一章 ニ話 今日この日
二話です
刀剣国家 ブレイドラグナ
カミイズミが道場を構える、武を尊ぶ国。
アバターを用いた武術大会が盛んであり、その歴史は200年ほどである。
カミイズミが自国にいたときに行われていた、時代の覇を競う大会をモデルにして、カミイズミが発案し、その大会で発展。
カミイズミは剣聖という規格外のため、出場はできないが、弟子はよく出る。
カミイズミは国家の盟主だが、名前だけ。
杜撰な国営のため滅びかけたことがあるので、今は国営を担うものを雇っている。
探索者協会
別名探協と呼ばれる。
ダンジョンに入るための資格や依頼、ダンジョンの情報だけでなく、他国の情報も仕入れられる。
危険が多いほど報酬もあがるが、受けられるものも限られる。
必ず前金を払わないといけない。
協会は各地にあり、国毎に定められた地域のみの依頼がくる。
――――
剣の無流道場奥、そこに入ることが許されているのは、カミイズミが強さを認めた卒業生のみであり、探索者協会や他の協会との連絡をするための部屋であり、会議室である
「お待ちしてました、カミイズミさん。ブレイドラグナに現在いる卒業生を集め終えてます。他数名は、現在も例の場所にて、情報を収集しています。帰還した二人は帰還のあとの休養をとらせてます」
扉のまえに立つ大男、ムラカミは恭しく一礼をした。
卒業生の一人であり、実力は道場トップクラスだ。
「ご苦労、探協のほうは?」
扉をくぐり、長い廊下を進みながら、横に付き従うムラカミに聞く。
「はい、探協からは、総長、副総長の2名と、秘書官の3名が出席なさいます。探聖は新たなダンジョンが出現したため、今回は欠席ということです。」
「そうか、あやつも忙しい身の上だ。致し方ない。」
廊下の突き当たりに到着した。
そこには取っ手のない扉があり、向こうとこちらを隔てていた。
「いくぞ」
「御意に」
壁に手を当てると、扉が開いた。
そこは長い机と、番号が割り振られた椅子、そしてそれに座る数名の卒業生がいた。
「カミイズミさん、待ってたぜ。」
「久しいな、フジサワ、妻子は息災か?」
「おうよ、あんたに教わった気導のおかげで妻の腰痛も治ったし、息子も病気に強くなったからな」
「なによりだ。サイトウもよく来てくれた。」
「あなた様に呼ばれたとあらば、どこにいても馳せ参じます。」
「もっと自由で構わないんだがな……なんでこうなったのやら」
「カミイズミさん、そろそろ」
「ああ、そうだな」
ムラカミに急かされ、自分の席に向かう。
その席には零と書かれていた。
「モニターを」
「はっ!」
カミイズミの指示を受け、モニターのスイッチを入れる。
すると、テーブルの中央に丸いモニターが浮かんだ。
『あー、あー、聞こえるか?魔電濃度、安定してるか?』
「聞こえている。声も安定しているぞ、ユタカ。」
『お、大丈夫なようだな。ようカミイズミ。元気そうだな。』
「先ほど貴様のせいで元気がなくなりかけたがな。貴様、俺のとこにガキを寄越したろ」
『あー、あいつな、なんでも外から来たっつー探索者なんだけどよ、Sランクになって名を上げるためにきた!とかなんとか言ってたな。』
道場の前で、名をあげるためにまずは鍛えないとという理由で来た青年。
名前は知らないし、カミイズミは覚える来もないが、ここにはないSランクという単語を使っていた。
「外から?ということは、あれは他国から来たのか?道理で知らないランクだと思ったが、外ではそんなものがあるのだな。」
『あるんだろうな。似た文化でも、外では違う定義があるもんだし、そこまで気にしてないんだが、別のとこが気になってよ』
『ユタカ総長、その話はまた』
『おお、そうだな。わりーわりー。さて、本題に入ろう。カミイズミ、とうとう出るんだな。』
先までの和やかな雰囲気から一転して、険しい声色で、話を始めた。
その様は、探索者協会の総長を勤めるだけあり、貫禄がある。
「ああ、常々言っていたあれを実行する。その為に俺は400年、準備をして来た。」
『400年ね、聖人てのは老化しないってのはホントなんだな。俺がガキのときからお前その姿だもんな。』
「俺の肉体の時は、400年前から進んでいない。俺が聖人としての条件、なにかとの契約破棄か、契約委譲をしない限り、少くとも老衰はせんよ」
それを聞いたら、羨ましいと思うものもいるただろうが、人は、人の心は400年も生きていられない。肉体は老衰せずとも、精神が先に壊れる。
『最初はそれ聞いたとき、羨ましいと思ったけど、お前は、400年ずっと一人だったんだもんな。道場開いたのも、確か100年前だろ?』
「そうだな、お前の親父が、盟主なんだからこんなことせんでくださいとかぼやいていた。まぁそんなことはいい。それより、探協が得た情報を頼む」
『ああ、まず、今回のお前の目的、ヒノモトだが。
約数百年、盟主がかわってない。
聖人なのかと聞かれたらそうでもないみたいだ。
というかわからないってのが現状だな。
次にそこの住民のこと、そして潜入した探索者達だが、住民の方はこう、無気力って言えばいいのか、最低限の生命活動だけをして生きてるって感じがした。年数や日数を認識する知能はあるが、どうでもいいって感じがしていたらしいな。
あとどういうわけか、ある時を境に人工が減っても増えてもいないらしい。外から来たものも、探索者数名が、同じ状態に陥り進行不能、正気で帰ってきたのは、量産魔道具『ブラストハート』をもつ一部の奴らだけだ。無気力になったやつは、こっちに戻るとケロっとしてたな。』
――――
魔道具
ダンジョンから持ち出された旧文明の遺物
いつの時代かもわからないが、素材は現存するものに似ても似つかない。
朽ちたり壊れたりする使い捨てや、用途がわからないもの、果てには秘匿されるものもある。
量産魔道具
旧文明の遺物を魔聖と建聖の下再現し、量産したもの。
能力の劣化はないが、使用時間が現物より短い。
二人曰く、過ぎた力は身を滅ぼす、道具は道具、使いはすれど、使われるのは愚の骨頂らしい。だから現物より一部の落としたものを作るというのは、どうかと思うが、新機能をつけてるからむしろ前より普及しやすいそうだ。
―――
「ブラストハート、鼓舞の魔道具か。住民の無気力、減りも増えもしない住民……ムラカミ、ヒノモトへ行ってるメンバーで、帰還したのはムラサメとサスケだったか」
「はい。帰還しているのは、ムラサメ、サスケの2名、目下潜入中なのは、キサラギとムツキの2名です。ムラサメ、サスケからは先んじて情報がきています。曰く、ブラストハートなしの探索者は、首都に近づけば近づくほど無気力になり、動かなくなる。ムラサメ達のような、あなた様に気導を教わっていた者は、なにかが入り込もうとしてる感覚があると。払い除けてはいますが、長くは保てないこと。キサラギとムツキの2名は、魔導と気導に秀でてるため、ブラストハートへのチャージも可能なので、ムラサメ達を先んじて帰したのでしょう。」
探協、弟子達からもたらされた情報を元に、あの日、自分の全てを奪ったものの能力を考える。
そこから推測するに、いくつか候補はあるが、まだ確たるものがない。
(ありえるのは、二つ。一つはあの日に自慢気に話していた『権能』、もう一つは権能を封じ込めた魔道具。)
「……探協からの情報はもうないか?」
『いや、まだあるぞ。帰ってきた魔道具士の情報なんだが、首都以外の町に、妙なものがあったらしい』
「妙なもの?魔道具ではないのか?」
『あぁ、なんでも、魔道具みたいなのに魔力を感じない、見た目はオブジェなのに、なぜか近寄ると気持ち悪くなると』
「近寄ると、気持ち悪くなるオブジェ?」
(ありえるとしたら、魔道具なんだが、魔力がない……権能は魔導ではないのか?神だの言ってたから別物かもとは考えていたが。)
情報をまとめ、推測する。
(魔力を持たないオブジェ、首都以外にはそれがあった。
ただのオブジェというならわからないでもないが、無気力な住民にわざわざそれを作らせるか?
最低限の生命活動しかしていない住民
首都に近づけば無気力になる
ブラストハート、魔道具と気導なら防げる、だが魔導では防げていないのか。
増えも減りもしない住民、ある時がいつかはわからないが、ありえるとしたら400年前。
盟主は首都にいるだけで、代替わりはしていない。
聖人ではないのは、知ってるが、聖人と同じで老化しない?)
カミイズミは、溜め息を吐きながら首を横に降る。
今回の作戦は数が必要にも関わらず、数を持っていくとお荷物が増えるジレンマがあるようだ。
確証がないことを試して、その上でどうするかも考えないといけない。
失意に沈んだあの日から400年、奮起し再起し、ここまでこぎ着けた。
何代も人の死を見た、自分のためにと死んだものもいた。
世継ぎは残せないがゆえに、盟主となり、国を立ち上げた。
「今までの全ては、今日この時、復讐を始めるためだ。だが」
顔をあげると、卒業生達が頭を垂れていた。
「カミイズミさん、我らはあなた様に大恩があります。あなた様のおかげで、救われたものたちもいます。あなた様が死地に赴くならば、大半のものが随行します。」
「遺言状は、もう用意してるぜ。妻には泣かれたが、理解してくれた。」
「あなた様が世界を敵と定め、敵とせんとするならば、それは我らにとっても同じ。我らを今使っていただかねば、我らの存在はなんでしょう」
その目にあるのは、決意。
その心に宿すのは、忠義。
彼らは、助けられたあの日から、いつかカミイズミのために動きたいと思っていた。
心を明かさない主のためにと、ずっと鍛えていた。
「……やれやれ、お前達の忠義はなんなんだ。ただ助けただけだろう。世界そのものを敵に回すほどの恩などないだろう。」
「否です、わが主。あなた様がいなければ、我らの小さな世界すら守れず、死んでいました。我らにとっての世界を救ってくださったなら、それは世界を敵に回すあなた様に随行するほどの恩です。」
「世界ってのはよくわかんねーよ。でも、カミさんと子供は、お前さんのおかげで救われたんだぜ。俺の全てだったあいつらをだ。なら、世界くらい敵に回してやるさ」
「私にとっては、あなた様こそが世界。あの日からそう、定めました。私にとっての全てであるあなた様のためなら、命など惜しくありません。ここにいない卒業生四人は、どこまでかは知りません。ですが、あなた様ほどの方が死地と定めた場所に行った決意は、疑う余地はありません。」
「……いつか来る復讐のときに使えれば御の字、無理でも健やかに過ごさせてやれたらと思ってたが。そうか……ならば遠慮なく使わせてもらおう。探協、情報提供感謝する、手間をかけさせた。全金はすぐに払うゆえ待っていろ。」
『おいおい、なに水くさいこといってんだ?まさか置いてきぼりする気か?まだ終わってねーのに貰えるかよ』
この期に及んで、自分たちに飛び火しないように切り離そうとしたことを察したのか、ユタカは報酬を出すと言ったカミイズミを止めた。
『そいつらだけじゃねーんだよ。お前さんに助けられたのはよ。そいつらほどの壊れた忠義はないけどよ、恩義はあんだからそれくらい返させろよ。』
「……揃いも揃って阿呆どもめ、死ぬかもしれない場所に行くというに」
『探索者はダンジョンっていうやばいとこにいつも行ってんだよ、今さらだ』
探索者、弟子達、忠義があるもの、恩義があるもの、それぞれが、カミイズミのために命を賭けると言った。
「あいわかった、探協、レイドクエストという形でそちらに依頼を出す。受注期限は今日のみ、受注制限は上級の三以上から、ブラストハートを全てに持たせろ。明日、声明を出すゆえ、早急に頼む。」
『おうよ!そうこなくっちゃ!聞いてたか副総長!秘書!でけー仕事だ!稼ぎ時だぜ!』
『はい、手続きを早急に行います。』
『楽しみにしてろ。お前さんの名前で出すクエストだ、どれくらいのヤツからお前が慕われてるか、その目で見やがれ。』
そう言い残しユタカは魔電モニターを切った。
カミイズミも、ムラカミ達に指示を出し、会議室をあとにした。
そして次の日の朝、クエストの締め切りの連絡をもらったカミイズミは、大広場にきていた。
「これは……」
そこには、大広場に立ちきらないほど人で溢れかえっていた。
ここにいるもの全てが、上級の探索者だと思うと、少し過剰な気さへする。
「よう、カミイズミ。きたな。」
手を振りながらこちらにユタカが近づいてきた。
傍らには、副総長はおらず、武装した二人の男のみだった。
「そいつらは?」
「お前の依頼から帰ってきた連中だよ。情報を持ち帰ったメンバーの二人だ。」
どうやら、情報収集の依頼をしたときに受けたもののようだ。
「こいつらは、俺が最も信頼するパーティーの二人だからよ。昨日、会議があったことを話したんだ。その時に、どうしてもお前に伝えたいことがあるから可能ならもう一度て言われてよ。なら今日会うからって連れてきたんだ。」
「俺に?」
「はい、カミイズミさんに直接、お伝えしたいことが」
「一体なんだ?」
「最初はとるに足らない情報だと思っていたのですが、そこの住人が、400年前という単語を出していました。カミイズミさん、あなたは400年生きてる聖人と聞いています。なにか関係があるのではと」
400年、普通なら確かに歴史の話をしてると思うだろう。
だが、無気力になり、日数や年数に無頓着になったものが400年など言うだろうか
「他にはなにを?」
「400年前の生き残り、彼ならあるいは、と。そこでしゃべる気力がなくなったのか、眠ってしまいました。」
(……400年前の、生き残り。それが俺のことなら、まさか)
「……ユタカ、ことが終わったらおそらく、時代が動く。それに順応できるか、順応の機会を与えられるかはわからないが、準備しておけ。」
「おうよ。じゃ、盟主さま、始まる前の鼓舞、お願いするよ。」
「ああ」
準備された壇上にあがる。
それに気づいたものたちは、会話をやめ、カミイズミのほうを向いた。
一人、また一人と、その状況につられて、ついには大広場すべての人間が、カミイズミのほうを向いていた。
「皆、よく来てくれた!知っているものばかりだと思うが、この場で再び声明しようと思う!俺はカミイズミ!カミイズミヨシツグ!ここ刀剣国家ブレイドラグナの盟主だ!」
何人か知らなかったのか、あの若いのがと疑問に思っているようだ。
「この見た目だが、俺は聖人で400年前から生きてる老人みたいなもんだ!別にアンチエイジングはしてないからな!そこのご婦人、羨ましそうに見られても困るぞ!」
なんでわかったのかと慌てる婦人に、少し場の空気が和む。
何人かくすくすと笑っている。
「傍聴してる者以外は知ってると思うが、今回のクエストは、俺からの正式な依頼だ!だが、この依頼の、真の理由を告げずに受けてもらうのは不義理だと思う、だから今一度、理由を聞いてから、どうするかを決めてくれ。」
いきなりなにを言い出すのかと、にわかに騒がしくなる。
それに構わず話を続けた。
「これは、このクエストは、俺個人の復讐のために探協に依頼した!」
騒がしさはさらに増す。
それもそうだろう、クエストを受けたら個人の復讐のための依頼だと言われたのだ。
なんだそれは、と思うのも無理はない。
「先に行った通り、俺は聖人だ。400年生きている。復讐対象であるヒノモトから逃げて、今日この時まで生きてる。」
一度周りを見回す。
いつの間にか騒がしかった場は静まっていた。
「400年前のできごとで、歴史書にはまず詳細には書かれていないが、ヒノモトは、神の使徒と言われるものが支配しだした。俺はその時、そこにいた。奪われ、蹂躙されたその日にだ。俺は故郷を追われ、海を渡り、ヒノモトを支配するものの手が届かない場所であるここに、逃延びた。」
一息つき、また話し出す。
「この逃延びた先で、俺は故郷を取り戻すために準備をしてきた。それが今日だ!今日この日、この時に、俺は、俺の復讐のために、故郷を取り戻すために、お前達を利用する。敵は世界そのもの、小規模だが、大陸一つを自分の世界に変えた神の使いだ!死ぬかもしれない、二度と戻れないかもしれない!そんな場所に!俺はお前たちを連れていく!今ならクエストのキャンセルも許される!少しだけ時間がある。もう一度、よく考えて決めてくれ!共に来てくれる者は、港に先にいてくれ」
言い切り壇上から降りる。
怒号はない、言われたことを理解しているからだ、来てくれるなら共に行こうと選択肢を出したからだ。
「ユタカ、俺は道場にいく。港に来てくれたものの船代は出す。あとは任せた。」
頷いたのを確認して歩きだし、道場に向かう。
「ムラカミ、ムラサメ、サスケ、フジサワ、サイトウ」
名前を呼ばれた五人は音もなく背後に現れ頭を垂れた。
「いくぞ。」
「御意に」
数分後、港には何隻もの船が並んでいた。
そこには、大広場にいた探索者のほとんどが搭乗している。
「……揃いも揃って、阿呆どもめ」
「そんだけ、お前さんに感謝してるんだよ。お飾り盟主さんよ。」
「感謝だけで命を投げ出すな」
「そんなものは我らだけで充分です。」
「いやお前らもだ。」
溜め息をついて、再度船を見る。
まさに圧巻だった。
「ほら、待ってるぜ、声明」
「声を張るのは苦手なんだがな、仕方ない。」
『皆、よく来てくれた!この場に来てくれたこと、嬉しく思う!』
口々に肯定的なことを言ってくる探索者に、周りは頷く
『これより俺たちは、大陸という一つの世界を落とす!敵は神の使徒だ!俺の故郷を、取り戻させてくれ!』
雄叫びがあがる。
今日この日から、時代が動く。
『いいね~この活気、熱気。見せてもらうよ、カミイズミ。君が、君たちが紡ぐ物語を』
感想いたたげると嬉しいでゲソ