようと跳びかかってくるので、それを木刀で弾き飛ばし距離をつくる。
魔法があるならかなり立ち回りを複雑にできるが、魔法の使い方なんて知っているはずがない。
そう、魔法の使い方など知っているはずがないのだが、背後から技名が聞こえたのだ。
「フレイムっ!」
後方からテニスボールほどの大きさの火の玉が飛んでいき、火の玉はスライムに命中した。
スライムは火の玉によって燃え、水色の核以外は燃え尽きた。
スライムの脅威は去り、先程の女の子が振り返ると、手を見つめる白がいた。
「白がやったのか!」
「イメージしたら、できた」
「偉いぞ、白!」
白が面倒臭がって切らずに放置した長い髪をわしゃわしゃ撫でると、頭一つ低い白はほとんど崩れなかった髪を直しながら、
「ん……白、偉い」
と、満足そうにする。
その光景を見ていた女の子は、声をかけにくそうに尋ねる。
「助けていただき、ありがとうございました。剣や魔法が使えるということは、冒険者さんだったんですね!」
ん、冒険者?この世界には冒険者とやらがいるのか?本当にゲームみたいな世界じゃないか。
「白たちは冒険者じゃない。」
「え、冒険者さんじゃないんですか!?」
この反応的に冒険者は本当にこの世界には普通にいるようだ。だが、この女の子は武器を持っていないし、魔法が使えるなら、助けを求めてくることもなかったはずだ。この子は冒険者じゃないのか?
「それなら、貴族様でしょうか?でも、どうして貴族様がこんなところに?」
「あー、別に俺たちは貴族でもなんでもなくてな。なんて説明するべきか……」
とりあえず、気がついたらここにいたことや、魔法の知識がないこと、そして、この世界の知識がないことを女の子に説明した。
女の子は何か考えていたようだが、思い当たりのあるものがあるらしく、手をパンッと合わせた。
「迷い人さんですね。私がいる村の伝記に、この迷いの森には百年に一度、迷い人が現れるという記述があるんです」
「なら、俺たちはその迷い人ってわけだ。なら、百年前に来たやつが生きていれば、どう生活したか分かるかもな」
「その、村の記録だと、前回迷い人が来たのは二百年前なんです」
俺と白で2人分。一人あたり百年なので二百年か。誤差があったとしても、さすがに二百年生きる人間は聞いたことがない。
「迷い人さんなら、私の家に来ますか?」
「いいのか?」
助けていただいたお礼です、と笑う女の子に、今度は白が何か聞きたそうにしている。
「どうした、白?」
「え、えと、あなたは、どうして森に来たの?」
「それはですね……あ、そうでした!私、探し物をしていたんです!」
「探し物か。何を探してるんだ?」
協力を申し出ると、女の子は遠慮する。正直、遠慮されても困る。俺たちは村の方向はおろか、どこにいるのかも分からないのだ。安全なところに連れていってくれ。
「白たち、あなたの村の場所知らない」
「あ、なら、先に私の家に案内して……」
「いや、それは効率が悪い。それに、探し物も三人でした方が早く見つかるだろ」
「ありがとうございます。えっと、名前はなんとおっしゃるのでしょうか?」
そういえば自己紹介をしていなかった。
女の子は、『ティナ』と名乗る。
「俺は蒼。で、妹の白だ。」
「ティナ、よろしく」
「蒼さん、白さん、よろしくお願いします」
名前も分かったので、まずは探し物を見つけることにする。特徴があるか訊くと、一際目立つ葉っぱ、とのことだ。
「葉っぱか……白、どこかで見かけたか?」
白は首を横に振る。それもそうだ。木の枝を拾いに行った俺ですら見ていないのだから、あまり動かず準備していた白が見ているとは考えにくい。
だが、はっと何かに気づいた白は俺の方を指差す。
……俺は葉っぱじゃないぞ?
「にぃじゃない。にぃの後ろ」
白が言う後ろを振り返るが、別に葉っぱのようなものはない。あるのは木と雑草くらいだ。
「52メートル先に他と違うのがある」
「え、見えるんですか?」
白はティナの質問に頷き、
「あれじゃないかもしれないけど」
と自信なさげに言う。
「とりあえず行ってみるか。探し物かもしれないしさ」
「そうですね。行ってみましょうか」
三人で森を進んでいき、白が言っていたあたりに着いた。俺は葉っぱを見つけられていないので、白にどこにあったかを聞く。
白は「これ」と言って、近くにあった木の下の陰を指差す。
その指の先には、他の葉っぱよりも強い緑色をしている。
その葉っぱを見たティナは、しゃがみこんでじっと見ると、葉っぱを摘んで立ち上がった。
「これです!薬草です!」
「あってた」
「ナイスだ。白」
「ふふん」
さすがは我が妹。ゲームでも優れた空間把握能力で助かったことも少なくない。
「見つかってよかったです」
「薬草って、どこか悪いところでもあるのか?」
見た限りティナには悪そうなところはない。となると、ティナの家族か知り合いあたりに体調の優れない者がいるのだろうか。
「お母さんが、一週間ほど前から動けなくて、一人で森に飛び出してきたのが今日です」
「魔法で治すとかはできないのか?」
「一応できるんですけど、私の村にはそういった魔法を使える人がいないんです……」
なるほど。それなら、俺たちが上手くイメージできれば、ティナの母親の疾患を魔法で治せるかもしれない。
「とりあえず、目的も達成したことだし、一度村に案内してくれないか」
「分かりました。お二人が気に入ると嬉しいですけど」
そう言って、ティナは村へと俺たちを案内してくれた。
きっと、ここが村の入り口なのだろう。木の柵で囲われた村の入り口には、棒の先に光沢のある金属を付けた、多分槍であろうものを持つ人がいた。
その人はティナを見ると、ティナに駆け寄り、ティナの安否を確認していた。
「ティナちゃん!大丈夫かい?村の人たちが『ティナちゃんがいなくなった』って大騒ぎで、俺も心配だったんだよ!」
「すみません、リュートさん。薬草を採りにいっただけです。それに、迷い人さんと会いました。」
迷い人という単語を聞いて、リュートと呼ばれていた人物は、槍を手放して俺の両肩を掴む。
「君たちが迷い人様なのか!?ティナを守ってくれてありがとう!」
「ど、どうも…?」
「…………」
白はリュートに関わりたくなさそうに少し距離を取って、リュートに両肩を掴まれた俺に『任せた』と言いたげに視線を送ってくる。
「その、村の中に入れてもらってもいいでしょうか?」
「ああ、いいとも!そうだ、領主様に会いに行くといい。領主様なら土地でも何でも分けてくれるさ!」
「ありがとう。後で行ってみるよ」
リュートにお礼を言い、村に入ると、違和感があった。
昼間なのに外出する人が少ないのだ。もしかすると、この世界の住人たちは夜行性なのかもしれないが、ティナやリュートとかいう門番は全く眠そうにはしてなかった。
リュートは大騒ぎしていたなどと言っていたが、誇張表現ではないだろうか。大騒ぎするなら、もっと住民が外に出ているはずだ。
リュートへの信頼が少し下がった。まあ、もとより0に等しいが。
ティナが「そういえば」と言い、何か思い出して言おうとしていたので、聞き逃さないようにそちらに気を向ける。
「領主様のお屋敷はこの村の最北端にあります。私の家は西寄りで方向的には違いますけど、寄っていきますか?」
「いや、先にティナの母親の容態を見たい」
「分かりました。では、領主様のお屋敷には……」
その後に続く言葉が「後日案内します」だとなんとなく理解し、断るついでに話をねじ込む。
「どうせ後から行くことになるから、そのときに挨拶しておくよ。そうだ、冒険者になるにはどうすればいい?」
「冒険者になるなら、まずは冒険者ギルドにいかないといけません。そこで登録すれば冒険者になれます」
冒険者ギルド……多分あの剣と弓の看板らしきものがついた建物だろう。その隣の建物は、がま口の看板か?まさか、商業系もあるのか?
村の中心から全方位を見回すと、少し遠くにお屋敷らしきものも見えた。多分あれが領主の屋敷だろう。
村の中では市場なども行われていたが、あまり人を見かけることもなかった。
しばらく歩いていると、ティナが足を止めて振り返った。
「着きました。ここです」
これは、家だ。家なのは間違いないが、日本では見られないタイプの、石でできた家だ。
「どうぞ。簡素な家ですが」
「どこが。立派な家じゃないか」
「そう言っていただけると嬉しいです」
ティナの家に入り、すぐにティナの母親が入るらしい部屋に案内してもらうと、母親らしき人物がベッドの上で寝ており、その横で手を握った、ティナよりもさらに背の低い女の子がいた。
その女の子は、ティナを見るとすぐに飛びかかろうとしたが、俺たちを見て飛びかかるのを止めた。
「お姉ちゃん、その人たち誰?」
「ユナ、この人たちは迷い人さんで、こっちの背の高いお兄さんが蒼さん、その妹さんが白さん、覚えた?」
ユナと呼ばれた女の子は、元気一杯に挨拶してくる。
「蒼さんと白さん!よろしくね!」
「よろしくな」
「よろしく」
さすがにはしゃぎすぎたのか、ティナとユナの母親が辛そうに上体を持ち上げる。
「こんにちは。私はミレイナ。蒼さん、白さん。こんな格好で悪いけど、迷い人なら、ゆっくりしていってね。ゴホッゴホッ!」
ティナはすかさずミレイナを支えて、ゆっくりとベッドにミレイナを倒す。息をする度に喉がヒューヒューと鳴っているのが聞こえる。
かなり体調が悪そうだ。それに、これは普通の病気ではなさそうだ。
「お母さん…!」
「……にぃ、これって」
「ああ、肺がんだ。俺たちの母親と同じく」
だからこそ、と言っては良くない気もするが、実際、イメージは掴みやすい。魔法はイメージだ。どれだけイメージできるかが、魔法の精度を高めるのに大きく変わる。
介抱をしているティナの横で床に膝をつける。それは白も同じで、俺たちが何をするのかよく分かっていなさそうなティナは訊ねてくる。
「え、なにかするんですか?」
「「絶対に、この病気を治す」」
「え…?」
ティナが後退してできた隙間へとずれ、ミレイナの顔の横あたりまで移動した。白は胸の横あたりまで移動した。
ミレイナの胸の上あたりに手をかざし、ここからはイメージができるかだ。
イメージを強くすると、手のあたりからだんだん緑色の光が出てくる。
使うのは回復魔法ならばお馴染みのこの魔法だ。
「「……治癒」」
一瞬だけ緑色の光が強くなり、すぐに光は周りに散って消えていった。